帰り道にて 番外編

 一方その頃――。


「暑っつい……うっざ……」

「暑いです〜」

「溶けちゃいそうだねー」


 共に駅へと向かうあや夏美なつみ明里あかりの三人は、汗を滴り落としながら行軍。


 夕方とはいえ、気温は下がらない。


「絶対免許取る……‼」


 取ったところで、家の車が空いていなければ使えないのだが、持っていればレンタカーで夏美と旅行なんてできる。誘えるかどうかは別だが。


「じゃあわたし彩ちゃんに乗せてもらおー。旅行行こうよ、二人で」

「はあ? なんで」

「じゃあ夏美ちゃんと三人で?」

「私行きたいです!」

「じゃあ、彩ちゃんには免許証取ってもらわないとねー」

「はい!」


 二人は今日初めて会ったはずなのだか、もう仲良くなっている。夏美のコミュニケーション能力もあるだろうし、裏表の無い明里の柔らかい雰囲気のおかげでもある。


 二人が仲良くなるのはいいのだが、少し面白くないなと思ってしまった彩は、黙ってカワウソのぬいぐるみが入った袋の紐を握る。


「私達も日が沈んでから帰った方がよかったですかね?」


 元々帰るつもりだったが、少し後悔する夏美。


 三人で帰ろうと言い出したのは明里だ。しかし夏美の言う通り日が沈むまで待っていたら、残った三人とも一緒になる可能性がある。


「そうだ。この後どこか寄らない? まだ暑いし、少しお話したいの」

「どこかって、どこ?」


 具体的な場所まで考えていた訳ではないらしく、立ち止まって悩む明里。


「暑いから悩むのは後」

「わー押さないでー」


 明里の背中をぐいぐい押していく彩。


 どことなく緩い雰囲気で暑さをやり過ごし、駅へと向かうのだった。

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