「先輩、もういいですか？」

「だめよ」

　涼香（りょうか）が涼音（すずね）の胸に顔をつける。涼音のゆっくりとした鼓動が心地いい。

　両親の前では気丈にというか、いつも通り振舞っていたが、こうして二人になると、涼香は甘えてきた。恐らく涼香の両親は娘の様子がおかしいことに気づいていたが、なにも言わないでいてくれた。

「そろそろいいんじゃないですか？　委員長と春田（はるた）先輩にはあたしから説明しておきますから」

　涼香がこうしている理由は、紗里（さり）に家まで送ってもらっている最中、涼香が涼音にキツイ言い方をしたことを後悔しているからだ。ついでに紗里と若菜（わかな）に気を遣わせてしまったことへの後悔もある。

「いいわよ。自分でするわ」

　そう言うが、涼香が涼音から離れる気配は無い。仕方なく涼音は涼香の頭を撫でる。

　今日はもう少しこうしておこうかと考える。

　しかし、そう思った時に限って思い通りにはいかない。涼音のスマホに通知が入る。目を向けると、若菜からメッセージが来ていた。

「春田先輩からメッセージ来ましたよ、先輩の心配してくれてます」

「どうして私に直接言わないのよぉぉ」

「えぇ……」

　そりゃ直接聞けないだろう、と涼音は思ったが、それで涼香はすねたらしく、若菜に電話をかけだした。自分からしてくれるのなら別にいいかと特に止めず、離れた涼香を後ろから抱きしめる涼音であった。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい