屋内型複合レジャー施設にて 15

「先輩とボウリングって初めてですねー」

「別にあたしとって訳じゃないけど」


 あやは適当に答えた風を装いながら入念にストレッチをしている。


 本当は夏美なつみと二人が良かったのだが、まあ当然彩から誘うことはできない。だから、こうしてボウリングをする機会が貰えてにやけそうだったのだ。


 しかし夏美は、そんな彩の気持ちなど解るはずもない。少し顔を俯かせたのだが――。


「彩ちゃんは照れ隠ししてるんだよぉ」


 ソソソと夏美の近くにやってきた明里あかりが、夏美だけに聞こえる声で言う。


「えー、先輩がそんなことするはずないですよ」

「なに話してんの?」


 夏美も小さな声で返したはずだが、彩は振り向いた。


 彩の表情から、会話を聞かれたと言う訳ではなさそうだ。


「楽しみだねえって」

「はい! 先輩とボウリングが楽しみなんです!」


 キラキラ笑顔を向けてる夏美が眩しい。


「あっそ」


 彩は顔を背けて、その笑顔を浴びないようにする。浴びているのだが、顔を見られなければ問題無い。


 しかし最悪なことに、顔を背けた先にいた凜空りくと目が合った。


 凜空はなにも言う訳ではなく、ただ手を口に当てて笑いを堪えている仕草をとる。


「あんっのクソギャル……‼」


 その揶揄う仕草にイラッとした彩は、貧弱な身体の癖にボウリングなんでしたらお前ごとストライクしちまうぞ、という気持ちを込めて睨む。


 そしてそこで思い出した。


 夏美とのボウリングを楽しみたいのだが、今回やることは、夏美に涼香りょうかのやらかしを見せないようにすることだった。


 そのために夏美の気を引くため、嫌でも凜空に絡まなければならない。


「うっざ……」


 この上なくうざくて面倒なのだが、一度ボウリングに行けば、二回目以降は誘うハードルが下がるはずである。


 ということは次のボウリングは夏美と二人で来られるということだ。


 仕方ない、ここは気持ちを抑えて働こうではないかと、やれやれと息を吐く彩である。

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