水原家の台所にて 7

 家に帰ってきた涼香りょうかが、早速お菓子作りを始めようと台所へやってくる。


「あら――」


 そして冷蔵庫には一枚の紙が貼ってあった。


 その紙にはクッキーの作り方が書かれていた。


「ということは、材料は揃っているのかしら」


 クッキーは薄力粉、バター、砂糖、卵のみの簡単なものだった。


 バターは室温に戻すと書いていたため、とりあえずバターだけは冷蔵庫から出した。


 次は薄力粉を篩うのだが、これが涼音の一番心配していることだった。


 調理実習などで、扱う度にぶちまけているのだ。涼香の母や、涼音が監督していれば防ぐことができるのだが、なんせ今日は一人だ。


 だがしかし、涼香の母はそれを未然に塞ぐため、予め手を打っていた。


 薄力粉の袋の角に点線を書いており、そこをハサミで切れという指示だった。


 こうすれば、例えぶちまけたとしても被害は最小限だ。


 涼香は素直にその点線をハサミで切り、小さく開いた口から薄力粉を、予め用意されていたボウルに出す。


 使用分を出し終えた涼香が、近くに置いてあったもう一つのボウルと篩を持ってくる。


「篩うのって面倒よね」


 そんなことをボヤいた直後、頭の中に出てきた涼音すずねが言う。


『ダマを無くすため、そして空気を含ませるために必要な工程なんですよ。篩わなかったら、綺麗に生地ができません』

「前に聞いたわ、それは」 


 涼香の頭の中でのやり取りなのだが、なぜが涼香は頬を膨らませる。


『えぇ……』


 姿を消した涼音の言った通り、薄力粉を篩い始める涼香であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る