天ぷら屋にて

 皿に盛られた天ぷらをひたすら無言で食べている。


 別に涼音すずね夏美なつみも、黙ってご飯を食べるタイプでは無いのだが、二人の仲が然程良くないため、無言になる。


 サクサクと、揚げたての天ぷらが音を立てる。遠目から見れば、料理に集中している風にも見えないこともない。


「……そういえば、初めて檜山ひやまさんとご飯食べるかも……」

「そだね、あたし、先輩としか食べたこと無いし」


 正確には涼香りょうかと、その同級生だ。そのため、小学校の給食や打ち上げなどの大人数を除くと、初めて同級生とご飯を食べたことになる。


「じゃあさ、たまにでもいいから、私ともお昼ご飯食べようよ!」

「却下。そっちもと食べればいいんじゃないの?」

「それは……私もそうできたらいいなと思ってるんだけど……」


 なぜか口を尖らせる夏美に、涼音は面倒そうな目を向ける。


 毎日ではないが、あやと夏美は一緒にお昼ご飯を食べているのだろう。しかし、夏のような暑い時期は、一緒に食べることができないのだと予想を立てる。彩の性格と夏美の性格を考えればこの程度の予想、今のインテリジェンスでジーニアスな気分の涼音には赤子の手を捻るようなものだ。


「どっか教室借りるとかできないの? 綾瀬先輩って成績トップとかでしょ? だったら教室借りるとか余裕だと思うんだけど」


 見た目はどうあれ、テストの点数もいいし、授業だって真面目に受けているのだろう。教師陣からの信頼もあるはずだ。


「あー! 確かに‼ 今度先輩に聞いてみる!」


 涼音の言葉に顔を輝かせた夏美が笑う。


 これで良し。平和に遠ざけることができる。


「やっぱり檜山さんって優しいんだね」

「うるさい。さっさと食べれば?」

「えぇ……。急に冷たい……」

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