移動中にて 2

「美味しかったね」

「うん」


 そう言って歩き出す涼音すずね。どこへ行くのだろうか、夏美なつみは一瞬そんな疑問を抱いたが、すぐに答えを見つける。


「待って帰らないで‼」


 慌てて帰ろうとする涼音の腕を掴む。


「なに、もう終わりじゃないの?」

「違うよ! これからだよ!」


 夏美の思っていた通り、涼音は帰ろうとしていた。だけど素直に返す訳にはいかない。今日一日、涼音と遊ぶのだ。


「えぇ……」

「昨日言ったじゃん! 明日は遊ぼう――って」

「ほんとに覚えてないんだけど」

「興味無さすぎ……」


 改めて昨日言ったことを確認する必要がある。


「昨日、私は檜山ひやまさんに電話しました」

「うん。それは覚えてる」

「そこで、私は言ったの。明日は一日中遊ぼう――って」


 その後、涼香の説得もあり、渋々首を縦に振るのだが――。


「目的は無いの?」

「無いよ。ただ、檜山さんと遊びたかっただけだから」


 目的も無い外出に、自分が頷いたという事実に眉をひそめる。


 涼香の説得以外に、夏美に頼み込まれたからなのか、それでもなぜ自分が頷いたのか、その理由が分からない。それとも、わざと考えないようにしているのか――。


「……あっそ。あたし、汗かきたくないんだけど」

「それは昨日も聞いたよ。大丈夫、室外には出ないから!」

「それならいいけど」


 ここまで来たのだ、どうせ今帰ってもやることが無い。大人しく夏美に付き合うのが良いだろう。


「じゃあ、適当に付いていく」

「やったあ! ありがとう檜山さん!」

「やめろくっつくな!」


 抱きついてくる夏美を押し離す涼音であった。

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