駅のホームにて 4

檜山ひやまさーん! 来てくれてありがとう!」

「うるさい。目立つからやめて」


 駆けて来た夏美なつみに冷たい目を向けながら、涼音すずねは素っ気なく答える。


 同級生相手には素っ気ないで有名な涼音だ。こんな対応されても、夏美は嫌な顔せず、涼音が来てくれたことを純粋に喜ぶ。


 夏休み明け、もし夏美が同学年の友達に涼音と遊んだと話をすれば、絶対嘘だとツッコまれるはずだ。


 それ程までに二年生の涼音に対する印象は統一されている。


「で、なに? あたし暇じゃないんだけど」

「えっ……でも、水原みずはら先輩が暇だって……」


 すると片方のおさげを手で払う涼音。


「で、なに? なんで呼ばれたの?」

「あっ、うん。えっとね、やっぱり夏休みって友達と遊びたいなって思ってね? まあ、檜山さんは私なんかとは友達じゃない――って思ってると思うんだけど」

「そうだね。先輩誘おうにも受験生だし。てか他の友達いるんでしょ? そっちと遊べば?」

「でも檜山さんの友達は私しかいないでしょ?」

「はあ?」


 涼音が、自分のことは友達ではないと思っていると知っているはずなのに。


「帰っていい?」

「うわーんごめんごめん‼ 一旦落ち着こ? ね?」


 帰ろうとする涼音を必死に掴む。


「誰のせいだと思ってんの」

「昨日話したのに忘れる檜山さんのせいかな!」

「…………」


 昨日電話で誘った時、理由を言ったはずなのだが、涼音は案の定覚えていなかった。それでも約束自体を忘れられるよりかは断然マシなのでこれ以上なにも言わない。


「…………そう」

「うん。そうだよ」

「…………」

「……………………」

「…………で、どこに行くの?」


 その言葉に顔を輝かせた夏美はスマホに表示された地図を見せる。


 予め用意していたのだろうそれは、天ぷら屋にマークが付いている。


「まずはご飯! ここに行こ!」

「あー、ここ。先輩と何回か行ったことある」

「そうなの? 私も先輩と行ったことあるよ」


 お互い初めての店ではないようだ。


 恐らく、涼香りょうかあやに教えたのだろう。鬱陶しそうな顔で話を聞いている彩の顔が目に浮かぶ。


 ――かくして、涼音と夏美の夏休みのお出かけが始まるのだった。

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