真夏の勉強会編

水原家にて 15

「さあ始まったわ! 勉強会よ!」

「はあ……」


 重苦しい息を吐いた涼音すずねの視線の先には、なぜか涼音の分の教科書が積まれていた。


 目を前に向けると、涼香りょうかとそっくりの顔が微笑んでいた。


「良かったわ、涼音ちゃんも参加してくれて」

「白々しい……」


 まるで最初から、涼音が勉強に参加すると分かっていたかのような言い様だった。


「涼音がいれば私は強くなるわよ」

「なにに強くなるんですか」

「それは楽しみね、あなた達の成績を上げてあげるわ」


 涼音のツッコミは効かず、二人は噛み合っているのか分からない会話を繰り広げる。


 そしてやり取りが一段落した後、涼香の母が手を叩く。


「始めるわ、今日は中学二年から高校生までの勉強よ」

「かかってきなさい」

「これ……勉強ですよね?」


 一体、涼香はなにと戦ってるのだろうか?


「安心しなさい、死にはしないわ」


 そう言った涼香の母の声が、涼香が適当なことを言っていないことを匂わせる。


 相手は涼香の母だ、なにをやってくるのか分からない。


 涼音は唾を飲み込み、鉛筆を握りしめるのだった。

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