お風呂にて 6
「水ってね、H₂Oなのよ」
自分の前に座る
「知ってますよ」
お湯を掬って涼香の顔にかける。
「お湯がかかったわ」
「かけてるんですよ」
涼香は朝から晩まで勉強をしていたらしく、相当疲労している様子だった。
三十分も机に向かえない涼香を一日中勉強させることができるとは、さすが涼香の母である。
「疲れたわ……」
恐らく、大学の九十分の講義に耐えられるようにする訓練も兼ねているのだろう。
「明日も勉強ですか?」
「ええ、土曜日よ。お母さんは三連休らしいわ」
「逃げられないですね。ちなみにあたしは邪魔にならないよう、家に帰りますので」
涼音がそう言うと、回された腕が強く締められる。
「いーやーよー‼」
「苦しい苦しい苦しい!」
「また私を一人にするの⁉ 嫌よ、お母さんと二人っきりで勉強なんて」
「随分な言いようね」
「「この声は⁉」」
突如外から聞こえた声に二人声が揃う。
「この土日頑張れば、あなたの頭脳はそこそこのレベルになるわ」
「なんですって……⁉」
外から聞こえた無慈悲な宣告に、涼香は恐ろしいものを見たような表情を浮かべる。
「もともとのレベルが低すぎる……」
頭を抱える涼音である。
外で涼香の母の笑う声が聞こえて気配が消えた。
未だに恐ろしいものを見たような表情の涼香、涼音はそろそろ出たかったため立ち上がる。
「涼音、もう出てしまうのね」
「はい」
「明日明後日と、私に会いに来てくれないのね」
「はい」
「今日は、家で寝るの?」
その問いの答えを間違えると、恐らくもう少し風呂に浸かることとなるだろう。
「……こっちで寝ます」
「ならいいわ!」
止められることなく、風呂を出ることができた涼音であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます