鍋料理店にて

 菜々美ななみの運転でやってきたのは鍋料理専門店だ。


 鍋料理に限らず、焼肉なども楽しめるお店だった。


「ここが、おすすめのお店だよ」


 そう言ったここねが、日傘をさして車から出る。


「私こうやって友達とご飯行くなんて殆ど無いわ」

「打ち上げぐらいじゃないの?」

「そうそう。打ち上げなんてファミレスだしね」


 だから楽しみだと、菜々美と話している若菜わかなは嬉しそうに笑っている。


 四人は店に入ると、中では人が多く待っていたが、座って待つことができそうだった。


「やっぱりこの時間は多いね」


 ここねが慣れた様子で名簿に名前を書いて戻ってきて、菜々美の隣に座る。


 ここね曰、自分たちの前に五組は待っていたらしい。しばらく待つことになりそうだ。


「どれぐらいかかりそうですかね?」


 涼音すずねが戻ってきたここねに聞く。


「うーん……三十分はかかりそうかなあ」

「三十分かあ」


 どうやって暇を潰そう。そういった空気を感じ取ったのだろう隣に座る若菜が口を開く。


「ねえ涼音ちゃん、涼香りょうかはどこの大学目指してるの?」


 周りの待っている組も会話をしているし、普通に話しても迷惑にはならないだろう。


 若菜の質問に、ここねも菜々美も食いつく。


「それは私も知りたいわね」


 ここねも声には出さないが、知りたそうに菜々美越しに涼音を見ている。


「さあ? あたしと先輩のお母さんは、春田はるた先輩が志望している学校に行ってほしいんですけどね」


 そんなに期待されても、まだ進学先は決まっていないのだ。


「えー、私と同じ?」


 若菜が照れたように言う。


「はい」

「本当に行けるのかしら?」


 菜々美が真剣な表情で言う。


「はい」

「「ほんとに?」」


 重なった若菜と菜々美の声。


「はい」


 二人の真剣な眼差しに挟まれた涼音は、自信満々に頷くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る