車の中にて 4

「行ってきまーす」


 誰もいない家にそう言って外へ出た涼音すずね。外には既に菜々美ななみが車で来ていた。


 待たせてはいけないと、鍵を閉めて足早に車へ向かう。


 この前、水族館へ行った時のように、後部座席のドアを開けて中に身体を滑り込ます。


「こんにちは、車ありがとうございます」


 運転席の菜々美、助手席にはここねがいるのはこの前と同じだ。


 そして今日は、涼香りょうかとは違い――。


「やっほー☆涼音ちゃん」


 キラリと星を飛ばしてきたのは若菜わかなだった。


 そういえば、先日バスケ部を引退したと、涼香から聞いた。


「スペシャルゲストは若菜ちゃんでーす!」

「いえーい」

「こんにちは」


 とりあえず拍手をしておく。


 ゆっくりと車が進み出し、涼音の家が小さくなっていく。


「今日涼香は?」


 隣の若菜が当然知ってるよね、という風に聞いてくる。


「干からびてます」

「あー、干からびてるかあ」

「なにかあったの?」

「勉強してます。先輩のお母さんに教えられて」

「あー、あのお母さんかあ」

「わっ、そうなんだ」


 菜々美は詳しく聞きたそうにソワソワしているが、運転に集中しなくてはいけないため黙っていた。


 その空気を察した若菜が涼音に聞く。


「なんでまた勉強を? いや、私らもホッとしたんだけど」


 若菜のセリフにここねは頷く。


「先輩の将来を考えてですね、ある程度の大学には進学した方がいいと」

「……今からでも間に合うの? あの成績が下から数えた方が早い涼香が」


 若菜の言い分は最もだ。


 しかし、この答えは水原みずはら涼香検定準二級では出てこないのだ。


「それが間に合うんですよねえ」


 少し優越感を滲ませた声音で涼音が答える。


「うっそだあ」

「嘘じゃないんですよ。まあ楽しみにしていてください」


 涼香程綺麗にできないが、涼音はウインクをするのだった。

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