ベッドの上にて 5

涼音すずねが一人……、涼音が二人……、涼音が三人……」


 夏休みの夜のこと。昼間全く動いていないため、眠れない涼香りょうかは涼音を数えていた。


「涼音が四人……、涼音が五人……。ふふっ、涼音がいっぱいね」


 五人の涼音に嬉しさが溢れ出た時、隣から、冷房の風が直接かかっているのではないかと、勘違いしてしまう程の冷たい声がかかってきた。


「ねえ先輩……?」

「あら、起きていたのね」

「いや起きたんですよ、うるさいんで」


 隣でもぞもぞ動く音がする。


「眠れないのよ」

「でしょうね。だって先輩今日は一日中ぐーたらしてましたもん」


 そう言った涼音が大きく欠伸をする。


「涼音はどうして眠れるの? 一緒にぐーたらしていたではないの」


 夏休みはほとんど一緒にいたはずだ。涼香がぐーたらしていたのなら、涼音もぐーたらしているはずなのだが。


「頭使ってるからですかね」

「なるほど、私タイプね」

「寝ていいですか?」

「ええ、おやすみなさい」


 するとすぐ隣で涼音が寝息を立て始める。


 今度は涼音を起こさないように、小さな声で――。


「涼音が九千九百九十八、涼音が九千九百九十九、涼音が一万‼」


 起き上がった涼香が叫ぶ。


「涼音がいっぱいよ‼」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る