夏休みにて 24

 夏休みのこと。


 涼香りょうかはフローリングに頬をつけて涼んでいた。


 そんな涼香を、涼音すずねは躊躇い無く踏む。


「ふぐぅっ――」

「ほらほら、早く立たないとまた踏まれますよ」


 涼香が転んだのは、涼香の部屋の前だ。


「痛い……立つのが面倒だわ……」

「暑いんで早く立ってくださいよ」


 冷房の効いている涼香の部屋への道を、部屋の主自ら塞いでいるのだ。


 冷房もなにも無い廊下は、涼香みたいにじっとしていても汗ばんでくる。


「ああもうっ、立ってくださーい」


 いつまでも動かない涼香を、痺れを切らした涼音が立たせようとする。


 腕をがっちりホールド、自分の身体とくっつけて持ち上げる。


 軽く持ち上がった涼香を、涼音は部屋に入れるでなく、ドアの邪魔にならない場所へ移動させる。


 そして、涼香の部屋のドアに手をかけ涼音は気づいた。


「あっ……内開きだった」


 涼香を移動させる必要は無かった。


「涼音ー、私も連れてってー」


 壁にもたれかけさせた涼香の声が聞こえた。


「仕方ないですね」


 そう言って涼音は、涼香を運ぶのだった。

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