夢の中にて 9

 一歩進めば荒れ狂う海に一直線、そんな断崖に涼香りょうかが立っていた。


涼音すずね……止めないのね」


 夏の日差しを反射する、純白のワンピースに麦わら帽子姿の涼香が儚げに微笑む。


「なんて言いました?」


 岩を削る波の音と、蝉の大合唱が響き渡る。


 故に涼香の声は聞こえない。涼音は耳に手を添えてよく聞こえないことを涼香にアピールする。


「止 め な い の ね‼」


 どこからか取り出したメガホンを使って涼香が叫ぶ。


 ようやく聞こえた涼音は、思いっきり声を出す。


「止 め て る じゃ な い で す か!」


 しかしその声は涼香には聞こえておらず、首を捻った涼香が、崖から離れた涼音の下へやってくる。


 そしてメガホンを逆さまに、クイズ番組みたいに耳に当てる。


 涼音はそのメガホンを払い除ける。


「ああ!」


 涼香の手を離れたメガホンが飛んでいき、崖から海へと落ちていく。


「なにをするのよ」

「いやこっちのセリフですよ」


 頬を膨らます涼香の頬を両手で挟むのだった。

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