夏休みにて 23

「私は思ったのよ」


 突然そう言った涼香りょうか

 涼音すずねは、どうせまた適当なこと言うんだろうな、と思いながらも一応聞き返す。


「なにをですか?」


 すると涼香は、よくぞ聞いてくれたわね! とでも言いたげな表情で――。


「よくぞ聞いてくれたわね!」


 と実際に言った。


「なにをですか?」

「え? それは……よくぞ聞いてくれたわね、ということ……かしら?」

「知りませんよ」

「えぇ……」


 涼音の適当な返しに、リズムを崩された涼香。


 しかしすぐに立て直し、涼音に向き直る。


「言ってもいいかしら?」


 一応続けていいかを聞いてから。


「いいですよ」

「では、言わせてもらうわ」


 そう前置きして言う。


「夏休みっぽいことをしていないわ!」

「この前水族館に行ったじゃないですか」


 バンっと言い放った涼香に涼音は即答。


「違うのよ、水族館は確かに楽しかったわ。でもね、水族館は夏ならではの場所ではないではないの」

「夏といえば海、海といえば魚、魚といえば水族館。ほら、夏っぽい」


 したり顔で言う涼音の頬をむにむにしながら涼香が言う。


「そうだけどそうではないのよ!」


 涼音は涼香の手をひっぺがす。


「――もうっ。じゃあ夏っぽいことってなんなんですか?」

「よくぞ聞いてくれたわね!」

「それはいいですから」


 さっさと言ってくださいよ、と今度は涼音が涼香の頬をむにむにする。


 涼香が涼音の手をぺちぺち叩いて手を離してもらう。


「花火よ‼」


 なにを言うかと思えば、かなりまともなことだった。


「確かに、花火は夏ならではですね」

「そうでしょう? それなら――」

「今日はやりませんよ」


 恐ろしいものを見たような表情になる涼香であった。

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