水族館にて 15

 物販を見て、だらだらと時間を潰していた涼香りょうか涼音すずね


 連絡が無いから無事に水族館を回っているのだろうと思うが、念の為入口に戻って二人がいないか確認する。


「いつ頃行ったんですかね?」

「連絡してみる?」

「いやあ……」


 あの二人のことだ、自分達の存在を忘れて二人の世界に入っているに違いない。わざわざ連絡して、二人の世界をぶち壊すことになるのなら大人しく待つ方がいいだろう。


「連絡なんてせずに適当に待ちましょうよ」

「涼音がそういうのなら、そうしましょうか」



 一方その頃。


「見て菜々美ななみちゃん! イルカだよ!」


 水槽に張り付く子供達に紛れ、ここねはカマイルカを見て目を輝かせる。


 その仕草、笑顔を網膜に焼き付けた菜々美は人知れず涙を流す。


 涼香と涼音と一緒に来たことなど忘れていた。


「可愛いわね」


 ここねが見てと言っているイルカも見る。確かに可愛い。だけどここねの方が可愛い。


 だからこの「可愛い」はイルカに向けられているが、ここねに向かって言っているのである。


 こうすれば照れくさくともなんとも無い。ジーニアスな気分になった菜々美。


 今日はこれでいこう。普段あまり言えないから、今日はとことんここねに可愛いを伝えよう。そう決意した菜々美であった。

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