夏休みにて 15

「よっし! 宿題終わり―!」

「赤飯炊くわね」


 思いっきり伸びをした涼音すずねは、当然の如く涼香りょうかを無視して、仰向けに倒れた。


 これで夏休みのストレスとはおさらばだ、なに一つ気にせず夏休みを満喫することができる。


「今日はもう寝まーす」


 涼香の布団に入って丸くなる涼音。その様子を見ていた涼香は少し悲しい気持ちになってきた。


 毎年夏休みの宿題が終わった日は無視されている気がする。


 これは宿題を全くやらない涼香に問題があるのだが、当の涼香にその自覚は無い。なぜなら、ちゃんと夏休み中に宿題は終わらせるからだ。


 それはさておき――涼香はどうやったら涼音が無視するのをやめてくれるかを考える。


 こういう時の涼香の頭脳は、あの学年トップレベルの頭脳を持つ綾瀬彩あやせあやをも凌駕する。


 そんなすごくかしこい涼香の考えついた作戦、それは――。


「聞きなさい。『りょうかちゃんへ。がっこうはちがうのに、いつもあそんでくれてありがとう。りょうかちゃんといると、すごくたのしくて、ずっといっしょにいたいなぁっておもっています、これからもずっとずっといっしょにいようね。すずねより』あら、目から汗が……」


 涼音から貰った手紙を音読することだ。


 この前は少し怒られたが気にしない。無視する涼音が悪いのだ。


 しかし、涼音の反応は無い。こういう時は照れて掴みかかってくるはずなのだが、どうしたのだろう。


 涼香は涼音のくるまる布団を引っぺがす。そして、恐ろしいものを見たような表情を浮かべた。


「熟睡しているわ⁉」


 眠ってしまえば、なにを言われようと涼音には聞こえないのだ。


 涼香の完全敗北であった。

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