昼休みにて

 ある日の昼休み。


「先輩、今日弁当忘れてましたよ」

 

 三年生の教室にひょこっとやって来た涼音すずねが言った。


「どうやらそのようね」

 

 すました顔でそう言う涼香りょうかの目線は涼音の手に向いている。

 

 いつもなら涼音が迎えに来た時に確認するのだが、今日の涼香は用があり、涼音よりも早く登校していたのだ。

 

 涼音は前日に連絡をしていたのだが、登校前に涼香の家に確認しに行くと、案の定弁当を忘れており、呆れていた涼香の母親から弁当を受け取って登校したのだった。

 

 涼音は持ってきた涼香の弁当を渡すと、涼香の前の席に腰掛ける。


「ありがとう、涼音」

「先輩のお母さんが言ってましたよ。お父さんみたいにしようかしら、って」


 涼香の父親も会社に弁当を持って行っていたのだが、度々弁当を忘れて行くため、涼香の母親は弁当を作るのをやめたのだ。その代わり、前日に昼食代(五百円)を渡している。


「それは……困るわ」

「じゃあ気をつけてくださいね」


 素直に頷いた涼香は受け取った弁当を広げる。


 五百円なら別に困りはしないが、昼食が弁当ではなくなると、涼音とおかず交換ができなくなってしまう。だから涼香は弁当を忘れないようにしようと肝に銘じるのであった。

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