授業中にて
ある日の授業中。
体育の授業でグラウンドにいた
たしか先輩が理科授業中だったなあ、と思いながら
「
涼音は涼香を見ながら声をかけてくるクラスメイトに返事をする。
「先輩がいるなあって思って」
そう言うとクラスメイトも涼音の向いている方へと顔を向ける。そして、涼香の姿を見つけるや否や、パッと顔を輝かせる。
「それって
「うん、そうだよ」
「檜山さんって水原先輩と知り合いなの⁉ 羨ましいなあー!」
「まあ……中学から」
「羨ましい! だって水原先輩ってクールでしょう? それにモデルみたいに細くて
すっごく美人! まさにクールビューティーってやつ!」
「おおう、まあ……そうだね」
涼音は戸惑いがちに相槌を打つ。別にクラスメイトの言っていることは間違っていないのだが、涼音のような普段の涼香を知っている者からするとクールという部分に引っ掛かりを覚える。
別に間違っていないのだ、涼音から見ても涼香は凄く美人で黙っていればクールに見える、だから涼香と話したことがなければその評価は間違っていない。
「あんなに綺麗な人だったら成績も良いんだろうなあ……」
隣で感慨にふけっているクラスメイトには申し訳無いが、涼香は別に成績優秀では無い。なんなら下から数えた方が早い。
「授業を受けてる姿も綺麗……」
美人はなにをやっても美人なのは認めるが。
(多分先輩、授業聞かずに学校にテロリストがやってきた時のシミュレーションというか妄想でもしてるんだろうなあ……)
クラスメイトが涼香に羨望の眼差しを向けている隣で涼音は思わず口に出そうなのをグッと飲み込む。恐らく事実を言っても信じて貰えないだろうが、万が一涼香が近寄り難いのは見た目だけ、という評価を涼音と同学年の生徒が持ってしまうのは嫌だった。涼香と同学年は仕方がない、というかほとんどの三年生は知っている。
「ほんと完璧超人……」
(先輩はドジっ子です)
ある日の授業中。
理科室で授業を受けている涼香は授業を聞かずに一人考え込んでいた。
(もし学校にテロリストがやってきたらどうしましょう……)
授業を聞かずに妄想していた。
しかしこれはおかしなことでは無い。学校にテロリストがやってくる可能性は限りなくゼロに近いがゼロでは無い。限りなくゼロに近い確率で生まれたこの地球に生きているのだ、鼻で笑われる筋合いは無い。
(まずはどこから来るか……)
涼香の座っている席は窓際だ、窓の外はグラウンドでテロリストはここから侵入することは出来ないだろう。だとしたら必然的に教室のドアから入ってくることになる。行儀がいい。
教師が図を広げてなにか説明しているが涼香の頭にはなにも入って来ない。
(ドアから入って来たらまずは身を隠す。そして椅子を容赦なく投げつけてその後は……どこから逃げようかしら……?)
出来れば怯んでいる隙をついて逃げ出したいが、入口はテロリストに占拠されている、窓から雨樋を伝えたばギリいけるのでは? と窓の外に目を向ける。
グラウンドからこちらを見ている頭が二人分見える。
いったい誰かと、頭を捻っていると不意に肩を突っつかれた。
「涼香ちゃん、先生の話聞いてた?」
潜めた声でここねが問いかける。
「なんて言っていたの?」
もちろん涼香は話を聞いていなかった。
「これから実験だよ」
「嘘でしょ?」
「本当だよう……」
涼香は記憶を手繰り寄せる。確かこの前、次の授業は理科室で実験するとかなんとか言っていたな、と。
「ごめんなさい、教えてくれるかしら?」
「……うん」
なにも知らないまま実験を始めるのは危険だ、ここねにもそれがわかっているので困ったように頷くことにした。
「今水原先輩こっち見たよね⁉️」
「あー、多分向こうは気づいてないと思うよ」
(実験の時は先生の話聞いてくださいよ。危ないんで)
どれだけ念じても届かないだろうがそれでも思ってしまう。薬品とか火とか取り扱うのにドジしてしまうと大惨事になりかねない。まあ、涼香のクラスメイトに任せれば大丈夫だと思うけど。
それはそうと、いつまでもこうしているわけにはいかない。涼香が後ろを振り向いたのを確認できた涼音は授業へ戻ることにした。
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