第43話 王妃の宝もの
「お母様!!ー ようこそいらっしゃってくださいました!!!」
「え、お、お母さ、ま?」
ヘレナ、困惑。
ここはリゲルーグ国。
古くから我が国と仲良くしてくれる、数少ない国だ。
主にエルンハストとの仲のおかげで続いてきたのだ。
ヘレナは自分の婚約記念日と建国記念日を
息子、忘れちまった記念日と心で呼び
その猛省で、夜通しアーサーに謝罪の手紙を書いた。
封筒に入り切らず、仕方なしに
600字用紙に書き写しそれを100枚毎に分割し
さらに推敲を重ね、80枚にまで縮小させた超大作だ。
箱に詰めて送った。
読む側の気持ちを無視した内容であることを重々理解しつつも
忘れていた事実を真摯に謝った結果の手紙である。
そして、結果アーサーからはなんともあっさりな返事が返ってくる。
『僕も母君に会いたいです。ー よろしければ
どうぞ僕が学ぶ国へ遊びにきてください』
ここまでで3日間。
そして、今日
ヘレナは新王ユージーンと共に
ルイとサスケを護衛に
マリエルとキャシーをお供に、リゲルーグへ来た。
王への謁見と
息子アーサーとの面会が主な理由である。
リゲルーグの歓迎もこれまた熱のこもったものだった。
何せ、女帝ヘレナの話は聞いたことはあるけれど
その実本当に存在しているか謎な王妃ヘレナがやってくると言うのだ。
そして、エルンハストがとうとう国として機能することを
リゲルーグは心から待ち望んでいた。
表向きはノンネッセなどという国の体を成しているのだから
素通りしてエルンハストとやりとりするわけにはいかなかった。
そのエルンハスト国の王妃と目されるヘレナが
リゲルーグ王へと謁見を果たす。
めでたいだらけで、祝砲が撃たれたぐらいである。
他国にここまでお祝いするのもおかしな話かもしれないが
リゲルーグ国は、ノンネッセ(エルンハスト)には決して足を向けて
寝ることができない理由があった。
2回目の戦争で、ノンネッセは
リゲルーグを救っている。
それこそ身代わりで戦争したぐらいだ。
その時の総大将とも言える立場は女帝ヘレナである。
リゲルーグ国の前王は病床の身だったこともあり
敵国のその隙を狙った中に
国内の権力争いが激化していたという不運が重なっていたことを
ヘレナはクレイトンたちから聞いていた。
「本当は首を突っ込む件じゃない。
アルデラハンが出てこないだけまだマシよ。
ー 私たちはリゲルーグを見捨てないわ。」
軍師はこの時ほどヘレナの青臭い正義感に辟易したことはないだろう。
前回の戦争で我が国の収拾だってついてないのに
他所の国のことなどー。
そう思っていた。
だが。
事態は急転した。
敵国に訪れた大災害である。
街は跡形もなく燃え盛り、山は割れた。
大地震であった。
その大災害でなんと活躍したのが当時の将軍、ユージーンであり
ノンネッセ国。
そして、戦争初頭からこの大災害の後始末の指揮を取ったのは
軍師フィオドア伯爵だったのだ。
ノンネッセの献身、復興と、国民への労りが
戦意の喪失を促した。国民の8割が戦争を反対し
ノンネッセからの提案受け入れを支持した。
そして、とうとうこの戦争はノンネッセ、敵国、リゲルーグの
三国和平同盟を結ぶに至り
リゲルーグ国はその命を助けられた。
代替わりした王となっても、それは変わらない。
ちなみに代替わりした王は、ヘレナのファンである。
心の中で、破格の扱いをしている。
素面は全くの興味を示していないようだが
一度でいいから握手したかった。
女帝のその美しさだけではなく
非常に思い切りの良い施策が多く
また、それを施行するまでのスピードと
練られた仕組みは類を見なかった。
何より国の内政を仕切る逞しさと強さに感銘を受け
更なる留学生の交換や、意見を取り交わす仲になる。
リゲルーグ国の王がこうなのだ。
国民は一度でいいからヘレナを見たかった。
『妖精さんらしいぞ』
『天から遣わされて来たと聞いた』
『暗殺されかけたと噂があったが、あれは嘘だったんだな』
『エルンハスト王との婚約では、祝福で空から花が舞ったと聞いた』
『本当は女神らしい』
『新王は王妃を娶るまでチェリーだったらしい』
『それは嘘じゃないだろ』
『え、マジ?ー 王は魔法使い...?』
伝聞情報のどれが本当でどれが嘘かもはや収拾のつかない域に達している。
それぐらい、待ち望んだ。
「え?ー コレに、乗るの?」
用意されていたのは屋根の無い馬車だ。
ひょっとしたらアルデラハンの馬車を借りてきて
色を塗り直したのでは無いかと思うような豪華な馬車だった。
「ば、馬車の周りに花、飾ってあるんですけど...」
ヘレナはこんなもてなしを望んではいない。
もっとひっそりでよかった。
ノリノリなのはユージーンだ。
「俺たちの婚儀ではもっと豪華にしよう」
なんだか不穏な言葉が聞こえる。
「俺らは後ろの馬車、乗るんで」
そう言ってサスケはさっさと後ろの普通の馬車に乗った。
ルイも、しばらくヘレナたちが乗る予定の馬車を見て
「じゃ...」
と小さく言って後ろへ行った。
マリエルは侍女のように振る舞っている。
「マリエル、あなた、コレに乗れる?」
「...仕方ありません、ヘレナ様。
ーこの国では、そういう扱いなのだ、と諦めてください。」
マリエルもナンシーと一緒に後ろへ下がった。
普段物怖じしないヘレナだが、流石にこれはやりすぎだ。
だって派手派手だぁ。
だが皆を待たせるわけにもいかない。
覚悟を決めて羞恥を抑え、乗り込んだ。
(フッカフッカやんけ、お尻...何これ、標準規格仕様なの?)
街道に溢れる人々、みなが上げる歓声は
多分リゲルーグ本国の王が出てきた時より大きかったかもしれない。
ヘレナは音が割れて聞こえる現象を初めて聞いた。
口々にヘレナを呼び、ヘレナは振り返り、また反対側を振り返り
手を振る。ユージーンも手を振った。
横断幕のようなものもあった。
『 ラ ブ へ レ ナ ! ! 』
『よ う こ そ リ ゲ ル ー グ へ!』
目に入ると、嬉しいような
恥ずかしいような気持ちだ。
ヘレナは手を振り続ける。
その中で一つの横断幕がヘレナの目に飛び込んだ。
『 ありがとう、ノンネッセ国
おめでとう、エルンハスト国』
ヘレナの心に、初めて
”女帝”としてしてきたことが評価されたような気持ちが灯る。
擦り切れそうだったあの時の覚悟も、
口先だけの自分への評価が、日々をただ消費する孤独な時間すら
この瞬間に、解き放たれたように思えた。
気付けば、とめどなく涙が溢れていた。
(よかった、私のしたことが、私の決断が
ー 誰かを助けていたのだ)
そして、2人が祝福されていることに
ヘレナは何は無くとも満面の笑みだ。
ユージーンはずっと手を握ってくれた。
目が合うと、微笑んで涙を拭いてくれる。
(幸せなんじゃ、ナンシー...)
(そうでございましょうね、ヘレナ様)
『 ? 』
街道の歓声は城まで続いた。
ヘレナの笑みは、今完全に昔の頃のように舞い戻っていた。
それを見たリゲルーグの国民は
皆、手を叩き
新しい王と、その王妃を祝福した。
だから、おかしい。
初対面のリゲルーグ国の王女に
ご挨拶をいただくことはあっても
お母さんと呼ばれる筋合いはない。
リゲルーグ国、第三王女 キャサリン・レネ・リゲルーグ
闊達な、自信に溢れ好奇心旺盛な王女。
赤茶の大きなカールを描く髪は肩ほどの長さだ。
ハーフアップした髪に水色のリボンを結んでいる。
同系色のドレスは空の色よりやや薄く
彼女の瞳の色の方が濃い。
そばかすが多いのは、元の肌が白く
太陽が大好きな証だ。
ヘレナは好感を持ってはいる。
(元気そうな子...)
王女の初手、王もこれには苦笑い。
「これ、キャサリン。弁えなさいー」
謁見の間で格式ばった挨拶を行うのが通例だが
どうやら王女は堪えきれなかったようだ。
リゲルーグ国の王妃と呼ばれるメリエラ妃は
とてもおとなしそうな人で
王女のこの行為に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
第一王子はすでに成人していて
王の執務を手伝っていると聞く。
第一王女と第二王女はすでに、降嫁していた。
この国の王族は皆、一様に赤茶の髪色だったからか
ヘレナの銀の髪をみな、珍しそうに見ていた。
そしてヘレナの瞳がかすみ色なのが特に印象的だったらしく
第一王子は、あいさつの時
ヘレナを見たまま、瞬きを忘れていた。
ユージーンの咳払いで、ようやく気づいた。
「これは失礼を致しました、ヘレナ様」
リゲルーグの第一王子は、恭しく礼を執る。
ヘレナも同様に静かに礼を受け取り、微笑んだ。
第一王子、ヘドリック・R・リゲルーグ
絶賛、婚活中である。
みんな集まれ〜!!
リゲルーグの王はなんとたぬきち軍師の元教え子だと言う。
(やつに何を学ぶことがあるんだ...)
ヘレナはほほえみつつ、たぬきち軍師のたぬきち具合を思った。
「此度は、ようこそ我が国へおいでくださった。
長年、女帝ヘレナ王妃にこうしてお会いできる日を
我が国の民だけではなく、我々も希っておりました。
どうぞ、満足なおもてなしは出来ぬかもしれないが
ごゆるりと過ごされよ」
ユージーンが挨拶を返す。
こうしてみれば、立派な王に見えるから不思議だ。
この国へ来る時も馬車の中ではヘレナを膝に置き
手をにぎにぎして
時々何かが爆発したように、口付けてくる男とは思えない。
そして第三王女のご登場だ。
「ヘレナ様、先ほどは失礼を致しました。
ー お許しください。
リゲルーグ国が第三王女 キャサリン・レネ・リゲルーグにございます。」
礼を執る。
美しい姿である。
だが、まだ幼さの抜けない表情で
ちらと、ヘレナを見てしまう。
(まだまだだけど、まぁ合格ね。)
ヘレナとユージーンはそのまま、応接室へと通された。
歓談の間だ。
実はこれがちょっとした癖のある時間でもある。
公式ではない状態でここへ来たのだから
当然、聞かれることは ー。
「ご婚約、おめでとうございます」
コレはいい。
想定内だ。
「婚儀はいつをご予定ですの?」
コレだって問題ない。
「私、アーサーと婚約したいのです」
きたな、これか。
コレがアレになって
今、こうなったんだな。
ヘレナはほほえみながら相槌を打った。
の、割には周りは凍りついていた。
リゲルーグの王は立ち上がるし
王妃は飲みかけた紅茶を吹き出すし
第一王子は頭を抱えた。
「ふふ、キャサリン王女は彼のどこが好ましいのかしら」
ヘレナは聞く。
キャサリン王女は途端に口をモゴモゴさせたが
深呼吸をして、ヘレナを見た。
「誠実なところです!」
ヘレナはキャサリンを見る。
彼女はアーサーを見ていたはずだ。
追いかけ回して、彼をいつのまにか好きになっていたのだ。
見た目で判断したわけじゃ、なさそうだ。
性格がどうこう、というわけでもなさそうだ。
誠実ー。
ヘレナは優しい気持ちになった。
(ねぇ、アンソニー。あなたはどうしようもないほどの男だったけど
息子は誠実に、努力家に育ったわ。
よかったわね、アンソニー。あなたに誇れる唯一よ)
ユージーンはそんなヘレナを見て
同様に微笑んで、王に向かって言った。
「アンソニーはすでに王族を離脱し、現在は
フィリップ・モント・イグネシアス家の人間です。
ーそちらに”利”はあまりないかと思いますが。」
痛いところを突いていく。
仮にも王女だ。
どうせ嫁にやるなら、関係性の高く
リターンのあるところへ嫁がせたいだろう。
リゲルーグの王は黙ってキャサリンを見た。
キャサリンは身じろぎしない。
この件を、話し合ってきたのかもしれない。
「ー 私は親バカでね。
上の2人もそうやって、嫁に出したのだよ。
正しさ、だけでは国は続かないことも知っている。
だがその正しさとは人が選ぶものだ。
だからこそ祝福せねばならんのだー、キャサリン」
ヘレナはその物言いに、軍師の姿が被る。
穏やかに微笑んだ王は1人小さく自分に言い聞かせるように頷く。
キャサリンは顔を覆って泣き出した。
王妃がキャサリンを抱きしめて、小さな声で何か呟いていた。
「アーサー、ここへ」
フィリップに連れられ、アーサーが応接室へやってきた。
最後に会ってからもう、4年が経っていた。
癖っ毛の茶色の髪。
ピンと伸びた背筋に
学校で着用している制服を皺一つなく着こなしていた。
目線は真っ直ぐ前を向き
口はしっかり一文字に閉じられて
顎はひいている。
どれも、ヘレナが教えて
練習してきたことだった。
背筋をまっすぐにするために
背中に木の棒を入れて、頭に本を乗せて過ごさせたっけ。
熱を出しても彼は泣き言を言わなかった。
雷が激しくて怖くて怖くて眠れない日
ヘレナの部屋の前まで来たのに
帰って行ったっけ。
ヘレナはアーサーを抱きしめた。
身長はまだ、ヘレナの方がちょっとだけ高い。
「アーサー、立派です。ー あなたは立派になりました。
ー 遅くなって、ごめんなさい」
アーサーは照れて、目線を右往左往させたが
そっと抱き返す。
「母君、いえ、ヘレナ様。ーご無事で何よりです。」
彼は努めて、振り絞るように言葉を吐き出した。
「あなたに辛い思いをたくさんさせてしまったわ。
ーごめんなさい、ごめんね」
アーサーはヘレナを引き剥がして、真剣な顔をした。
「何を仰るのですか。
ー あなたのおかげで、僕はここにいます。
僕はとても恵まれて... そして、幸せなのです。」
ヘレナの瞳に涙が溜まる。
アーサーはすぐにハンカチを取り出した。
ヘレナに手渡す。
(こんなにスマートにハンカチも出せるようになって...)
もう母親気分満載だ。
自分が産んだ子ではなかったが、生まれたてのアーサーを
ヘレナは毎日世話をした。
わからないことばかりで、従者と侍女と格闘の毎日だった。
王妃がすることではない、と言われもしたが
この生まれた子が不憫で仕方なかった。
この国で、アーサーを誰が愛するというのか。
不貞の子だと、周りは噂するだろう。
愚鈍な王の、バカ息子だと言われたくなかった。
自分が、愛すると決めた。
彼を立派な王にすることで
彼を一生懸命に愛を持ち、育てることで見返したかった。
「ありがとう、アーサー。
母は、あなたを誇りに思います」
結果を求めてなどいない。
彼がこんなに頑張ってくれていたことが
ヘレナは誇らしかった。
ヘレナは礼を執る。
そして、キャサリンに向き直る。
「キャサリン王女。ー アーサーは私の子です。
ー 立場が変わろうとも、この子は私の宝です。
あなたはこの子に変わらぬ愛を、与えてくださいますか」
キャサリンは一歩踏み出した。
「もちろんです。私の全身全霊をかけて
彼を愛し抜きます!!」
アーサーは顔を赤くしたままポカンとしていた。
思わぬ逆プロポーズだった。
ヘレナは満面に笑い、アーサーの手を取りキャサリンに向けた。
アーサーの耳元で、小さく嗜めるように言う。
「ほら、教えたでしょう?
レディを待たせてはいけないわ。
ー あなたは紳士なのだから」
アーサーは、ハッとしてキャサリンの前に立ち
片膝をついた。
キャサリンは両手で口を塞ぎ、声が漏れないように驚いている。
「キャサリン、ー 僕はまだ未熟だけれど
必ず君にふさわしい男になることを誓うよ。
だから、それまで待っていてくれますか?」
キャサリンはそのままアーサーに抱きついてしまった。
抱きつきながら、泣き出した。
ヘレナはそっと、アーサーに先ほどのハンカチを返した。
(使ってないから、どうぞお使いなさい)
その風景を見ながら、周りの大人はニヤニヤしている。
「まぁ、子供ってこんなもんよね」
ヘレナは小声だ。
「可愛いもんじゃないですか」
フィリップはまんざらでもないらしい。
「ちょっと、フィリップ、後で話。」
ヘレナはアーサーたちに顔を向けたままフィリップに言う。
「エルンハストに帰ってからではダメですかね...」
フィリップはユージーンを見て呟いた。
「だーめ。早い方がいいの」
ヘレナの笑顔はやっぱり、フィリップの心をつついてくる。
ユージーンはずっとヘレナを見ている。
フィリップにはそれが狂気じみて見える。
熱視線はきっといつか視線を超えて連射可能な大砲になるだろうし
そのうち誰にも止められないミサイルみたいに降り注ぐことになる。
フィリップは早くも逃げ出したくなった。
ユージーンの”待て”はいつになったら”Go”になるのか。
この王、忍耐力だけはダイヤモンド並みに硬い。
(早く終わらせよう...)
フィリップは口の中だけで呟いた。
「フィリップ、あなた、やりすぎよ。」
「何がでしょう。」
ヘレナはリゲルーグの貴賓室にいる。
宿泊をこの王城内で勧められ、現在ソファにゆったりと座っている。
目の前にいるフィリップはどこか所在なさげだ。
それもそのはず、ヘレナの横にはユージーンがいた。
「ファレル夫人。」
フィリップは微笑んだままだ。
ヘレナは紅茶を啜った。音無くソーサーに置き視線を上げる。
「あなたが仕事熱心なのはわかるけど
ー医者みたいなことまでする必要など、ないのよ」
「何のことでしょうか、ヘレナ様」
「すっとぼけもいい加減にしないと、私怒りましてよ。」
ユージーンはフィリップに一言。
「ヘレナはもう全部知っている」
(あぁ、ここまでかー)
「今はもう、ほとんどないです。ーご心配なく、ヘレナ様」
「違う。
私が言いたいのは、あなたのことよ。
ファレル夫人には私、直接聞きましてよ。
阿片の離脱の助けをあなた、していたのでしょう?
おかしいと思ったの。
あなたが手を出す女性たちは皆、阿片窟に通い始めたような人ばかり。
フィリップが行っていたら、私、引っ叩いて家から出しませんでしたことよ。」
フィリップは、当時この国に入ってきた阿片のことを
祖父からよく聞いていた。
依存性の高い、とても危険な薬だ。
彼女らはその薬を睡眠剤だとか、ダイエットにいいとか
眠く無くなるとか言われて通い始めていた。
彼女らは阿片窟へ通うきっかけとなったのは
夫を亡くしたり、夫が愛人の元へ通ったりの寂しさからだった。
ラッキーだったのは
その薬が白い粉状で、売人が高く売りつける粉を割増するために
砂糖や粉ミルクに混ぜられていたので
彼女たちの摂取量が全体量の2%程度と
度合いが軽くて済んだ。
離脱までには、1週間ほどかかった。
幻覚や、嘔吐、中には暴れる者もいた。
その為、少々強引だったが縛ったり、繋いでいたりした。
それら全て、フィリップの家で離脱症状を超えさせていた。
そして阿片の情報は、金魚屋から定期的に仕入れていた。
ヘレナは立ち上がってフィリップの頬を両手で挟む。
ヘレナの瞳が怒っている。
「いい?フィリップ。ー あなたは私の大事な臣下よ。いえ...
ーすごく出来のいい弟だと思ってる。
だから、私にこれ以上心配かけないでちょうだい。」
フィリップはもう逃げられない。
またしても、ヘレナに見透かされていた。
思うより先に唇が震えて、声にもならない。
「もう、泣かないの。私の青臭い正義のためにやってくれたのよね。
ー ありがとう。あなたがいてくれて、よかった」
(敵わないや)
ヘレナはユージーンからハンカチを受け取り
フィリップの涙を拭いた。
「けど、あなたの手癖は早いし、口八丁手八丁よ。
ー 恋は 焦らず、よ」
ウィンクするヘレナにフィリップは軍師の姿を見る。
穏やかにほほえむその姿に
フィリップは理想郷にいる誰かを思った。
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