第42話 この恋は永遠の。
ルイはオレンジジュースを飲んでいる。
ヘレナはリンゴジュースを飲んでいた。
2人は互いの飲み物を見比べて、目を合わせて笑った。
「ふふふ、私、アルコールって苦手ですのよ」
「ははっ、俺もです。情けないですけど」
アナスタシアが2人の席の前に来て
チョコレートの入った小さな皿を持ってきた。
「これなら合うわよ」
ウィンクする。
ヘレナはアナスタシアを見て、複雑な思いになったが
その思いは瞬時に払拭された。
アナスタシアは、ヘレナに言ったのだ。
「 ソフィー、安心していいわ。
今まで私を断った男はアレと最初の夫だけ」
「最初の夫?」
「えぇ、アルデラハンの戦争で死んだけど」
ヘレナはほほえむアナスタシアに心が凍りつくような思いになる。
「なんて顔しているの。ふふ、美人が勿体無いわ。
ー そういうことだから安心してね。」
アナスタシアの吸うタバコの煙がその場を去る彼女を包みながら
彼女はまた、サスケの方へゆっくり行った。
オレンジジュースを飲みながら、ルイはチョコレートを取り出して
その包装紙を器用に折り始めた。口にはチョコレートを頬張っている。
多分、ヘレナとアナスタシアの話を聞いていたはずだ。
けど、何にも聞いてこない。
「ー 何だか恥ずかしいことばかりだわ」
リンゴジュースのコップに刺さっているストローをグルグルさせ
ヘレナはため息をついた。
自分の至らなさに嫌気がしてくる。
アナスタシアに気の利いたことひとつも言えなかった。
ルイは折筋をみながら、何となくヘレナに話しかけた。
「将軍が、ルイーズと婚約しようとした理由、知っていますか?」
「...知らない」
ルイはまだ、何か折っている。
(そういえば、たぬきち軍師に聞くの忘れてたわ..)
「あの頃、隣国のリゲルーグ国の王女と婚約話が進んでて
ー 父が将軍に提案したんですよ。
形だけ婚約しておけば、父の名前が勝手になんかするって。
俺はあの当時は男としてもう生きてたけど
戸籍上は娘がいるってことになってましたからね。」
「そう、だったの...知らなかった。」
「でも、リゲルーグの王女にも想う人がいたみたいで
あのあと、婚約話自体立ち消えしたみたいです。
婚約しなくても良かった、って話ですけど。
ー 俺が、もしこの事実を先に知っていたら、って考える時があって
そうだとしたら、今、俺はここにいない。」
ヘレナの目の先にはたくさんの酒瓶が所狭しと並んでいる。
店の喧騒に混ざった音楽と、笑い声、コップが机を叩く音。
時々香る、タバコとアルコールの匂い。
ヘレナは静かに目を閉じて、ルイの気配をたどる。
穏やかな、軍師に似たその気配。
「ねぇ、転生する時のこと、何か覚えている?」
「転生するとき?」
「私、呼ばれたの。ユージーンに。
ーこっちだ、って」
ルイは手の動きを止めて、ヘレナを見た。
目を閉じたままのヘレナの横顔は、あのコインのまんまだ。
自分が感じていた、あの声を
ヘレナも感じていたのだろうか。
「ー 還る魂の儀、でしたっけ」
ルイの声は少し、低くなった。
「えぇ、ー 私たち一族だけが知る秘密の
真実の愛を持つ者だけが、その術を行える。
知ってた?ーあの儀式を、軍師とユージーンは
2人でやったらしいの。」
目をゆっくり開けながら、ヘレナはルイを見た。
「しかもあの術は、本来”女性”が行うものなの。」
かすみ色の瞳が、ルイを覗き込んだ。
クスクスと笑うその人は、何だかとっても他人のようで
柔らかな表情が周りを明るく照らすような
雪どけの春を知らせる陽に似ていた。
ルイのこの胸の高鳴りは、憧憬だ。
懐かしさへの、郷愁に似ていた。
「私はユージーンに呼ばれた。はっきりと。
けど、おかしいわね、最近までそんなこと
思い出しもしなかったの。
ー だからね、ルイを呼んだのはきっと軍師よ」
ルイはヘレナの言葉に耳を傾けながらぼんやり思った。
(そうだろうな。何となく。ーそんな気がした
父の真実の愛が自分を呼んだなんて、ちょっと照れるけど。)
ヘレナは肘をついて、チョコレートの包みに陽をかざす。
包みはキラキラと赤や黄色の光が反射して
宝箱の中のようだった。
「私が、転生したとき自分の...あなたの
名前を知りたくって、あなたの机の引き出しを漁ったの。
ー 勝手にごめんなさいね。 栞が挟んであった。」
ルイはドキリとした。
「ヒース(エリカ)の押花だった。」
「あ、あれは ー」
「”私は私らしくありたい”って意味ね。」
ルイは恥ずかしくなり、目線を下に向けたが
ヘレナに手をチョンチョン、と突かれる。
ちょっと寄ってきてさらに小声だ。
「ルイって、今の体、何歳なの?」
「え?俺..は23です」
「えー、じゃぁ、私のお兄様ね。」
子猫が戯れるみたいな、そんなくすぐったさが
彼女にはあった。ー
ドンっ
2人の間に酒のボトルが置かれる。
「随分、仲良さげじゃね?」
サスケだ。
「俺も混ぜろよ〜。
あれ、ルイお前オレンジジュースなんて飲んでんの?」
だいぶ出来上がっているっぽい。
アナスタシアにまたしても飲まされたのだろう。
彼女の姿はカウンターにはなかった。
ヘレナは周りを見渡したが、誰も顔見知りがいない。
ちょっと心細くなる。
「ヘレ...、ソフィーちゃん。俺ね〜、大丈夫よ、強いから」
ヘレナはサスケをまじまじと見たが
正直この男に助けてもらったことはない。
むしろ、いつもうまく逃げられている気がする。
本当に忍者なのか疑わしい。
サスケはヘレナの横に座る。
足を組んで、ヘレナに向き直った。
肘をついたままヘレナに向ける眼差しは
澄んだ水のようだった。
「だって、俺、転生してここ来たし。」
『 !? 』
ヘレナ、今日は色々あったけれど
今日、イチで驚いた。
何だか色々、吹っ飛んだ。
これも忍者の何かの術なのか。
サスケはニカっと笑い、付け加えた。
「しかもチート枠」
そっと、ヘレナはルイに視線を送る。
(あれ、本当?)
ルイは知っている風に頷いた。
(ーうん)
ヘレナはサスケを今度こそまじまじと見た。
「転生、してきた、の?」
「うん。」
「どこから?」
「ニポポーン」
(知らんのだが。)
「今、知らないって思ったでしょ。
ーそりゃそうさ。異世界だもん」
(異世界、て...あの、異世界?)
「いつ来たの?」
「転生して生まれは東の最果ての国、アズマルーン国だよ。」
ヘレナは疑いのまなこだ。
ルイは苦笑いし続けている。
「転生する前は何してたの?」
「 ー 忍者」
「今は?」
「 ー 忍者」
「 ー... ぶふぁっ!! 」
ヘレナ、盛大に大爆笑。ルイもちょっと笑ってる。
「何も変わってないじゃない!うぇっふっ ふっっふっ!!」
今日のヘレナはもう色んなところが壊れたようだ。
笑い方まで町娘を通り越し、とうとう手を叩いて笑っている。
「だって、俺、忍者以外やったことないし
それ以外やりたいとか思わなかったし
アズマルーンでも忍者の里で育ったし。 」
サスケはいじけている。
涙が出るほど笑ったヘレナは、はた、と気付いた。
ー 真顔になってしまった。
(あれ、私も転生前と同じだわ...)
急にサスケに対する同情と謝罪の念が生まれた。
「ごめん、サスケ。ー 私も同じだった...
転生しても、変わってないのは同じだわ...
笑ってごめんなさい。」
「いいよ、別に。」
サスケはボトルからコップに酒をついで勢い良く飲み干して
カウンターに突っ伏した。
ルイはそんなサスケを見て、庇う。
「俺が、転生したばっかりの頃、すごく助けられたんです。
ー 眠れなかったときも、話を聞いてくれたり
俺が思い出したことを調べてきてくれたり ー。」
サスケは突っ伏したままルイを見て、ちょっと照れたようだ。
そのままカウンターで腕を組みその上に顔を乗せて話し始めた。
「転生ってさ〜、運命の因果律みたいなもんだって
じっちゃまが言っててよ。あ、ニポポーンにいた頃だよ。
俺、転生前はニポポーンで33で戦で死んでるし
その後はアズマルーンで忍者やってたし
国抜けしてここ来ても忍者だよ...
これも因果律なんだよ、きっと...」
ヘレナはチョコレートの包みをサスケの前にぶら下げた。
「でも、サスケは忍者っぽくないわ」
(本で読んだ忍者じゃないもの)
「そーだよ。ー 俺、もう忍びたくないもん」
チョコレートはいつのまにかなくなっていた。
サスケはそのチョコレートの包みからチョコを出して食べている。
よく見ると、サスケはいい男の部類なのだろう。
狐のような顔をしているが、目元は涼やかだし
筋肉質ではない体だがスタイルはいい。
態度でだいぶ損をしている。
ヘレナは疑問に思っていたことをサスケに聞いた。
「ー ロレンツォは、なぜいなくなったの?」
サスケは包みを指先でクルンと回しながら
ヘレナを見る。ちょっとため息をついた。
「俺のこと助けて死んだよ」
「サスケ!」
ルイが声を立てた。
「いいんだ、わかってんだ。あいつ、俺の代わりに」
「いい加減にしろ、サスケ。ー」
ルイが立ち上がり、ヘレナの頭上でサスケの肩を掴んでいる。
声に怒りが篭もってる。
ヘレナは頭上で何が行われているかわからないが
多分、緊迫した状況だと言うことは理解している。
そこへ優雅なアナスタシアがほほえみながら
手に水の入ったコップを持ってやってきた。
「飲み過ぎちゃったかな〜、はい、お水」
サスケの前に置いた。
ルイは手を引っ込めたが、まだ立っている。
「落ち着いて、色男の新米軍師さん。
こっちのサスケは私が面倒見るから
そろそろソフィーを公園へ、送っていただける?」
時刻は4時半を回ろうとしていた。
やんわり夕方という時間に、ヘレナは驚いた。
(私、枝豆しか食べてないわ。)
テーブルにそのまま突っ伏しているサスケを撫でながら
アナスタシアはヘレナにウィンクして
手を振った。
「行ってらっしゃい、また後でね、ソフィー」
酒場を出ると、空は夕方を告げるような色で
ヘレナはその光景を見たら
1日の終わりがもうすぐ来ることに何だか切なくなった。
「ルイ、サスケのこと ー ごめんね。
ー変なこと聞いてしまったから。」
ヘレナは歩きながらルイを見上げる。
ルイは気にしてないようだったが、内心はそうでもないだろう。
「いえ、ロレンツォのことはー...
多分俺たちと同じような、そんな気がしてて」
(転生者の人口密度が高いもんね...あり得ない話ではない)
頷くヘレナは、ルイの言うように、そうであるように願っていた。
公園の道は川を横切って曲がりくねっていた。
この時間帯ともなると、人もまばらで
昼間のように、子供たちがはしゃぐ声はなくなっていた。
「あ、ここです。確か、この道の奥に大きな樫の木があって
その下にベンチがあります。」
ルイは立ち止まった。腕を伸ばして、案内を示した。
「え、ここから1人なの?」
ヘレナは夕刻の一人歩きは初体験だ。
ちょっと怖い。
(うちの護衛は護衛の意味をわかってないのかしら)
ルイは眉を下げて、申し訳なさそうにした。
「すみません、サスケのことが心配で」
「そうね、行ってあげて。」
「あと ーこれ。」
ルイがポケットから取り出したのは、先ほど酒場で折っていたものだった。
ヘレナの掌にちょこんと乗せた。
「これはー?」
「折鶴、というらしいです。
ー サスケに教えてもらいました。
この鶴は、願いを叶えてくれるらしいので。」
「へぇ、かわいい...」
(サスケって意外にロマンチストなのかしら)
そっと、ヘレナは空にかざした。
夕日を浴びたその小さな折鶴は赤色や金色がキラキラ光って
ヘレナの掌から、今にも飛んでいきそうだ。
「あなたの願いが、 ー 叶いますように」
言って、ルイは礼を執る。
「 ふふ、あなたもね、ルイ 」
ヘレナはその鶴をしばらく空に透かして見ていた。
鶴の真っ直ぐ伸びた首は凛として
広げた翼の先に触れる陽が
ヘレナの心に煌めきのように瞬いている。
ヘレナは公園の道を歩き始めた。
樫の木は大きくて、歩いて見上げればもうすぐそこみたいだ。
ふと、足元を見たら
公園の道の両脇には蝋燭が灯されている。
点々と、まるで道しるべのように。
夕暮れの暗くなり始めた公園の道は
蝋燭の柔らかい光に照らされ
ヘレナは光に誘われるように歩く。
段々、胸の鼓動が強くなる。
歩くペースがちょっと早くなった気がする。
ちょっとじゃない、小走りしていた。
心臓が、ドキドキと胸打つのは
蝋燭だけのせいじゃない、早く、会いたかった。
あともう少しで、樫の木に着くと思ったら
走っていた。
息が切れそうだったけど、嬉しさで頬が熱い。
自由になった時より、もっと早く走れた。
走った先に、樫の木の元には
煌々と輝く松明と、それが照らす地面を覆い尽くす薔薇。
ベンチの前に立つ、元女帝が恋する男。
ユージーン・エルンハストだ。
両手を広げて待ってる。
息は切れていたけれど
そんなことどうでもいい。
今すぐ彼の腕の中へ、飛び込みたい。
走り抜けるヘレナに薔薇の香りが纏う。
キラキラと光を帯びて、ヘレナの髪が風に靡いた。
こっちだよ、って聞こえたの。
あなたが、私を呼んでくれたから
私はあなたの元へ還って来れたのね。
ずっと、ずっとあなたに言いたいことがあったの。
ユージーンの広げた腕の中へ包まれて
ヘレナは涙いっぱい目にためて
顔を上げた。息が切れているけれど
振る舞いもバッタバタだけれど、どうか許して。
運命の潮流を乗り越えて、今本当に
あなたの腕に還ってきたから。
「”ただいま”、 ユージーン。
遅くなったけど、ー 遅くなって、ごめんね。
ー 私を呼んでくれて、ありがとう」
ユージーンは笑顔で頷いて
「おかえり。」
と、言って抱きしめてくれた。
そして、ユージーンは私の手を取ったまま
ちょっとだけにぎにぎしてから
一歩、後ろに下がる。
彼の背中には沈む夕日が落ちる川。
地面を覆い尽くす薔薇。
まるで世界が燃えているよう。
ユージーンは”王”の姿だ。
将軍の頃の正装ではなかった。
黒と銀の軍服に付けられた王の証であるサッシュと
その飾緒は見たことがなかった。
ハイカラーの軍服を縁取る銀の刺繍。
肩掛けマントから伸びた手にはヘレナの手が握られている。
ユージーンは静かに片膝をついた。
その声は静かに
私にだけ紡ぐ 愛のことば。
「ー ヘレナ・マルティネス・シュレーシヴィヒ。
我がエルンハスト国、
ユージーン・エルンハストはあなたに乞う。
我が国とともにその生涯を歩くことを ー
私とその魂をともにすることを。
この命が尽き、深淵の底へ還る日が来て
新しい命を迎える日が来ても
私はあなたを必ず見つけ、名を呼び、迎えに行くだろう。
この愛に誓う。
この愛の名の下に
あなたの永遠に私が在るように。
ー ヘレナ、俺の妃に なってください 」
ヘレナの瞳に、夕日とユージーンが映る。
赤く燃え上がる、地上の炎は
ヘレナの瞳から溢れる涙で、流されては
また燃え上がる。
ー まるで、2人の恋のよう。
「 はい、 謹んで お受けいたします 」
ヘレナは心からの笑顔を
ユージーンに向けた。
これが、プロポーズ、というものでしてよ、お嬢様方。
ふふふ。
転生してからは、しっちゃかめっちゃかなことばかりで
何だかスマートじゃなかったことは認めます。
けれど、こうしてようやく
私 ー
幸せになれそうです。ー 勝ち確、と言うやつじゃありませんこと?
誰か!
私の名前の上に当確用のバラのシールをお持ちなさい。
ドヤ顔でバラのシールをバチコーンと貼ってやりたいわ。
幸せに、なるのよ。
ユージーンはポケットから懐中時計を取り出し
時刻を確認しているようだった。
「そろそろだな」
「?」
ヘレナを抱き寄せ、嬉しそうな顔をして
頬に瞼に何度も口付ける。
優しく唇の上をなぞるような口付けをして
お互い見つめあった後、また微笑む。
「ヘレナ、今日は記念日だよ。」
空に、花火が打ち上がる。
赤や青や、緑や白の花が咲く。
「エルンハスト建国記念日、そして
ヘレナと俺の、婚約記念日だ 」
「まぁ...!」
なんて日だ。
2人の記念日は、国の建国記念日になるのだ。
花火が映す、ユージーンに抱きしめられて
ヘレナは自分が歩んできた転生前と、今を思う。
( こんな素敵な日、私はきっと忘れない )
にこやかに見下ろしたユージーンは
あ、と小さく呟いてから
ヘレナをベンチへ連れて行く。
ベンチには、大きめの段ボールがあった。
その中にはたくさんの野菜が山盛りになっている。
「これ、配達しに行ったんだけど
配達先の領民がみんな、ー その。 頑張れって...」
いちごを持って現れたあのあと
ユージーンは本当に野菜を配達しに行ったらしい。
そこでみなが、ユージーンのプロポーズの予定を知る所となり
応援したい一心で、野菜をなぜかくれたと言うのだ。
「いらなかったら、俺が持って帰るけど...」
ヘレナはこの運命のイタズラに笑い泣きだ。
「いいえ、いただくわ!
私、八百屋の彼氏からもらう野菜が夢だったの。
家計の足しにもなることだし! 」
ユージーンはちょっとわからないような顔をしたけれど
よかった、と笑う。
2人は手を繋いで、ベンチに腰掛けた。
ベンチから見える花火が2人のために祝福してくれている。
ヘレナはユージーンから
口付けの嵐を受けるが、くすぐったかったり
優しい唇の感触に甘い気持ちに酔いそうだ。
腰に置かれた手がそっと上へ伸びて
お胸をかすった。
町娘の防御力の低い服では、その感触はダイレクトだ。
ユージーンが、ヘレナの手をにぎにぎしながら
その手にも口付ける。
「これで、安心してヘレナに触れられる。
ー 建国までは我慢してた。建国してしまえば...。
それに、アーサーもきっと喜ぶ。」
ヘレナは、心臓が止まった。
多分、瞬間的に口からエクトプラズムが出ていただろう。
幽体離脱するかと思った。
実際は半分していただろう。
今日は怒涛の一日だったけれど
ここにきて、ヘレナは幽体離脱を取得するほどの衝撃を覚えた。
すごい、解脱まであと一歩だ。
さらにヘレナは天におわす裸族にすら半歩近付いた。
「あ、...アーサー...」
「あぁ、そうだ。アーサーは今フィリップのとこだろ?
手紙に書いてなかったか?」
読んだ。ー 手紙は読んだ。
しかし、そこに書かれていたものは
ヘレナが実母でないことを知っていたことや
自分は王族から離脱して、国のために騎士になりたい、
そんなことが書いてあった...。
(...わ、忘れてた...)
ヘレナ、やらかし案件をここに思い出す。
めんどくさいことは片付けたと思っていたのに
まだ盛大に残っていた。
しかもよりによって、あのスキモノの
フィリップにアーサーを託したとは
ヘレナ、女帝として痛恨のミス!!!!
(アーサーのことは何があったって守るつもりだったのに!!
何を惚けていたの!? ー ヘレナ、しっかりしなさい)
段ボールから無意識にきゅうりを握りしめて立ち上がっていた。
「こうしてはいられないわ!!
フィリップを!
アーサーはどこなの?!!」
ユージーンは戸惑いを見せる。
「え、だって、今、ほらあの。」
もう少し、イチャつきたいらしい。
お胸をもう少し、なんか、どうにかしたい。
ヘレナは声を上げていた。
「まだよ!!ー まだ、終わらんよ!!!!」
花火は川面を照らしている。
ポチャン、と川面を跳ねたのは
多分 ー
ー フナだろうね。
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