第23話 間抜けな二人

ー そうだな。 まずは聞いてくれよ。

俺らのツイてない話。





俺らは成り上がりたいんだ。


金はないし

女にも縁はない。

あるのは若さと、体力、やる気だけ。



いっそ清々しいってもんだろ。



そりゃ、無いもんは仕方ないけど

どうにかするのが男ってもんだ。

それぐらいの気概もあるし、何ていうのかな...

ちょっとはかっこつけさせてくれよ。




だから、国が戦争をするってお触れが回ってきた時は

これはチャンスだって思ったよ。



うちの国の女帝が、戦争やるってんだ。



どんな女か知らないけど

なかなか勇ましそうだよな。


ひょっとしたらめちゃめちゃ強い女なのかな。

世界最強の霊長類かなんかなのかも。


それか、女帝っていうんだ。

すっげぇこえ〜人かもしれない。

真っ黒な機械の体で時々”シュコーッ”て言うのかもしんねー。こえー。

暗黒面に落ちた女帝とか、くすぐるモンはあるけどね。



ま、どっちだっていいよ。



戦争でいい働きをすれば、軍の騎士団員に入団できるって

村のオッサンが言ってた。


うちの国の軍は、実力主義だから

元々の家の出が良くなきゃいけないとか

家が裕福じゃなきゃいけないとか

そんなめんどくさいのは一切ナシ!



いい国だよな。



実際、俺らは家もないし

金もないし、親もいねーけど

それがなくて、この国で困ったことねーもん。



特に女帝になってから、食う物に困ったことはない。

公共事業っての?

橋作ったり、川の幅広げたり縮めたり

それから、何だっけ、難しいことはよくわかんねーけど

国の仕事だよ。


手伝えば、金ももらえるし

食い物も朝・昼・晩の3食もらえるんだよ。


だから俺らは時々そういうのを手伝ってたんだ。

国のためにってか、てめーらが食うためだと思ってやってたけどさ

現場の奴らもいい奴ばっかだったから

仲間みたいになったよな。



何でか休憩が2時間あるのは驚いたけど。


それにさ、エルンハスト領の製鉄所で働けば

貧乏しなくて済むって話は有名で

俺らの村からも何人かはもう、エルンハストへ行ったよ。


エルンハストってとこは不思議なとこだ。

だって、国の一部のはずなのに

公国って扱いなんだぜ。なんじゃ、そりゃ。


わかんねーだろ?

俺も10回目ぐらい聞いてぼんやりわかった話だよ。

あそこはさ

エルンハストの王ってのがもう居るんだけど

うちの国のハリボテ王を立ててるんだと。


うちの国の王、まじ使えねーのにな。

何でかね。

女帝の方が1000万倍良いよってみんな言う。


俺もそう思う。

ー もう死んだから良いけど。

あれ、これって言っちゃいけなかったやつ?

いっか〜。



で、エルンハストの今の王、つまり大公ってのがさ

何だっけな、...あ、ユージーン将軍だ。


かっこいいよな。

大公で将軍だぜ。鬼に金棒みたいだな。


見たことがあるんだ。


黒い獅子かと思った。


俺が昔いた国じゃ、ああいうのは大将の器だ。

国を治めるタイプってことだ。

どしんと構えててさ、人になんでか好かれるような

いるだけで安心するようなヤツっているだろ?あんな感じだよ。

スッゲェ強いらしいし、見た目もかっこいい。

俺が女なら惚れちゃうね。まじで。


だから

俺らはあの大将の目に留まりたいって

そう思ったんだ。

あの人の指揮の下でなら、なんか

”男”を上げるような気がするし、

あの人の下ならたとえ死んでも ー かっこいいだろ。


俺、さっきから”かっこいい”しか言ってなくね?

やべ、恥ずかしい。



けど、俺らだって...

俺もあいつも

実力はあるんだ。




目に止まれば、あいつの願いだって叶うはずなんだ。


ただ、うちの国の騎士団は

敷居の高さがハンパない。

その敷居の高さとは、いわゆる実力というやつだ。

ちょ〜、キビスイ。



『ー 俺は 騎士になりたいな 』

あいつは、固くなったパンを齧りながら言う。

俺は頷くんだ。

正直言えば、俺は騎士になりたいとかは思ってない。



俺、自由人だから。



けどまぁ...、うん。現状見れば

今の俺らじゃ、到底騎士になんてなれっこない。

実力云々の問題じゃなくって

そんなのわかってるんだ。



だから、この戦争に賭けていた。

なのにあいつは、崖で足を滑らせて

助けようとした俺も一緒に ー 落ちた。



怪我は擦り傷だけ。

それで、俺らは間抜け野郎だ。

みんな許してくれたけどさ

情けねーだろ、やっぱ。



けど一番悔しいのはあいつだってのも、わかってんだ。



良いとこなかったしな。

初めての出陣はひとっつも見せ場もなけりゃ

崖から落ちて、はい、終わり。



あっけなかったなあぁ〜、我ながらそう思う。




『 まぁ、それだけ軍師も将軍も立派ってことだ 』


だなんて、あいつは納得したような顔しやがったよ。

滑って落ちたの、お前だよ。俺も落ちたけど。



でも、あの戦争は実際うまくやったんだよな。

見事な采配。

将軍の動きだけで、幕を閉じた稀有な戦争。

撹乱された情報に統率のなくなった敵兵たちは

散り散りよ。


軍師ってのが、相当キレるヤツだと俺は思うね。


なんでそんなこと知ってるかって?

ハハ、まだ秘密。




この国は、女帝が王政を始めてから

色んな意味で良くなっている。


それは確かだ。



だから、あの戦争であいつは騎士を諦めたかもしれない、なんて

俺は思ったんだけどそれは違った。


『 国に何もなくて良かったじゃないか。

  ーでも、俺はやっぱり騎士になって

  国を、みんなを守りたいなぁ 』


どっかのあんぱん野郎みたいなやつなんだよ。


そんでもって


ー あいつは優しい男だ。

頭もすごくいい。かっこいいしな。

見てくれだけなら俺と良い勝負だな。

嘘じゃね〜って〜、俺、モテんだよ。


金がねーから、モテないってだけ。

女は見る目がないね〜。


何してんだろね、世の女は。


どっかで前髪いじくり倒してる場合じゃねーだろ。

化粧なんてしなくても可愛いからさ、ほら早く

俺らみたいな原石見つけたら

にこやかに気合い入れるためにケツ引っ叩いてくれよ。




男は惚れた女のためなら

多少無理して頑張っちゃう生きモンなの。

へへ、だって褒められたいだろ、好きな女にさ。



けどな〜、マジでないもんはない。

金があれば ...

好きな女に花も買ってやれるし

服だって自分の前でだけエロいの着せたいし

飯だって好きなだけ食わせるよ、俺は。



お嬢ちゃんは、何食べたい?



あぁ、言っとくけど

俺はよく食う女が好きなんだよ。

痩せてるのが良いって女は思ってるかもしんねーから

間違いは指摘しておく。


『よく食う、肉付きのいいエロい体した、よく笑う、エロい女』

が良いんだ。



わかっちゃった?




痩せてる女は抱き心地がよくないし

ぎゅってしたら折れないか不安になる。


ほら、もっとお食べ。病気はダメだぜ、健康第一、ボディボディ。


え?おっぱいでかけりゃいいだろって?

ちっげーぇよ。わかってねーな〜ぁ、お嬢ちゃん。



おっぱいなんて飾りですよ。ってどっかの機械整備員も言ってたぞ。

女はケツだね。

腰回りの肉付きいいのがイイネ!!!!



それが、また良い。




プニプニしてるんなら、それだけでごっつあんです。

この良さがわからんって男は

まだまだお子ちゃまだね。間違いない。


触りて〜ぇって思ってるんだわ、俺ら野郎は。

そんな物欲しそうな顔してねーだろ?するわけねーじゃん。

心ん中見えなくって、まじ感謝。


プニプニ女子、至高にござる、


それでいてそんな女が朗らかに笑うんだぜ。

サイコーだろ。

菩薩だよ、菩薩。天昇するわ、まじ。



ん?だいぶ話変わったか?

俺は好きなんだけどね、こんな話。

お嬢ちゃんたちの前では絶対しないよ。

カッコつけてるからね。

お嬢ちゃんたちも、こんな話をおおっぴらにする男

いやだろ? ー それが礼儀だもんな。



ここだけの話だよ。



お嬢ちゃんたちの中で、俺に興味あったら教えてよ。

迎えに行くからさ。


飯食いに行くぞ〜っつってな。



やべ、見えない何かにつねられた。

はいはい、戻りますよ〜っと。


え?あいつ?

あいつの趣味はわからねーけど

俺と同じじゃね?

エロい話はあんましねーし。今度聞いとくわ。



けど、あいつの特技は知ってる。


あれは特別なもんだと、思う。

とにかく、”戦術”の考え方が特殊。

あと、...天才の部類だね。

発想が天才。ーうまく言えねーけど。


本とかあるじゃん。アレを全部一字一句覚えてるのは当然だし

人の癖と弱点みたいなもんを把握するのが的確で早い。

軍師、に近いのかな。



ただな〜ぁ...



如何せんトロい。剣を持たせても

ーう〜ん、筋がない。


あ、つまり運動神経がすごく悪いってこと。


それでいてあいつ、騎士になりたいだなんて言うんだよ。

騎士って、まんま運動神経と直結するやつじゃん。

終わってんだろ。



さっきも言ったけどさ、騎士団に入るってのは本当に難しい。

入団試験は定員が決まってて

その上、めちゃくちゃ審査も厳しいんだよ。


実剣技、基礎体力テスト、実践体技。

運動能力系統一般が試されるものでオンパレードしてる。


体技なんかは、実際副将軍と手合わせだしな。



俺ならイケるけど

あいつは...


あいつにそれを言うのは ー。



それは難しい..とは言えない。


だってあいつは俺の命の恩人なんだ。



俺は昔いた国から出て、この国へ来た。

旅は途中まで順風満帆。

国を出た経緯は省略するけどさ

簡単な話、昔いた国が嫌になったってだけ。


けど

その途中で

あー...、あんま言いたくないんだけど

言わなきゃダメかな。


マジかよ。

さっきつねられたとこ、まだ痛いんだけど。


いてっ!痛いって。

わかったって。わかったから、つねろうとするなよ。

はいはい、お嬢ちゃんのためね。

どーでもいいけど、あんた誰よ?

イデデデデデッッ!!ゴーメーンって〜ぇ!!


ったく。

ペンチでつねられるレベルで痛いんだぜ、それ。


わかったよ。ー ふぅ..、そう、俺は。



旅の途中で騙されたの!

めっちゃ美人なおねーたまに!!


悪いか?

酒をたらふく飲まされて

酒にだってなんか入れられてた。

それだけなら良かったんだけど

気付けば一人、スカンピン。


いや〜、こまったね。


悪いやつってどこにでもいるもんだ。

武器も何もない丸腰な俺は

盗賊もどきの、5、6人の男らに取り囲まれてたんだよ。


酒が入ってなければどうにかできたかもしれないが

浴びるように飲んじゃった。てへ。


多分、酒に入れられたものは

痺れと睡眠剤と弛緩剤だろうね。


あんまそれって俺に効くもんじゃないんだけど

それでも意識がなくなるまで飲まされる俺が悪い。


場所だって定かじゃないもんときたもんだ。

やばすぎるだろう。


俺、強いんですけど。


それが油断ってことだよな。



死を意識はしてる。いつだって。


だけど、こんな死に方やだなぁ〜なんて思っていたら

あいつが震える手で、剣持って突っ立ってる。

それで言うんだよ。




「 俺が囮になるから、今のうちに逃げろ!」

って。




ぷっ。それをみんなの前で

言ってどうする。って思うだろ?



だけど、それこそがあいつの計算だったんだよ。


盗賊もどきのわっるそうな下卑た笑い声が

辺りに響いたかと思ったら

あいつ、俺に向かって剣を投げながら叫んだ。


「あとは自分でなんとかできるだろう!酔っ払い!!」


え?

助けてくれるんじゃ、なかったの?


何それ。

確かに俺は酔っ払いですけど

金も武器も、ありませんけど


あいつは嬉しそうに笑って言った。

「やってみろ!」


ー あぁ、そう言うことね。

俺は投げられた剣を手に笑う。




「もちろんだ」





(自分でなんとかできるだろうってか

 ー 俺を試してんだな。お前。)



ー 盗賊もどきの注意を引くためだけに剣を持ち

あいつは俺に剣を投げ渡した。




秒殺ですよ。もちろん。

え、俺がじゃない、盗賊もどきよ。

俺が、倒しました。はい。


あいつら俺の武器ガメてたから

取り戻せてラッキーって感じ。


殺しはしないよ。無意味な殺生はしない主義なんで。

けど多分、もう盗賊はできないかもね。



やれやれだよ。


俺がいたのはこの国の国境砦だったんだ。

当時、あいつはその砦で仕事しながら

勉強してたんだ。



助けられたのって初めてだったよ。

今まで全部自分でなんとかしてきたから

もし、どうにもならないんだったら

それが俺の人生の終着点。


そういうハードボイルドな人生だったわけ。



今?

今は違うよ。

だから、金がないとも言えるけど。



だって、俺があらかた片付けた後来てあいつは言うんだ。

「助けてやったんだから、俺の友達になれ」



助けてやった?...う〜ん。どうかな。

けど、剣は投げ渡されたし、言ってみりゃ

恩人だしさ。


初めてだよ、友達っての。



すでに酔いは覚めてたし、俺はそこから逃げたって良かったんだけど

あの剣を持って震えるあいつを見たらさ


”勇気”みたいなもんが

”男気”みたいなもんが


そんなのが眩しかったよ。


俺にはないな〜、そういうの。


だから、俺の友達なわけ。




あー、恥ず。


なんなの、俺ここで

辱められてんの?

こんな話聞きたいか?



そもそもあの美人なおねーたまだよな。

ちきしょう、見つけたらケツ揉みしだいてやる。



その後、俺は砦であいつと

しばらく二人で過ごしたんだよ。

人っ子一人通らないような安穏とした場所だったね。

手っ取り早く言えば、超、ヒマ。



けどあいつ、毎日本を読んでる。

俺は単独でプラプラ川へ行って魚釣ったり

その辺お散歩よ。


二人でやることってあんまねーのな。

飯だって、あいつが作るし

その食事もそこそこうまいから便利。


読んだら、俺にその本の話をしてくるんだよ。

わかんねーからやめてほしいけど

飯も、寝るとこも提供していただいちゃってるからさ

聞くだけなら、聞いてやる。

俺もヒマだしね。



「なぁ、俺は 騎士になりたいな」


ある日、あいつはぽつりと言った。



いや、お前には無理そうだけど。

ぶっちゃけ、最初から思ってた。




けど




戦場で必要なのは

慎重で大胆であること。

馬鹿みたいに突っ込んでったら一発で首なくなるぜ。

かと言って、いつまでも隠れてたら

後ろからズブリ、なんだよ。




そして一番大事なのは、勇ましい気もちがあることなんだ。




怯んでる間にやられちまうからな。

その瞬間に判断する力、それらが

あいつには全部ある。慎重さも大胆さも

何より勇気だってある。


ないのは運動神経だけ。



「お前さ〜、なんで騎士になりたいんだよ」

俺は聞いたよね、聞くよね。

だって、運動神経ないんだもの。

早めに事実に気付いた方がいいこともあるだろ。


「助けられたんだ、騎士に。

 ー お前みたいに強い騎士に。」



俺、人生初の 超 赤面。

ー 俺みたいに強い...


なんなの、こいつ。変なキノコでも食ったの?

俺、褒められたことないから

心臓が無駄にバクバクよ。



だからと言って、お前がそれになれる保証はないんだぜ。



「俺は、自分が剣を上手く振るえないのは知ってるんだ。

 ーけど、そうじゃなくても、俺は騎士になりたいんだ」



あ、ご存じでした?

そしてお前って、結構かたくなね。

わかってて、騎士になりてーって言うんだよ。



しゃーねーよな〜ぁ。




付き合ってやるかー。

今までの人生で、俺はいつだって

自分で選んだことなんかなかったからな。


てめーで選んだよ、初めてね。

こいつの騎士になりたいって願い

叶えてやろーじゃねーか。



友達だからな。



これが俺とあいつのそんな出会いの話。





そして、今に至る。


あいつが騎士になれるかどうかは

実際俺に懸かっていると言っても過言じゃない。

むしろ、俺があいつの良さを存分に引き出してさえやれば

あいつはきっと良い騎士になれると思うんだ。


だから、俺は

ある作戦を立てたんだ。



その作戦とは ー。ズバリ。



『 騎士物語(ナイトストーリー)は突然に 』


どうよ。

成り上がるにはいい題名だろ。



どうだい、お嬢ちゃん。

俺らのツイてない話は、成り上がりシンデレラみたいに

きっと面白くなるよ。





さて...そろそろ行かないと。




あぁ、言い忘れてたけどね

あいつの名前はロレンツォって言うんだ。


覚えておいて損はないよ。






俺?

俺の名前なんて聞きたいの?


大丈夫、またすぐにお嬢ちゃんの前に出てくるよ。


それまで、ちょーっと寂しいかもだけど

ご飯食べて、デザート食べて

幸せな顔しておいてくれよ。





おにーさんと、約束だ!!



なんてね。








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