第6章 (未定)
#51 イカレた女の子たち
8月下旬。
今日と明日は、兼ねてから予定していた邦画研究部での夏合宿。この夏休み最後のイベントとなる。
参加者は、部長のミイナ先輩、副部長の僕、会計役の佐倉さんの3名。そして、総務委員長と言う立場を職権乱用して強引に参加を決めた久我山さん。
部外者の久我山さんが強引に参加すると言い出したのは、表向きは総務委員として邦画研究部の合宿を監視と監督が目的だけど、実際には僕が他の女性とお泊り合宿するのが面白く無くて監視したいという、至極私的理由で参加したかったのだろう。
というか、久我山家でのバイトが終わって残りの夏休みが部活ばかりの僕と、ただ遊びたかったのかもしれない。受験生なのに。
僕は久我山さんから交際を申し込まれている。
そしてその告白をされた時に僕が返事を保留にして貰う様にお願いすると、それを了承する代わりに『もう遠慮とかしないからね?私だって必死なんだから積極的にアピールするからね?』と言われていたので、今回の参加は有言実行というわけだ。
それにしても、この状況。
先日、浴衣で集まった時もそうだけど、改めて考えると3人とも緑浜高校では有名な美少女で、そんな中に男は僕一人だけ。
ミイナ先輩が楽しそうな顔して『美少女だらけのアラタハーレムだね』と言っていた。
佐倉さんの話では、ライトノベルのラブコメでは『ハーレムもの』が定番らしくて、一人の男子(主人公)に幼馴染とか先輩とか同級生とか後輩とか妹とか妹の友達とか幼馴染のお母さんとかバイト先の後輩とか見ず知らずの財閥令嬢とかのヒロインが集まって来て、みんな主人公大好きで主人公を中心にハーレムを形成する青春恋愛コメディが人気らしくて、今のこの状況がまさにソレだと、ギンギンの凄い目力で力説してた。
言われてみれば、確かに今の僕を取り巻く状況はそれに近いかもしれない。
しかし、冷静に考えれば、一夫多妻制が認められてない現代日本では、そんな状況は普通は血の雨が降るのではないのだろうか。
なぜそんな地獄絵図の様な物語が好まれるのだろうか。
主人公なんて『この浮気もの!』とか言われてサクッとお腹を刺されてジ・エンドになるのでは?僕も刺されちゃうの?
ヒロイン同士も『この泥棒猫!』とか言い合って取っ組み合いの喧嘩になるのでは?って、ミイナ先輩と久我山さんがよくいがみ合いしてるのはそういうことなの?
っていうか、金と権力持ってる財閥令嬢の独り勝ちでは?なのにハーレム成立するの?
っていうか、ヒロインに何故妹が?今時のライトノベルは倫理観大丈夫なの?
と、そんな尽きない疑問を佐倉さんに投げかけたら、『だから良いんデス!』と鼻膨らませて握り拳作って更に早口で力説し始めたので、聞くのが面倒だったから『きっと無いもの強請りで現実に有り得ないから好まれるのだろう』と脳内で納得しておいた。
けど、残念ながら僕を取り巻く状況は、これが現実なんだよね。
困ったことにリアルなんだ。
少なくとも久我山さんからは告白されている訳で、僕への好意をハッキリと表明されている。
告白されて以来の言動は、僕への好意を隠す気全く無しだ。
夏休み終わって学校でもあんな感じだと、『あの久我山委員長が1年の冴えない男子にご執心だと!?』とか言って大騒ぎになるのでは無いのだろうか。今から物凄く不安だ。
そしてミイナ先輩からは、『アラタがこの先、カノジョ出来なくて寂しいって思う様になったら、私がカノジョになってあげるよ』と言われている。
直ぐに付き合うとかの告白では無いけど、こんなことを言えるのは僕のカノジョになっても良いと思える程度の好意はあると言っても過言は無いだろう。
更に佐倉さんからは、言葉では無く行動(主にスキンシップ)で距離感ゼロでグイグイ迫られている。普段から僕以外の男性とは距離を取ってる佐倉さんが僕にだけはベタベタしては胸を押し付けて来るし、この間なんて耳をペロペロして嬉しそうにしてたし、デートして以来全く遠慮なしだ。
僕の認識では、好きな人の耳をペロペロするという愛情表現は無いけども、佐倉さんにはそういう欲求があるのだろう。流石に学校とかじゃやらないと信じたいところだけど、最近の佐倉さん見てると、教室とかでも何かしら突飛な行動をしてくるのでは無いかと言う不安が拭えない。
と、ミイナ先輩にも言われたけど、それ程のスキンシップばかりしたがる佐倉さんを、あれで『だたの推しへの愛だよね』って言うのは無理があるというのが僕にも判って来た。認めたくは無いけどもね。
兎に角、今の僕が人生最大のモテ期だというのは認める。
でも、僕に大した魅力なんてある様に思えないんだよね。
久我山さんは僕の事をやけに過大評価してたけど、全然イケメンじゃないし、スポーツマン的な爽やかさも皆無だし、勉強は何とか頑張ってるけど緑浜高校じゃ僕より成績優秀な人は沢山居るし、精々総務委員会書記として少し人助けをしてる程度。
だから、モテて嬉しいというよりも、戸惑いばかり。
本音を言うと、困っている。
と、ここ最近ずっとこんな悩みが尽きないのだけど、時間はそんな僕を待ってはくれず、予定していた通り夏合宿の日がやってきた。
朝の8時半に登校して部室に行くと、ミイナ先輩が一番乗りで来ていて既にスクール水着にも着替え済だった。
ミイナ先輩は定番のツインテールに中学時代のスクール水着で、いつものようにソファに寝転がって寛いでいた。
因みに僕は、家から学校のジャージで来てるので着替える必要は無い。
次に制服姿の佐倉さんが来たので佐倉さんの着替えのために僕だけ廊下に出ると、同じく制服姿の久我山さんも来たので挨拶して「今、佐倉さんが着替え中なので少し待ってて下さいね」と告げると、「私も着替えちゃうね」と言って部室に入って行った。
僕と同じでジャージに着替えるのかと思い、特に気に留めずに廊下で待ち続けていると、部室の中から言い争う声が聞こえて来た。
「なんで腹グロ女まで水着になってんだよ!そんなに胸アピールしたいんかよ!」
「アピールなんてしてないわよ?峰岸さんは相変わらず被害妄想が酷いのね。胸が無いのがそんなにもコンプレックスなの?」クスクス
「はぁ?マジでコロスぞ!っていうか、ココで部員以外が水着なんの認めんし!」
「あら、峰岸さんは私に熱中症になれって言うの?夏合宿中に病人でも出たら問題になるわよ?邦画研究部活動休止とかになってもいいの?」
「アンタ邦画研究部員じゃねーし!アンタ倒れても総務委員会の監督責任だし!」
「じゃあ総務委員長としての自己判断で、ココは水着にならせてもらうわね」
余りにも下らない言い争いに溜め息を漏らしつつ、ドアをノックして「そろそろ終わりました?僕も部室に入りたいんですけど」と言うと、ドアが開いたけど、ドアを開けてくれた佐倉さんは泣きそうな顔で怯えてるし、ミイナ先輩は久我山さんに今にも殴りかかりそうな勢いで睨んでるし、久我山さんは表情は余裕だけど、腰に手を当てて仁王立ちしてミイナ先輩に向かってパツンパツンに張り詰めた大きな胸を突き出す様にして挑発してるし、しかも3人ともスクール水着だし、マジで勘弁して欲しい。
因みに、佐倉さんはいつもの中学時代のスクール水着で髪を後ろで短くまとめてて、久我山さんはハーフアップの髪型のまま佐倉さんと同じデザインのスクール水着だ。二人は同じ中学出身だから、多分久我山さんも中学時代のものだろう。二人とも胸がパツンパツンできつそうで、それしかなくて無理矢理着てるのだろう。
そもそも、部室で水着ってルールが既にイカレてるんだよね。
そんなイカレたルールの上で言い争いをされても、どっちもイカレてる様にしか見えないんだよね。
あ、今、理解した。
ハーレム物のラブコメのヒロインって、頭ぶっ飛んでイカレてないと成れないのか。
だから佐倉さんも率先して頭のおかしな行動をしてるのか。
久我山さんも本当は分別ある常識人のはずなのに、僕達に関わってるせいで頭おかしくなってるのか。
なるほどなるほど。
ミイナ先輩は、ノリで?
______________
今年1年、ご贔屓にして頂きまして、ありがとうございました。
来年もぼちぼち書いていく所存ですので、どうぞよろしくお願いします。
良いお年を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます