#50 楽しいのも、ままならないのも、それが青春
他にも冷食のチキンナゲットやちくわ天を揚げたりしつつ、炊飯ジャーでご飯が炊きあがると、3人でオニギリを作ることにした。
ミイナ先輩は、ボールに適量のご飯を入れると、のりたまのふりかけを混ぜて、少し小さいサイズのオニギリを3つ作った。
佐倉さんはいきなりジャーの中の熱々のご飯をしゃもじで取って握ろうとしたので、「いきなり素手は熱くて火傷するよ」と制止して、ボールに適量のご飯を取り塩をまぶしてから混ぜて、お茶碗の内側にラップを敷いた物も用意して、その中に1個分のご飯を入れる。
そのお茶碗を手に持って、中のご飯を転がす様に左右に振り、ご飯が丸まったらラップごと外して両手で握ってオニギリの形にして見せた。
「こうすれば、慣れてない人でも簡単に出来るよ」
「やってみます!」
「うん。まだ熱いようなら、少し冷ましてからでもいいからね」
佐倉さんがオニギリ作りを始めると、僕は冷蔵庫から梅干しを取り出して、3つ分、種を取り除いてから包丁でペースト状になるまで刻み、手を良く洗ってから多めに塩をまぶして、素手でジャーから直接熱々ご飯を取って握り、具にペースト状にした梅干しを入れた。
3つ作り終えて味付け海苔を2枚づつ貼り付けて完成させると、佐倉さんもミイナ先輩に教わりながら自分でつくったオニギリ3つに味付け海苔を貼り付けていた。
これで一通りの調理が終わったので、食器棚の奥から3段セットのお重を取り出して、その内の2段分にミイナ先輩と佐倉さんとで、作ったおかずやオニギリを詰め込んで、遂にお弁当は完成した。
「凄いです・・・こんなに手の込んだ料理をしたのは、初めてですよ!」
「言うほど手は込んでないけどね。でも佐倉ちゃんも少しは出来る様になったね」
「そうですね。これなら明日からもお昼ご飯作るの手伝って貰いましょうか」
「任せて下さい!」
「で、どうしましょうか。 3人ともすっごい汗かいてるんで、先にシャワーでも浴びます?」
「その前に写メ写しとこ!」
「そうですね!私も写メに撮ります!」
「じゃあ僕も」
3人ともスマホでの撮影に満足すると、一旦シャワーを浴びることになり、佐倉さん、ミイナ先輩、僕の順番でサササっとシャワーを済ませた。
そして、二人がシャワーを浴びて着替えている間に、リビングにレジャーシートを敷いて、水筒に冷たい麦茶を入れた物も用意して、レジャーシートの中央にお弁当のお重と一緒に置いて、遠足っぽい感じに準備した。
それを見た佐倉さんは、「お花見みたいです!早く食べましょう!」と興奮気味で、ミイナ先輩も「おぉ~!こーゆーのしたかったんだよね!」とノリノリだった。
じゃあ食べましょうか、と3人でお弁当を囲む様に座り、手を合わせてミイナ先輩の音頭で「頂きま~す!」と食事を始めた。
まず最初に、塩加減が気になっていた自分のオニギリに手を伸ばそうとすると、佐倉さんが「私のオニギリ食べて下さい!」と強引に手渡されたので、それを受け取り、パクリと1口食べた。
佐倉さんが初めて作ったと言うオニギリは、普通に食べられるレベルだった。
ただ、具が無く塩味だけで若干物足りなさを感じたので、ミイナ先輩の焼いた玉子焼きを1切れ口に放り込んだ。
ミイナ先輩の玉子焼きは、見た目も綺麗だし程よい甘みとしっかりとした歯ごたえがあって、かなりの上級者レベルだと感じた。
「うん。オニギリ上手に出来てて美味しいよ。ミイナ先輩の玉子焼きも、流石です」
女性の手料理は、褒める以外に選択肢はない。
女性の扱いが下手な僕でも、それくらいは理解している。
「ホントですか!? 手料理を食べて貰うの、アラタくんが初めてなんです!初めてでホメられちゃいました!」うふふ
「僕だけじゃなくて、ミイナ先輩も食べてるけどね」
そのミイナ先輩は、佐倉さんが作ったポテトサラダを食べては、「コレいいね。簡単だし、今度私も作ってみようかな」と感想を零していた。
「次はアラタくんのオニギリ頂きます!」
「どうぞ。具が梅干しだけど、そんなに酸っぱくは無いと思うから」
「あ、私もアラタのオニギリ頂こ」
「どうぞどうぞ」
二人が僕の作ったオニギリを頬張り、モグモグしている様子をじっと眺めていると、二人とも「お?」と何かを感じた表情をした。
「梅干し、甘い?」
「うん。酸っぱいんだけど、甘味もあるね。 ペーストにするとこんな味になるの?」
「そうみたいです。梅干しの種類もあるけど、ペーストにしたら食べやすいし、味も酸っぱさが和らいで甘味が増すみたいです」
「凄く食べやすいです。もう1つ欲しくなりますね」
「うん。食べやすいし、なんか懐かしい感じするね」
「佐倉さん、もう1つ食べたかったら、僕の分どうぞ」
僕の作ったオニギリを二人が楽しそうに頬張るのが嬉しくて、思わず「写メ撮らせて下さい」と断って、オニギリを頬張る二人の姿を撮影した。
その後も佐倉さんは、ウインナーを箸でつまんでは僕に向けて「このウインナーも私が焼いたんですよ!」と言っては食べさせ、ポテトサラダを摘まんでは「私が作ったポテトサラダも美味しいから食べて下さい!」と言っては僕に食べさせ、その度にミイナ先輩に、「いや、全部アラタに言われたまま作ってたヤツじゃん。むしろアラタの料理なんじゃ?」と突っ込まれて、「私の愛情が注入されてるんです!」と佐倉さんはムキになって、更に僕に食べさせようとしていた。
そんな佐倉さんに呆れたミイナ先輩は「わかったわかった」と言いつつも、僕が佐倉さんから「あーん」ってされてる姿をスマホで撮影してくれた。
佐倉さんもミイナ先輩も本当に楽しそうで、そしていつも以上に沢山食べていた。
僕も、ここ最近の悩みとか忘れて久しぶりに笑った気がする。
お重が空になる頃には、時計は3時を過ぎてて、3人とも満腹で特に佐倉さんは動けなくなっていた。
「す、すみません・・・調子に乗って食べ過ぎました。 飛べない豚は、ただの豚・・・」
「洗い物は僕がしとくんで、二人は僕の部屋で休んでて下さい」
「アラタごめん。私も結構キツイから、そうさせてもらうわ」
汚れた食器や調理器具を全部洗い終えて、リビングのレジャーシートも畳み、クーラーを切ってから自分の部屋に戻ると、いつもの様に僕の布団が敷かれてて、佐倉さんとミイナ先輩が仲良さそうに寝転んで、既に寝息を立てていた。
僕が部屋に入っても二人は目を覚まさなかったので、ミイナ先輩が跳ねのけていたタオルケットを掛け直してあげてから、音を立てない様に注意しながらパソコンでの動画データをチェックする作業を再開した。
チェックしているデータは、ミイナ先輩のカメラで撮影した動画で、画面には佐倉さんと僕が部室の畳で並んで寝転がって、宿題のテキストを広げて勉強している様子が映し出されていた。
肩がくっ付く距離感で、たまに佐倉さんが僕に質問して、僕もそれを一緒に考えては「これで出来るんじゃない?」とか言いながら教えている。
こうして客観的に見ると、僕と佐倉さんは本当に仲良さそうだ。
異性だというのを感じさせない程で、4月の再会当時のギクシャクしてたのが嘘みたい。
今日の『お家で遠足企画』もそうだけど、僕が入学当初思い描いていた『楽しい高校生活』とは、正にこんな感じでは無かっただろうか。
寧ろ、あの頃思い描いていた物以上の楽しい青春の日々を送ることが出来ているのでは無いだろうか。
そう思うと、やっぱり僕は、ミイナ先輩とも佐倉さんとも、友達としての付き合いが自分にとって一番望ましい関係なんだと改めて思う。
そこに恋愛感情が入って来るのには、どうしても抵抗感を感じる。
本当なら、久我山さんともそう在りたかったけど、既に告白されてしまっている身としては、現状維持とも言える友達関係継続はきっと許されない。
いずれは結論を出さなければ、久我山さんに対してとても不誠実だろう。
だからこそ、悩む。
楽しいことばかりでは無く、ままならないのも、10代の青春だからなのかな。
________
第5章、お終い。
次回、幕間エピソード挟んで第6章スタートの予定でしたが、しばらく別作品の執筆に集中する為、更新を休止致します。
更新再開の際には、近況ノートにてご連絡しますので、よろしくお願い致します。
『サレタ男の門出と、シタ女の遅すぎる後悔』
こちらは更新を続けてますので、よろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16817330659725070020
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