#45 ミイナ先輩と久我山さんの因縁



『大っ嫌い!』

『大好きだよ』


『一生、許さないんだから』

『生涯を添い遂げる覚悟で告白します』


 どの言葉も、久我山さんの感情が溢れている様に聞こえた。

 だから、僕の心にこうも突き刺さっているのだろう。



 ◇



「それでその翌日に、久我山さんから『今度の日曜日に地元でお盆のお祭りあるから、遊びに来ない?』ってメッセージが着て誘われてまして、どうしたら良いのか分からなくなっちゃってて、今日まで返事が出来ずにグダグダ悩んでたんです」



 久我山さんのこれまでの打算的な考えとかは話さずに、『海で泣かせたら「大っ嫌い!」って言いながらも、何故か僕の事を本気で好きだと自覚したらしくて、それで帰りの電車の中で、告白されました』といった内容で説明した。


 久我山さんが話してくれた内容のほとんどは、恐らく今まで誰にも話したことが無いだろうと思えたし、それを僕が勝手に他人に話すのはダメだと思ったから、ウソにならない程度で、久我山さんが僕を本気で好きなことと告白された部分だけを話した。



 そして、お祭りの誘いにはもう日程的に余裕が無いのに、どう返事をするべきかが分からくて、今一番の悩みであるということも。



「なるほどねぇ・・・久我山リョウコはアラタのことを本気で好きだったんだね。ちょっと意外だよ。見直したかも?」


「意外なんですか?見直すほど?」


「うん。まぁね。勿論アラタのこと気に入ってて特別扱いしてるは分かってたけど、独占欲みたいなもんかなってね」


「ミイナ先輩って、久我山さんのこと相当嫌ってるのに、久我山さんのこと色々と詳しいですよね?性格とかも良く知ってるみたいですし、本当に二人の間には何も無いんですか?」


「うーん、あんまり話したくなかったんだけど、アラタも話してくれたし、私も話しとこうか、去年あったこと」


「去年あったこと?」


「うん。 多分、誰も知らないし、あの女も多分知らない話。 私の胸の中に閉まってた話」


「はい」


「まぁ、ありきたりの話なんだけどね。 私にも、好きな人が居たんだよ。 1年の時、同じクラスだった男子でクラスの学級委員長でね、その人のことは真面目で誠実な人だと思ってたのよ」


「へぇ」


「それでね、別に告白したとかされたとかは無いし、私の方が「いいなぁ」って思ってるだけなんだけど、もっと仲良くなっていずれ恋人になれればいいなぁって憧れてる感じだったの。 恋に恋してるっていうのかな。 それに相手も、私のこと悪くは思って無かったと思う。 私が話しかけるとよく照れてたし、私がクラスの女子と人間関係で上手くいってなかったこととか、心配して凄く親身になってくれてたし」


 周りとは上手くいってなかったのは分かってたけど、そのことをハッキリと僕に話してくれたのは初めてだ。


「同じクラスで距離も近いし、このままベタベタしてれば相手も私のこと好きになって相思相愛になれるんじゃないかって甘く考えてたんだよね。私も初めて異性のこと好きになったから、臆病というか勇気出して告白することよりも現状に甘えてたっていうか。 でもさ、学級委員長って生徒会の所属でさ、去年の生徒会には久我山リョウコが副会長として居たんだよね」


「なるほど・・・」


「気づいた時にはもうその男子は先輩である久我山リョウコのことを好きになってたみたいでさ、私がアピったりしても全然見向きもしなくなってた。 ただね、それだけなら自分がモタモタしてたってだけの話で、現状に甘えてた私の自業自得なんだけどね、あの女はその男子が自分に好意を持ってるの分かってても、その好意には応えることなく手懐けて、生徒会のメンバーとして上手く利用してたんだよね。それ知った時に物凄く悔しくてさ、色々調べたんだけど、あの女はいつもそんな感じで男子のことを扱ってたらしくて、だから大嫌いだし許せないの」


「そうだったんですか」


「でも、アラタの話を聞いた限りでは、アラタに対してはあの女の方が完全に入れ込んでる様だし、それも相当本気みたいで、だからちょっとだけ見直したんだよね。 嫌いなのは変わり無いけどね!」


「ええ。正直、僕も久我山さんとの初対面では、そういう雰囲気を感じてました。異性をコントロールするのが上手いといいますか。 でも僕個人に対しては、そういう態度とか言動は無かったですね。 本当に優しいお姉さんっていうか、親戚のお姉ちゃんくらいの距離感で。 だから海水浴に行く日までは、ずっと僕の事は弟程度に思ってるんだろうって思ってましたから」


「アラタはそういう女の気持ちとか、ちょっと鈍感だよね。あの女だけじゃないからね?」


「ええ、そう言われると、否定出来ません・・・因みに、そのミイナ先輩が好きだった人は、今どうされてるんです?まだ久我山さんを追いかけてるんですか?」


「それがさ、笑っちゃうんだけどさ、今、生徒会長やってるよ。 私の予想では、あの腹黒女が今年も生徒会に立候補すると思ったんじゃないの?もしかしたら本人からもそう言われてたかもね。 それでもっと近づこうとしたのか男として認めて貰おうとしたのか知らんけど、生徒会に立候補してさ、生徒会長になったんだけど、腹黒女本人は見向きもしないでサラっと総務委員会で委員長になってましたって話。 因みに、私はもうその男子に未練とか一切無いからね!むしろ顔も見たくないっていうかさ、あの腹黒女の言いなりになってる情けない姿見たら、千年の恋も冷めるっつーの」


「生徒会長ですか。確か2年の畑中さんでしたっけ・・・っていうか、僕も久我山さんの言いなりになってるのでは?」


「いや、アラタは言いなりじゃないでしょ。 そりゃ委員会の上下関係あるから言うことは聞いてるけど、あくまで仕事上の関係じゃん。 さっきも言ったけど、アラタって女の気持ちとか鈍感でマイペースだし、手玉に取られてないじゃん。 今の状況だって、あの女の方がアラタに手玉に取られちゃってるよ? アラタの方こそ、みんながビビる久我山リョウコに意地悪して逆にホンキで惚れさせちゃうとか、どんだけ女たらしなんだよ!って思うよ?」


「なんか酷い言い様ですね・・・僕としては、真面目に先輩後輩としての交友関係だと思ってたし、意地悪したのだって、海の解放感でツイツイ悪戯心が沸いてしまった感じでしたし」


「で、何の話だったっけ・・・そうそう!あの女からお祭りに誘われてて、どうしようって話ね。 行ってみたら? 今のアラタが何に悩んで何を迷ってるか色々複雑なこともあるだろうけどさ、じっとしてても何も答えは出てこないと思うよ? 今以上に親密になるつもりが無いにしても、お祭りで一緒の時間を過ごすくらいは良いんじゃない?性欲に負けてエッチなことするつもりもないんでしょ?」


「へ!? お祭りに行っても良いんですか?ミイナ先輩は反対すると思ってました」


「別にあの女の恋路を応援するつもりなんて更々無いけどさ、アラタが幸せになるのは応援してるからね。 アラタ本人にしか答えが出せないことだし、そのアラタが悩んでるっていうなら、少しでも答えを出せる方向をアドバイスするくらいしか私には出来ないからね」


「そういうことですか」


「アラタは色々と難しく考えちゃう真面目なところがあるからね。 前にも言ったと思うけど、周りに気を遣い過ぎだしさ、普通はさ、久我山リョウコとか佐倉ちゃんとか、それに私とかさ、可愛い女の子とこんな風に仲良くなって近い距離で居たら、男子ならみんな考え無しに下心丸出しでデレデレしてるよ? アラタだけだよ?冷静な顔して、弟程度にしか思われてないとか、オタク目線のオタク愛だとか言ってるの」


「ってことは・・・この間ミイナ先輩も『カノジョ出来なくて寂しいって思う様になったら、私がカノジョになってあげる』って僕に言ってくれましたけど、本気だと言うことですか?」


「え!?今その話ぶり返さなくてもいーじゃん!私の話はどーでもいーの!」


「えぇ!?さっきまで散々ミイナ先輩自分のこと話してたのに!?」


「とにかーく!お祭りの件を返事するんでしょ! 今ここで返事送ったら?私がチェックしてあげようか?」


「やっぱり女心は難しい・・・特にミイナ先輩は、難しい・・・」


「ん?なんか言った?」


「いえ、何も」



 結局その場で、久我山さんにはお祭りに行くという内容で返信すると、直ぐに返事が返って着て、日曜日はお昼過ぎてから久我山さんの実家にお邪魔することになった。


 ただ、ミイナ先輩も「私も行こっかなぁ」と言い出したので、久我山さんに『お祭りにミイナ先輩も是非行ってみたいって言ってるんですけど、いいですか?』と送ると、『なんで峰岸さんが出てくるの?』と言いつつも、了承してくれた。


 ぶっちゃけると、今はまだ久我山さんと二人きりになってベタベタされるのはしんどいので、ミイナ先輩が居れば久我山さんもそういう行動には出ないだろうとの目論見があった。




 ミイナ先輩に相談に乗って貰えたお陰で、グダグダ悩んで沈んでいた気持ちが随分と楽になれたので、お礼にこの日はミイナ先輩の分も夕飯を用意して、仕事から帰った母さんと3人で一緒に食べてから、自転車の荷台に乗せてミイナ先輩を家まで送り届けた。







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