第5章 青い夏

#42 悩める日々



 久我山さんと海水浴に出かけた日から、4日になる。


 お盆休み中は部活は休みで、アルバイトも終了してるので、今日まで学校の友達とは誰とも会っていない。

 婆ちゃんの初盆なので、真面まともに出かけたのは母さんと実家に行っただけで、それ以外はずっと家に閉じこもってゴロゴロしてるか勉強してるかだ。


 佐倉さんから毎日2~3通送られてくるメールに返信して、ミイナ先輩や須賀さんからチャットアプリでちょくちょく送られてくるメッセージに反応して、そして、久我山さんから1度だけ来たメッセージには返信出来ずにいる。


 海水浴に行った翌日、久我山さんから送られてきたメッセージには、今度の日曜日に地元の地区のお盆のお祭りがあるから来ないかとのお誘いだった。

 久我山さんのご両親も僕に会いたがっているとも書いてあった。


 お祭りになんて、まだ両親が離婚する前の小学校の頃に行ったきりで、もしこのお誘いが海水浴に行く前なら、僕は喜んでお誘いを受けていただろう。

 でも、今の僕は返事が出来ずにいた。


 海水浴の時からずっと、久我山さんのことばかり考えている。

 そのせいで、何をやっていても気持ちがふわふわしてて集中出来ないし、足元がおぼつかないような不安定な感覚が常にある。

 お誘いを受けるかどうかはともかく、何か返事をしなくてはと思うのだけど、グダグダ考え込んでしまい、今日まで何も返信出来ずにいた。


 やっぱり、誰かに相談したい。

 こんな相談されても相手は困るだろうけど、せめて話だけでも聞いて貰って、このふわふわモヤモヤしてるのを吐き出してしまいたい。

 そんなことを考えてしまうほど、自分が弱気になっている自覚があった。



 僕にとって相談相手と言ったら、最初に思いつくのは母さんだ。

 だけど、母さんにこんな相談は出来ない。


 親しくして貰ってた女性の先輩と二人きりで海水浴に行ったら、泣かせちゃって、その後・・・。

 無理だ。

 女性を泣かせたっていうだけでも怒られそうな話なのに、その後のアレコレなんて、母親に聞かせられる様な話じゃない。


 じゃあ父さんは。

 もう2年以上顔を会わせてないのに、いきなり女性問題の相談なんてしたら、「お前普段どんな生活してんだ!」って怒られそうだ。

 というか、そもそも僕が恋愛に消極的になった根本的原因は両親だし。



 後は、ミイナ先輩だろうか。

 しかし、ミイナ先輩に久我山さんとのデートの話をするだけでも憚られるのに、悩みの本題を話したりしたら、また激昂するんじゃないかと思う。


 残るは、佐倉さんと須賀さんくらいか。

 佐倉さんは、久我山さんに変な対抗心を持ち始めてるみたいだし、須賀さんは、佐倉さんが僕のことを好きだと思い込んでいるフシがあるから、他の女性の話はダメだろう。



 今日は金曜日で明日は土曜日。お祭りが明後日だから最低でも明日までには何か返事しなくては。

 困ったな。

 しばらく恋愛事などうつつを抜かさずに高校生活を頑張ろうと思ってたのに、その恋愛事で悩んでしまうとは。



 結局、何一つ気持ちに整理がつかないまま時間だけが過ぎて行き、この日も気付けばお昼を過ぎていた。


 母さんは、お盆の間も宿直の当番で今日は一日職場の学校へ行っている。

 お昼は自分の分だけでいいので、何か作るのも面倒だしカップラーメンで良いか。

 と、ダラダラしていると、ミイナ先輩からメッセージが届いた。


『アラタのパソコン組みあがったよ。ちょっとオーバーしたらしいけど費用は予定通りで良いって。 受け渡し早い方が良いなら、パパが今日でも良いっていってるけど、どうする?』


 おぉ?予定よりも早く出来たんだ。

 どうせ家でグダついてるだけだし、早速受け取ることにするか。


 直ぐにミイナ先輩に通話を掛けると、ミイナ先輩とお父さんが今日これから僕の家まで運んでくれることになった。



 30分もすると『今、アラタんちのマンションの下に着いたよ』と連絡が入り、直ぐに下まで降りると、以前見たことのある黒いワンボックスが駐車してて、ミイナ先輩とお父さんが降りて来た。


「お休み中なのにわざわざ運んでいただいて、ありがとうございます」


「いーのいーの。それより中々良い物が組みあがったからね。早く見て貰いたかったんだよ」


「すみません。助かりました」


 お父さんと簡単に挨拶を交わして、3人で車から荷物を僕の部屋まで運ぶと、お父さんは「セッティングとか詳しいことは全部ミイナが教えてくれるからね、後はミイナに任せておじさんは帰るね」と言うので、慌てて費用と事前に用意していたお礼の菓子折りを渡すと、ミイナ先輩のお父さんは車に乗って先に帰って行った。



 パソコンは、折り畳み式のローテーブルを僕の部屋に運んで、それをデスク代わりに設置して、回線は母さんが使用してるモデムから繋げた。

 LANケーブルとかもミイナ先輩が「家に沢山余ってるから、適当な長さの持ってきた」と用意してくれていた。


 起動すると、後はミイナ先輩が初期設定を始めてくれて、僕はそれを横で見ながら何か質問された時に答えて、10分もかからずに「これでセッティング終わったよ。もう使えるからね」と教えてくれたので、USBに保存しておいた部活で撮り溜めた映画用の動画データを再生してみた。



「どう?気に入ってくれた?」


「はい、凄いです。サクサク動くし、普通に買ったら3万じゃ絶対に無理ですよね」


「そうだね。スペックはかなり良いよ。パパがね、アラタに喜んで貰いたくて結構頑張ったみたい」


「本当にありがたいです」


「良かった良かった。  ところで、さっきから気になってたんだけど、なんかあった?」


「え?」


「いや、久しぶりに会ったのに、なんか元気無いって言うか、口数が少ないって言うか、ちょっと変な感じ?上手く言えないけど、なんか悩みでもあるのかなぁ?って思ってさ。 何もないならいいんだけど、気になったから」


「うーん・・・」


「その、なんて言うか・・・この間ウチに来た時に色々言っちゃったじゃん、私。 あの後さ、反省したのよ」


「ミイナ先輩がですか? 僕は特に何か気にするようなことは無かったと思いますが」


「佐倉ちゃんとのこと考えろだとかさ、久我山リョウコとは付き合うなとか、言っちゃったじゃん。 でもさ、アラタが誰と付き合うとか、私がアレコレ口出す話じゃないんだよね。 なんか思わず色々言っちゃったけど、あの後、そのことで色々考えちゃってね」


「そうなんですか」


「それで今日はそのことを謝ろうと思って、パソコン組みあがったのにかこつけて会いに来て、パパにもアラタと話しあるから先に帰って貰う様に言ってあったの」


「なるほど。そうだったんですか」


「でもさ、そしたら、なんかアラタも元気ないじゃん? だから、私が色々と要らないこと言っちゃったせいかと思って。ホント、ごめんね?」


「いえいえいえ!ミイナ先輩が謝ることは何も無いですよ! むしろ何時も色々気にかけてくれるから、本当に頼りになって有難いって思ってるんです」


「じゃあ、私の話を気にしてとかじゃないの?」


「えーと、元気が無いと言うか、悩んでいるのはその通りなんですけど、ミイナ先輩に言われたことが原因では無いです」


「じゃあナニで悩んでいるの?私に話せる話?」


「うーん・・・それじゃあ、僕の話、聞いて貰っても良いですか?」


「うん。話してみてよ」


 僕は、意を決して、ミイナ先輩に相談することにした。





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