#幕間(後編) 嵐の夜のお泊り会




 ビートルズを聴きながら3人でゴロゴロしてると、いつの間にかお昼前になっていたので、慌ててお昼ご飯の準備をすることにした。


 佐倉さんが手伝ってくれると言うので、佐倉さんと二人でキッチンへ行き、冷やし中華を作ることにした。


 けど、佐倉さんは料理が絶望的にダメだった。

 家庭科の授業でしか料理したことないんだって。

 包丁使ったこと無いって言いながら持つ包丁の握り方が、人を刺して殺しそうな握り方だったので慌てて包丁は取り上げて、麺を茹でる鍋の見張りやカットしたハムや野菜の盛り付けだけお願いした。


 食事の準備が終わると、丁度母さんも帰って来たのでミイナ先輩も食卓に呼んで、食事の前に母さんに二人を紹介して、二人にも母さんを紹介した。


「コチラが邦画研究部の部長で先輩の峰岸ミイナ先輩で、コッチも同じ邦画研究部の友達でクラスも同じ佐倉ナナコさん。佐倉さんは小学校も同じ豊浜小だったんだよ」


「どうもアラタがいつもお世話になってます。アラタの母です。 友達が来るって聞いてたけど、こんなに可愛らしいお嬢さんが二人も居るからビックリしちゃった」


「初めまして、こちらこそいつもアラタくんにはお世話になってます。アラタくんが居なかったら、邦画研究部を立ち上げること出来ませんでした。アラタくんは本当に頼りになる後輩です」


 おぉ?ミイナ先輩が敬語で話すの、初めて見た。


「は、ははははじめまして!アラタくんにはお世話どころか!いつも助けて貰ってます!小学校のときもお漏らししちゃった時にアラタくんが助けてくれたんです!」


「ははは、そうなんだね。 そういえば、豊浜小で佐倉さんって言ったら、お兄さん居る? 佐倉ケイタ君って名前だったと思うけど、今二十歳くらいかな?」


「はい!います!佐倉ケイタは兄です!いま21歳の大学生です!」


「やっぱりそうなんだ!昔ね、おばさん、豊浜小に赴任してたことあってね、ケイタ君が3年生のときに担任だったの。今も元気にしてるかな?」


「えええ!?兄の担任だったんですか!?兄は元気にしてます!」

「え?そうなの?佐倉さんのお兄さんの担任だったの?」

「佐倉ちゃんのお兄ちゃんって、ウェアラブルカメラの人だよね?バイクの動画配信してるんだっけ?」


「そっかぁ、ケイタ君元気にしてるんだぁ」



 意外な繋がりが発覚しつつも、母さんは長年教師をしているだけあってコミュニケーションに関してはプロなので、食事中はミイナ先輩にも佐倉さんにもそれぞれ話題の内容も合わせて話してくれてて、二人もそんな母さんには直ぐに懐いて親し気に会話をしていた。



 食事を終えて3人で僕の部屋に戻ると、しばらくしてから服を着替えた母さんも僕の部屋にやって来て、座り込んでミイナ先輩と佐倉さんの二人とお喋りの続きを始めた。


 どうやら予想してた通り、母さんは僕が友達を家に連れて来たことが嬉しかったらしい。


 母さんと友達が楽しそうにお喋りしてる姿は、ちょっと不思議な気分なんだけど、それ以上に恥ずかしかった。

 案の定、子供の頃の話とか、知られたく無い様な話をベラベラと喋っちゃうんだもん。


 ただ、母さんが二人に「アラタには我慢ばかりさせてきたから、これから先は好きなようにさせたいの」と零していたのが印象的だった。


 それを聞いた佐倉さんが「お任せ下さい!お母様!私が責任を持ってこの先死ぬまでずっとアラタくんを応援しつづけます!」と興奮気味に謎の宣言してて、母さんは「そこまで応援しなくてもいいわよ」とちょっと引き気味だったけど。



 ◇



 夕食にはお好み焼きを作ることにした。

 キッチンの食卓にホットプレートを置いて、4人で囲んでワイワイと焼きながら食べた。

 去年の年末に婆ちゃんが亡くなって以降、ウチではこうして食卓を囲んで賑やかに食事をすることが無くなっていたし、母さんが楽しそうに食事をする姿を見るのも久しぶりで、なんだかんだと今日は二人が遊びに来てくれて、良かったと思う。


 しかし、どうして女の人ってこんなにも延々とお喋りが続けられるのだろう。 お昼に母さんが帰宅してからずっとお喋りしっぱなしなのに、話題が尽きたりしないのかな。



 と、楽しい時間は過ぎるのも早く、気付けば夜も更け始めてたので、天候も相変わらず悪いし、そろそろお開きにしようかと二人に帰りをどうするのか訊ねると、ミイナ先輩も佐倉さんも今夜は雨が降るのが分かっていたので、家族に車で迎えに来てもらうつもりでいたそうだ。

 それで来るときは自転車で来なかったんだね。


 しかし、外は風は強いし雨もかなり激しい。

 テレビを点けると、画面の端には暴風警報が出ていた。

 もう車でも危ない天候のようだ。

 もう少し様子見てたら治まるかな?とも考えたけど、天気予報の情報では、どうやらこれからもっと強まるらしくて朝まで止みそうにない。


 すると母さんが「二人とも今夜は泊まっていったら?お家の方にはおばさんからも説明してあげるから」と言い出した。


 母さんの提案に、二人とも『泊まります!』と元気よく声をハモらせて即答して、直ぐに二人は自宅に電話して、母さんも電話に変わって事情を説明してくれて、二人とも問題なく宿泊の許可を貰うことが出来た。

 因みに母さんが佐倉さんのお母さんと話した時に、お兄さんの担任だったことも説明すると、佐倉さんのお母さんは母さんの事を覚えてくれていたらしく、『今度是非アラタくんと一緒にウチに遊びにいらして下さいね!』と言われたらしい。



 それで、順番にお風呂に入ることになり、二人は着替えが無いので、僕の部屋着を貸すことにしたのだけど、ミイナ先輩は僕の洋服箪笥からTシャツとハーフパンツを無難にチョイスしたのに、佐倉さんは「安西先生・・・アラタくんの体操服が着たいんデス!」と言って、箪笥から取り出した高校の体操服を抱きしめて一歩も引く気は無さそうだったので、本当は嫌だったけど「もう好きにして」と諦めた。



 母さんが先にお風呂に入り、その後でミイナ先輩と佐倉さんは二人で一緒にお風呂に入り、リビングで待っている間、二人がキャッキャと楽しそうにはしゃぐ声がリビングまで聞こえてて、母さんが「元気があっていい子たちだね」と言うので、「普段はもう少し落ち着いてるんだけどね。お泊りするのがよっぽど嬉しかったみたいだよ」と答えておいた。


 お風呂から出て来た二人に聞いたら、ミイナ先輩は友達の家にお泊りするのは初めてで、テンション爆上がりだったそうだ。 僕も友達がウチにお泊りするのは初めてのことなので、その気持ちはよく分かる。

 その一方で、佐倉さんは普段から須賀さんのお家に泊まったり、須賀さんが佐倉さんのお家に泊まったりすることがちょくちょくあるそうだけど、「アラタくんとミイナ先輩とパジャマパーティーなんて今世紀最大のサバトですヨ! もうダメ、私、死んじゃう。死んで、アラタくんの妹として生まれ変わって、ここの家の子になります!」といつも以上に頭のおかしいことを言っていたので、多分、それくらい嬉しいんだと思う。


「じゃあ、僕もお風呂入ってくるね」


「ちゃんと聞いて下さいヨ!?アラタくんの妹になるんですよ!?お風呂よりも私の話聞いて下さいヨ!諦めないで下さい!私の話、諦めないで下さいヨ!諦めたらソコで試合――」


 で、お泊りできる興奮が止まらない佐倉さんをミイナ先輩と母さんに託して、僕は一人でお風呂に入って、ゆっくり湯船に漬かって、お風呂出た後しっかり歯を磨いてからリビングに戻ると、何故か佐倉さんはミイナ先輩とお揃いのツインテールにしてて、「お?佐倉さんのツインテール、可愛いな」と思ったのも束の間。


「ハイ!お風呂上りのアラタくん、頂きまシタ~!!!アラタくんのお布団と手料理に続いて!ミッションコンプリート!ありがとうございマ~ス!!!」


 体操服姿(半そで半ズボン)の佐倉さんは、まだ興奮したままだった。

 そして、そんな佐倉さんを見て母さんは、手を叩いて嬉しそうに笑っていた。

 因みに、佐倉さんのツインテールは、母さんが面白がってやったらしい。



 ◇



 寝るのは僕の部屋で3人で寝ることになった。

 最初は僕だけリビングで寝るつもりだったけど、どうしてもパジャマパーティーがしたかったらしい佐倉さんが、瞳をウルウルさせながら僕をリビングに行かせまいと僕の足首を掴んで離してくれなかったので、母さん呼んで相談したら「アラタなら変なことしないでしょ?いいんじゃない?」と普通に許可してくれた。

 母親に信頼されていることは嬉しいことなのだけど、「教育者としてソレはどうなの?」と些か疑念も感じつつ、でも佐倉さんだけでなくミイナ先輩までもが「3人で川の字で寝るよ!」と喜んでいたので、「たまに部室で3人で昼寝したりしてたし、いいか」と僕も一緒に寝ることにした。


 それで、まだ寝るには少し早い時間だったけどもう1つお布団持ってきて2つの布団をくっつけて、3人で本当に川の字になって寝そべった。

 真ん中に佐倉さんで、僕とミイナ先輩はその左右に並んで寝転んだ。


 窓の外は相変わらず台風の影響で暴風雨が吹き荒れ、ゴーゴーと風の音がする中、3人で下らない話とかしばらくお喋りしてたんだけど、ツインテールでいつもとは違うあどけない雰囲気の佐倉さんの横顔を眺めてて、ふと今まで気になってたいけど聞きづらかったことを、折角のお泊り会なので、いつもと違うテンションの波に乗じて、聞いてみた。

 

「佐倉さんって、小学校の頃は目立ちたくないタイプの子だったと思うけど、どうして今はお洒落でこんなにも綺麗な子になったの?眼鏡をコンタクトに変えたっていうのは分かるけど」


「それは、その・・・内緒です。 でも、お世辞でもアラタくんに言って貰えると、嬉しいけど恥ずかしいです」うふ


「まぁ、女の子は誰だって可愛く見られたいって思ってるし、小学校の高学年とか中学の頃とか『早く大人っぽくなりたい!』って思う年ごろじゃん?やたらとマセて背伸びしたがるっていうかね。 それで、多分佐倉ちゃんにもそーゆー時期があって、ちょっと身嗜みに気を付け始めたら、目立ちたい訳じゃなくても、素材が良いから本人が思ってた以上に綺麗になっちゃったとかじゃないの? 私の場合はちっさいころからずっと可愛かったけどね!」


 自分で自分のこと「可愛い」って断言しちゃうのって普通の人が言ってたら「うわぁ」って思うけど、ミイナ先輩の場合は普通に同意しちゃうんだよね。

 事実だからなのか、ミイナ先輩のキャラがなせる業なのか。


「なるほど・・・で、ミイナ先輩にも聞きたいことあったんですけど」


「うん?」


「久我山さんとの間に本当は何かあったんじゃないですか?元々友達だったとか?」


「ねーし!友達とか絶対にありえんし!」


「・・・そうですか。 って、佐倉さん、もう寝ちゃってる。あれだけパジャマパーティーとかサバトだとか一人で騒いでたのに、一番最初に寝ちゃってますよ」


「朝早かったとか言ってたし、ずっと興奮して騒いでたから、ハシャギ疲れちゃったんだろうね。普段の部活の時の5倍くらいテンション高かったし、今日はずっとエンジン全開って感じだったからね」


「佐倉さんって見た目は一番大人っぽいのに中身は一番子供ですよね。ミイナ先輩はその逆ですけど。 そうだ、一番最初に寝たのが佐倉さんっていう証拠に、写メに撮っておこう」


 大人しく寝息を立てている佐倉さんは寝ててもやっぱり綺麗で、実は、先ほどから寝顔を目の前にして、悪戯したい衝動が湧いてうずうずしていたけど、でもミイナ先輩がいるので、寝顔を写メに残すだけに留めた。


「そだ!私もアラタんちにお泊りした記念に撮っとこ。うひひひ」


 ミイナ先輩はそう言って、寝ている佐倉さんや僕をスマホでパシャパシャ写して、3人で顔寄せあって寝転んでいる姿も自撮りしたりと楽しそうに撮影しては、邦画研究部のグループチャットに何枚も画像を貼ってくれたので、その中で一番気に入った3人で写ってる写真を保存しておいた。




 翌朝、ミイナ先輩は相変わらず寝相が悪くて、僕は顔面蹴られて目が覚めたのだけど、寝惚けながらも体を起こして二人の様子を見ると、二人ともまだ寝てて、僕の反対側で寝ていたはずのミイナ先輩は、何故か佐倉さんと僕の間に上下逆に寝てて、足を僕の顔の方に向けて佐倉さんの腰に抱き着いて寝ていた。

 そして、佐倉さんが履いていた体操服の短パンの股間の辺りがミイナ先輩のヨダレで染みが出来ていたので、それもスマホで証拠写メを残しておいた。





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