#34 緊迫の尋問タイム
ま、まずいよ、コレは。
どう言い
助けを求めようとミイナ先輩へ視線を向けるが、ヘッドホン装着して一人の世界に入ってしまっている。
同じく佐倉さんへ視線を向けるが、視線が合ったと思ったら無理に笑顔を作ろうとしているのか、不自然な程に引き攣った変な笑顔をしている。梅干しとか食べた時みたいな顔だ。
ダメだ。
この二人は役に立ちそうに、無い。
「映画観るのに水着は必要ないよね。 どういうコトかな?」
久我山さんのタレ目が心なしか鋭くなった気がする。
コレが演劇部に乗り込んで凍り付かせたと噂の怒ってる時の眼か!?
「そ、それはその・・・」
全身から汗が噴き出してきた。
暑さだけが原因じゃない。動揺しているせいだ。
落ち着かなければ。
今ここで僕が踏ん張らなくては、邦画研究部の未来が閉ざされてしまう。
まだ出来て3カ月だけど、この邦画研究部は僕たち3人の色々な思いが詰まった部活動なんだ。
クラスでは居場所が無く映研でも先輩とモメて退部に追い込まれたミイナ先輩が、自分の居場所を作ろうと思い立って設立した部活だ。
佐倉さんにとってだって、周囲からのしつこい勧誘から身を守り、そして周りからの一方的なイメージに合わせる必要も無く、自分の好きなことを出せる場所でもある。
そして僕だって、中学時代には経験出来なかった青春の時間を今取り戻そうと毎日楽しく部活動に取り組んでいたんだ。
しかし、なんと釈明すれば良いんだ。
久我山さんは一筋縄では行かない傑物だ。
僕の様な小市民では舌戦でまともに勝てるような相手ではないぞ。
どうすればいいんだ・・・
「うーん・・・もしかして、暑さ対策かな? この部屋、日当たり良いものね。 映画観る時に閉め切ったりしてたら暑くて大変じゃない?」
な、なんと!
流石は久我山さん!
僕が何も言わなくても正解に辿り着いた!
「そうなんです!熱中症対策で苦肉の策なんです!流石久我山さん!何でもお見通しなんですね!素晴らしいです!」
「やっぱりそうなんだ。うふふ。 それで、コレ考えたの、アラタくんなの?」
ちっがーう!!!
僕じゃないよ!!!
むしろ僕は反対したんだ!
しかし、ココで本当の発案者である佐倉さんの名前を出すと言うことは、僕は大切な友達を売るということになる・・・
佐倉さんとは勘違いやすれ違いを経て、漸く仲直り出来たんだ。
クラスメイトたちにも心配を掛けてたし、そこまでの道は決して楽なものでは無かった。
ココで僕が正直に話して佐倉さんを売ってしまえば、佐倉さんからの信用が失墜してしまい、これまでお互いが苦労して築き上げた信頼関係が瓦解してしまう。
仕方ないけど、ココは僕がドロを被って、発案者になるしか無いのか・・・
「あの、実は・・・」
「わ、わわわワタシが提案しまシタ!」
な、なんと!
佐倉さんが自ら名乗りでた!
根が真面目な性格だから、ココで嘘は付けなかったのか!?
「へぇ~そうなんだ。佐倉さんが考えたの。 ということは、暑さ対策は表向きの建前で、実は水着姿をアラタくんに見せたかったの?」
何を言い出してるんだ、久我山さんは。
「ちょ、ちょっとだけ・・・」
こらこら、佐倉さんまで。
「やっぱりそうなんだ。 それで、どんな水着なの?」
「す、スクール水着です・・・」
「あら、なんでスクール水着なの?」
心なしか、久我山さんのタレ目が再び鋭くなってる気がする。
「そそそそれは! こういう時の定番はやっぱりスクール水着だと思いまシテ! そ、それに、アラタくんもそっちの方が喜んでくれると思ったわけでシテ・・・」
「ちょっとどころか、完全にアラタくんに見せるのが目的でしょ!」
佐倉さんの説明を聞いて、久我山さんが『バン!』と畳を叩いて佐倉さんを叱責した。
ひぃ!!!
やっぱり怒ってる!?
っていうか、なんか部活関係無くなってない!?
「うううう」
やはり佐倉さんでは久我山さんの相手は荷が重すぎたようだ。
ここは副部長として、僕が責任を持って怒られよう。
「あの!すみませんでした!副部長として僕の監督責任です!」
「別に部活中に水着なのは責めてないよ?確かに最近ずっと暑かったもんね。 でもね、こんなに可愛い女の子二人が水着姿でアラタくんと部室に篭って仲良くしてたんだって思ったら、ちょっとね」
「へ?」
「アラタくんはスクール水着が好きなの?それともビキニタイプとかのが好きなの?」
「いや、その、特にこだわりはありませんが・・・というか、女性の水着のことで好みとか考えたことありませんので」
「そうなんだ。真面目なアラタくんらしいね。 よし、分かった。今度の遊びに行く約束、海に海水浴に行きましょ。スクール水着に負けない可愛い水着用意するね!」
「はぁ」
「あ!いけない!そろそろ戻らないと。ずっと委員会室留守にしちゃってたからね。 今度のバイトの時にどこの海に行くか相談しようね!部活がんばってね!」
「はぁ」
久我山さんはそう言い残して、ニコニコと手を振りながら帰って行った。
結局、今のはなんだったんだろう。
怒ってると思ったけど、そんなに怒って無かったようだし、水着の種類を気にしてたな。
「あ、ああああの!」
「うん?」
「アラタくん!久我山先輩と海にデートしに行くの!?いつ行くの!? ま、まままままさかお泊り!?」
「デート?久我山さんと僕が? うーん、デートじゃないと思うよ? 勿論日帰りだし、息抜きに遊びに行きたいって誘われてたの。そもそも僕は久我山さんにとっては弟ポジションだからね。デートだなんて久我山さんも思ってないと思うよ」
「むむむ。 久我山先輩がアラタくんを弟として見てるなら、私は幼馴染枠で!」
「なんの対抗意識?佐倉さんとは幼馴染じゃないし、友達で部活の仲間でしょ?」
「小学校の同級生です!ココ重要デスヨ!」
「あ、はい」
小学生の頃ってほんの数カ月だけの同級生なのに、なんの拘りなんだか。
取り合えず、邦画研究部の危機は回避出来たようだ。
やっぱり久我山さんは、ただの優しいだけのお姉さんじゃないね。 あの眼つきの時のプレッシャーは、僕や佐倉さんの様な1年生じゃ耐えられるものじゃないよ。
ふと、部の存続の危機に部長であるミイナ先輩は何してたんだろうと思い、ソファーに目を向けると、ミイナ先輩はうつ伏せで寝転んだまま、ヨダレ垂らして寝てた。
この人も、ある意味大物だよね。
「そうだ!映画!私も映画行く約束してましたよ!忘れてませんよね!?」
「あ、はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます