#33 一方邦画研究部では
高校生になって初めてのこの夏休みは、アルバイト以外にも挑戦することがあった。
邦画研究部での映画作りだ。
ジャンルは、ドキュメンタリーに決めた。
テーマは、邦画研究部の一日(仮)。
3人の役割分担も決めた。
機材を借りる段取りもほぼ終わっている。
準備するべきことはまだあるけど、夏休み1週目から早速映画作りに取り掛かり始めた。
僕たちは、多少の好みや趣向の違いは有れど3人とも映像に興味があると言う点では同じで、観るばかりの素人だけど映像作品の製作に関する知識は少しはある。
そして僕は、形から入るタイプだ。
ということで、ロケハン(ロケーション・ハンティング)から始めることにした。
『ロケハン』って言葉が、如何にもそれっぽいよね。
まずは通学路のシーンで、後で編集する時の参考にする為にビジュアル的に面白そうな場所や良さげな景色なんかをチェックしておく。
僕の通学ルートは十分把握出来てるし、佐倉さんの通学ルートも毎日一緒に帰ってるからある程度把握出来てる。あとはミイナ先輩の通学ルートだ。
3人で学校からミイナ先輩の家までを歩いて往復して、途中気になった場所をメモってスマホで撮影していく。
次に、校門から部室までの校内のルートも一応チェック。
そして部室の中では、色んな角度からスマホで撮影して見て、光の方向や加減を確認。
1日でロケハン終わっちゃった。
次に、ウェアラブルカメラを使ってのテスト撮影。
使ったことが無かったので、使い方や映りがどんなものなのかを把握するのと、撮影の練習が目的。
佐倉さんのお兄さんから借りたウェアラブルカメラを頭に装着して、校内をウロウロしながら撮影してみた。
ミイナ先輩は部室でお留守番すると言い、佐倉さんはテスト撮影に着いてきた。
因みに、放送部から2台借りることになっているけど、本番撮影の時に貸してもらうことにしてたので、テスト撮影は1台でやっている。
佐倉さんと二人で校内をのんびり30分ほどテスト撮影してから部室に戻り、ミイナ先輩のノートPCに繋いでプロジェクター使って動画をチェック。
しかし、頭に装着してた為、ブレが酷い。
見てて気持ち悪くなってきた。
頭だと無意識に動いてしまうので、もう少し安定する場所にと胸ポケットに装着して、再び同じように30分程校内をウロウロと撮影してみた。
今度もミイナ先輩は部室でお留守番で、佐倉さんはテスト撮影に着いてきた。
部室に戻り動画をチェックすると、今度のはかなりブレがマシになってたけど、階段での上り下りは結構揺れていた。
他にも屈んだり振り向いたりした時の映像も、観辛くなっていた。
そのことで3人で相談しながらPCで動画をいじってみて色々試した結果、そういうシーンは編集時にカットや早送りの映像にしてしまうことにした。
それと、校内だけでなく、下校の時に自転車に乗った状態でもテスト撮影を実施した。
翌日学校で動画チェックすると、運転時の姿勢を気を付けていればブレは気にならないレベルだったけど、屋外でしかも自転車に乗っていると雑音とか風を受ける音が酷くて、何か工夫が必要そうだった。
その後もテスト撮影、というか練習は続けてて、僕が把握出来た撮影時の注意点とかコツはミイナ先輩にも佐倉さんにも教えて、しっかり理解をして貰った上で、僕と同じようにウェアラブルカメラでの撮影の練習はしてもらった。
次に、カメリハ(カメラ・リハーサル)をした。
『カメリハ』って言葉も、如何にもそれっぽいよね。
やっぱり、形って大事。
放送部からもウェアラブルカメラを借りてきて、本番撮影の前に3人ともカメラを装着した状態で撮影してみて、最終的なチェックを行った。
しかし、ここで問題が発生。
ミイナ先輩も佐倉さんも、自分一人でカメラを回している時は落ち着いているのだけど、他の人のカメラで写される側になるとやたらとカメラを気にし出していた。
チラチラとカメラにばかり視線を向けるし、会話がぎこちなかったり無口になったり、つまらないギャグを言い始めたり、緊張してるのかカメラ付けたままトイレに行こうとするし、トイレから戻って来た際にウケを狙ってるのか変な髪型にしててスベってたり、ボソボソと声が小さくて何喋ってるのか聞き取れなかったり、僕の事ばかり写してたり、兎に角、普段の自然体を撮影したいのに、いらんコトばかりする。
演技が出来ないからこそのドキュメンタリーという選択なのに、これでは本末転倒だ。
このままでは本番撮影は厳しいと悩んだ末、カメラに慣れる(写されることに慣れる)しか無いという考えに至り、しばらくの数日間はウェアラブルカメラを装着したまま普通に部活をすることにした。
因みに、撮影時には二人がスクール水着になるのは禁止している。
◇
そうやって、夏休み前半は試行錯誤しながら本番撮影に向けて少しづつ準備を進めていた。
そんなある日、しばらく無かった邦画研究部への来客が訪れた。
この日も3人ともウェアラブルカメラを胸のポケットに装着して録画モードのまま、部室で思い思いに過ごしていた。
僕は畳で寝転がって宿題を片付けてて、ミイナ先輩はソファーに寝転がってPCで動画を見てて、そして佐倉さんは僕の隣で同じように寝転がって一緒に宿題してる。と思ったら、突然立ち上がってポーズ取って意味不明なことを叫び出した。
「我が名はナナコ! 邦画研究部随一の会計係にして日々アラタくんの推し活に心血を注ぐ浜高生!」
「急にどうした!?」
「はははは、佐倉ちゃん暑さで頭おかしくなったん? キャラ崩壊しすぎ」
「イエ、昨日お家で『このスルメ臭い部室に祝福を』と言うアニメを見てまシテ―――」
「っていうか、そういうのは要らないんですよ!日常の部活風景をカメラに収めたいんです!だいたい何ですかそのアニメのタイトルは!作品(自主製作映画)のイメージが台無しだよ!」
どうやらカメラが回っている緊張感に耐えられずに、また可笑しくなってしまった様だ。
夏休み中で校内に人が少ないのをいいことに、部室の窓や扉は風通しを良くするために開けっ放しにしていた。
窓の外からは、セミの鳴き声とグランドで練習している野球部の掛け声が聞こえてくる。
すると、部室の入口に人影が現れた。
「アラタくん、居るかな? あ、居た居た!遊びに来たよ」
「おや?久我山さんじゃないですか。 今日は当番でしたっけ?」
来客は、総務委員長にして僕のアルバイト先の久我山家のお嬢様である久我山さんだった。
「うん、そうなの。でも誰も来なくて退屈でしょ? だからアラタくんに会いに来ちゃった」うふふ
「なるほど」
夏休み中も登校して活動している部活動が多く、何かあった時の為に総務委員も当番で登校している訳なのだけど、でも実際には特に何も起きないので暇なのだ。
因みに、僕の当番の日は、総務委員会室の入口に『御用の方は、邦画研究部部室へ』と札を掛けている。
「佐倉さんが叫んでる声が廊下まで聞こえてたけど、撮影中だったのかな?」
「ええ、撮影というか撮影の練習ですね」
そう答えながら「どうぞどうぞ」と部室の中へ案内して、畳の上に座って貰った。
ミイナ先輩は来客が久我山さんだと分かった途端、PCにヘッドホンを繋げて完全に無視する態勢に入った。
敵視している久我山さんに向かって直接悪態を吐かれるよりはマシなので別に良いのだけど、それはそれで大人気ない。
セブンティーンの女の子って、複雑なのね。
佐倉さんは、先ほどまでの威勢がウソの様に大人しくなり、畳の隅で体操座りで真っ赤な顔してモジモジしている。
僕やミイナ先輩の前だと度々スイッチを入れてしまう佐倉さんだけど、今日は羞恥心メーターが振り切れなかったらしい。
まだ恥じらいが捨てきれないお年頃なのね。
取り合えず言えるのは、今日は撮影の練習でカメラを回してたから、二人ともスクール水着では無く制服姿で良かった。
久我山さんとは夏休みに入ってからは、アルバイトを通じて以前よりも更に親密にさせて頂いているけど、流石にスクール水着で部活してるのがバレれば何を言われるか分からない。
僕自身はスクール水着にはならないから怒られないと思うけど、邦画研究部としては何かしらのお咎めがあるかもしれないからね。
その久我山さんは、僕がペットボトルのお茶を紙コップに注いで「
「へぇ~部内規則なんて決めてるんだね。 流石アラタくんが作った部活、ちゃんとしてるね」
「ええ、部長と相談して立ち上げて直ぐに規則を決めました」
「そうなんだ。 えっと? 入部には部員全員の承諾が必要、他部活動との兼部は禁止、部室内で校則に反する行動は厳禁、困りごとがあれば報連相、売られた喧嘩は徹底的に買う・・・。 ん?部室内での水着可?なんなのコレ?水着着て部活してるの?」
ま、まずい!!!
着てなくてもバレた!?
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