#幕間 報酬はフルーツ牛乳
少し遡って、5月末の中間テストが終わった頃のお話。
無事に初めての定期試験が終わり、結果は学年順位で上位10%内に入れたので、学業面では上々のスタートを切ることが出来たと思う。
最初は授業について行くのに必死だったけど、慣れてくれば家での予習復習やテスト勉強は苦にならなかった。
むしろ、中学時代と違って勉強に集中出来るから、やる気も集中力も高く維持出来てたし、それに邦画研究部でミイナ先輩や佐倉さんと一緒に勉強するのも楽しくて、そう言った環境が結果に繋がったと思う。
この調子で、学業と部活動と委員会活動を両立させて、充実した高校生活を送りたいものだ。
中間テストの結果が出て少しばかり浮かれた気持ちになっていた。 そんな時期に、他のクラスの1年女子が僕を訊ねて来た。
その日の放課後は、部室で上映している映画を視聴していた。
『キミの縄』というタイトルで、佐倉さんが持ってきた劇場版アニメだった。
主人公とヒロインの精神と体が入れ替わってしまうファンタジーストーリーで、ヒロインが主人公の体を使って悪さばかりするので懲らしめてやろうという話だった。
中々センシティブな内容だったけど、「佐倉さんはこういうのも見るんだ」と感心していると、その佐倉さん本人は真っ赤な顔で恥ずかしそうにしながら見ていた。
「さては佐倉さん、内容知らずにチョイスしたな?」と疑い始めた頃に、部室の扉がノックされた。
スクリーンでは丁度際どいシーンが映し出されていた為、僕達3人が慌ててアタフタしていると、再びノックされ「すみませーん、進藤アラタくん居ますか~?」と聞こえた。
ミイナ先輩が動画を止めたのを確認して、「何か御用ですか?」と言いながら扉を開けた。
来訪者は、同じ1年で見た事がある子だけど、名前までは知らない子だった。
確か、隣のクラスの子だったかな?クセっ毛が特徴的で人懐っこそうな笑顔が可愛い女子で、印象に残っている。
「あの!相談があるんだけど!」
「僕にですか?」
「うん! 今、部活のことでちょっと困ってて」
「相談に乗るのはやぶさかではないけど、僕よりも総務委員会に行った方がちゃんと対応してくれますよ?」
「うーん、総務委員会となると、なんか怖いでしょ?それにあんまり大ごとにもしたくないし」
「まぁ分かりました。話を聞きますけど、場所移動しましょうか」
部活の邪魔にならないようにと場所を移動しようとすると、ミイナ先輩が「ここ使えばいいよ。どうせ今日の映画はこれ以上見ないし」と提案してくれた。
確かに、今日の映画は学校で見るには
「佐倉さん、あとは家に帰ってから思う存分一人で見てくれ」と内心思いつつ、来訪者の相談を聞くことにした。
そしてミイナ先輩と佐倉さんは、二人とも部活に関するトラブル経験者なので、オブザーバーとして同席することになった。
僕とお客さんの彼女が畳に向かい合って座ると、ミイナ先輩と佐倉さんはソファーに腰掛けた。
話を聞く前に、まずは名前を訊ねると「1年2組の
「名乗る必要ないかもだけど、僕が進藤。1年3組で、邦画研究部の副部長の他に総務委員会の書記もしてます」
「うん、知ってるよ。進藤くん、有名だからね」
僕が有名?
佐倉さんの影響かな?
まぁ僕のことは置いておいて、早速本題に。
「それで、僕に相談というのは?」
「うん、佐倉さんが演劇部からしつこく勧誘されてたのを進藤くんが解決したって聞いて、私のことも進藤くんなら何とかしてくれるかもって思って」
やっぱり、佐倉さんの件で僕のことを知ったのか。
話の続きを促すように無言で頷く。
「それでね、私、5月に入って直ぐにアイドル研究部に入部したんだけど、もう辞めたくて。 でも先輩とかが引き留めようとしつこくて困ってるの」
「なるほど。 いくつか確認したいんだけど、いいかな?」
「うん。何でも聞いていいよ」
「じゃあ。 辞めたい理由は?まだ入部して1カ月未満だよね?」
「辞めたい理由は、思ってたのと全然違うのと、女子が私だけで、先輩とかみんな男子で、最初は女子一人だけなのも気にしないようにしてたんだけど、最近は怖くなってて、それで一度「やっぱり辞めます」って言ったら、先輩たち必死に引き留める様になってきて、最近はスマホとかにもしつこく連絡してくるんだよね」
「なるほど・・・。 思ってたのと違うというのは?最初、どんな部活だと思って入ったの? 女子が居ないことだって最初から分かってたでしょ?」
「うん。 私は、好きなアイドルの曲を自分で歌ったり踊ったりするのが好きで、アイドルの研究する部活なら、自分の好きなダンスとか歌も研究出来るって思ってたのね。 それで部活見学の時に聞いたら、「そういう研究もあり」って言うし入部決めたんだけど、実際に入ったら、地下アイドルのドルオタの巣窟っていうか、推しのアイドルにガチ恋してる男子ばっかで、そんな中に女子の私が一人で入っちゃったから、先輩たちがみんなして私に自分たちのアイドル像とかイメージを押し付けてくるんだよね。 良く言えば、オタクサークルの姫扱い?悪く言えば、集団で束縛してくるキモいオタク集団?」
あー、なんとなく分かって来た。それは辞めたくもなるよね。
と思った瞬間、それまで黙って聞いていた佐倉さんが鼻息を荒くして吠えた。
「そんな人たち、オタクの風上にもおけません!成敗して下サイ!」
佐倉さんも色々な男子から言い寄られてたり、勝手なイメージ押し付けられたりしたことがあるのだろうから、花園さんの話を聞いてて共感してしまったのだろう。
実際に、4月に駐輪場で男子とモメてたことあったし、山路みたいなヤツだっていた訳だし。
「いや、成敗して欲しいわけじゃなくて、私はモメずに辞めたいだけなの」
「話を聞いてる限りは、確かに色々と遺恨を残すと、辞めた後もしつこく絡んできたりしそうだしね。 モメずに円満退部出来るのがベターだろうね。 ・・・というか、佐倉さんもたまにそんな感じになってるよ?『ですの』の時とか」
「わ、私の場合は・・・愛なんデス!推しへの抑えきれない熱く滾る愛なのデス!」
「そんで、どーすんの?」
目を泳がせ見苦しい言い訳をしている佐倉さんを他所に、今度はミイナ先輩が僕に質問してきた。
「ミイナ先輩は映研辞めた後、何か絡まれたことあります?」
「直接は無いけど、校内で偶然顔合わせた時とか、すげぇ睨まれたりするね。 ガン無視してるから私はヘーキだけど」
「なるほど。 でもそれはミイナ先輩だから平気なんですよね。 1年の女子からしてみたら、先輩男子でしかも集団ってのは恐怖だと思います」
「うんうん!すっごく怖いの!ああいうのもう止めて欲しいの!」
「分かりました。 遺恨残さずに円満に退部するなら、話し合うしか無いでしょうね。 でも花園さん一人だと、相手は集団で先輩っていう立場もあるから、強引に自分たちの意見というか要求を押し付けてこようとしてるのが現状だと思うので、代わりに僕が話ししてきます」
「え!?進藤くん一人で???」
「ええ、その方が話しやすいし」
「大丈夫なの???」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。 アラタこう見えて度胸あって肝座ってるし、力勝負でもそう簡単に負けんし」
「はい!アラタくんは戦闘能力SS級デス!私も何度も助けて貰いましたから!見た目で油断させるタイプデス!」
ミイナ先輩と佐倉さんからの信頼が厚いのは嬉しいけど、言い
ということで、花園さんにはそのまま邦画研究部の部室で待機して貰い、総務委員会の緑色の腕章付けて一人でアイドル研究部の部室へ行ってみた。
それで、部員の2年と3年の先輩方が居たので、懇々とお説教した。
「アイドルって届かない存在だからアイドルなわけで、手が届いちゃったら最早それはアイドルとは言わないのでは?自分たちのアイドル像を後輩女子に求めるのはお門違いですよ? カワイイ子が後輩として入って来て舞い上がってしまうのは分かりますけど、自分たちのイメージを押し付けても相手は迷惑なだけですよ? 彼女の話を聞いている限り、あなた達のしていることは、ストーカーだと言われてもおかしく無いんですよ?」
ここまで話すと、みなさん、顔真っ青にして黙り込んでしまった。
言い分があるなら聞きますよ?と言っても誰も何も言い返してこないので、更に続けた。
「我が校では、生徒が部活動を自由に選ぶ権利が保障されてます。 総務委員である僕はそれを守るのが使命です。 あなたたちが花園さんのその自由を邪魔するのなら、僕は首を突っ込まざるを得ないんです」
僕が総務委員会の名前を出して警告すると、部長以下全員が花園さんの退部を認め、今後彼女に付きまとわないとことを約束してくれた。
話が付いたので邦画研究部に戻り、花園さんに結果を報告した。
そして、花園さんを連れて今度は二人でアイドル研究部の部室に向かった。
花園さんを連れて行くと、アイドル研究部の先輩たちは花園さんにこれまでの事を謝罪してくれて、花園さんも入部して直ぐ辞めることを謝罪し、円満退部で決着した。
その場で部長に花園さんの退部届にサインを貰い、僕が預かりアイドル研究部の部室を後にした。
そのまま部室前で別れて僕は自分の部室に戻ろうとすると、花園さんが「ジュース飲みに行こう」と誘ってくれたので、二人で自販機コーナーへ向かった。
花園さんが「お礼にジュース奢る」と言ってくれたので、フルーツ牛乳を選ぶと、「フルーツ牛乳飲む人、初めて見たよ!」と言われたけど「なんか進藤くんっぽいよね。 人助けの報酬がフルーツ牛乳ってなんかカッコ良くない?」と言われた。
「報酬が、フルーツ牛乳か・・・。総務委員の仕事しただけなんだけどね」
「でも、知り合いでも無かった私の相談ちゃんと聞いてくれて、直ぐに行動してその日のウチに解決までしてくれて、そんなこと出来るのって、多分進藤くんだけだよ。 本当にありがとうね。めっちゃ感謝してるし」
「うん。お役に立てて何より」
「うふふ。 あ!そだ!連絡先交換しとこ!」
「うん、分かった」
その後も自販機コーナーの傍で30分程雑談を続けた。
会話しててふと思いつきで、「ダンスや歌うのが好きなら、軽音部はどう? 昔からバンド形態のアイドルとか居たし、逆にダンスを取り入れてるバンドとかも居るよね。 一度見学させて貰ったら?」と提案してみた。
後日、花園さんは本当に軽音部を訪れ、入部したそうだ。
花園さんとはクラスが隣の教室だから以降も度々顔を会わせてて、そんな時にそう報告してくれた。
そして、花園さんの件以降、度々同様の相談者が僕のところへやってくるようになった。
毎回話を聞いて、対応してたのだけど、解決するとみんな「自販機コーナーへ行こう」と誘ってくれて、フルーツ牛乳を奢ってくれた。
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