#30 夏休み目前




 夏休み直前、最後の週に入った。


 学業の方では、夏休み中の宿題が発表され、僕は既に取り掛かり始めた。

 総務委員会の方では、夏休み中も平日は当番で登校する必要があって、そのシフト表が組まれて総務委員会の集まりで配られた。


 そして邦画研究部では、2学期の文化祭に向けての映画の自主製作と、夏休み中の夏合宿が決まった。


 そのドチラも、お金を掛けずに実行しようとしている。

 何せ、部設立1年目で何も実績が無いので部費が少なく、既に残高650円という状況だ。

 そして、部員が3人しか居ないため、費用などのモロモロを自腹にすると一人当たりの負担が大きい。


 映画の製作に関しては、必要な機材は全て借り物で済ませる予定。

 衣装は自前、撮影場所は通学路や校内がメイン、音楽は・・・そうだ、音楽も考えないと。


 そして合宿は、学校で泊まり込みに決定。

 既に総務委員会には、部活合宿として学校での宿泊は申請済みだ。

 当然だけど、就寝時は男女別々の部屋であることや、火器の使用禁止などの注意を受けた。


 因みに、夏休み中に学校で泊まり込みの合宿をする部活は多く、思ってたよりも簡単に許可が取れた。

 この辺りは、ウチの学校ならではなのかも知れない。

 その分、監督責任のある総務委員会の仕事が多いわけだけど。


 結局、夏休み中もほぼ毎日何かしら登校するつもりの僕としては、夏休み中の邦画研究部と総務委員会の両立は大した負担にはならないと思う。



 と言ったモロモロの話を、総務委員室で仕事しながら久我山さんに話をした。

 すると、久我山さんから「お金必要なら、ウチでアルバイトする? 1日だけでも良いよ?」と提案された。


 詳しく聞くと、久我山さんのご実家は農園を営んでいて、7月の夏休みに入る時期は梨の収穫で忙しいそうだ。

 それで、収穫された梨の運搬や選別に梱包などの作業も凄く忙しくて、毎年アルバイトを雇っているらしい。

 実際に、久我山さん本人も毎年手伝っているそうで、力仕事が出来るアルバイトなら大歓迎と言われ、土日だけ雇って貰うことになった。

 小学生の頃から実家で毎日婆ちゃんの介護や家事をしていたお蔭か、力仕事には自信ある。

 あと日数に関しては、実際に行って働いてみてから相談することにした。


 それで早速、その場で母さんにスマホでバイトしてもいいか相談したらOKが出たので、直ぐに職員室へ行って担任の栗林先生にも話して、バイト許可の申請書を貰って来た。


 因みに、ミイナ先輩と佐倉さんにも「夏休みの土日限定でバイトすることになったんですけど、一緒にどうです?」と声を掛けたら、ミイナ先輩は久我山さんの実家と聞いて即答で拒否して、佐倉さんも力仕事は自信無くて迷惑掛けそうだからと断られた。




 ◇




 1学期最終日、終業式の日。


 午前中で授業が終わり、午後は部活。


 HRが終わると、古賀くんや瀬田さんと少しお喋りをしていた。

 古賀くんは、夏休みの間はずっとサッカー部の練習漬けで、他県へ遠征に行ったりするらしいけど、全然遊ぶ余裕が無いと嘆いていた。 既に真っ黒に日焼けしている古賀くんは、2学期にはきっともっと真っ黒になっているだろう。

 瀬田さんは、書道部と天文部を掛け持ちしてて、夏休みの間は書道部はほとんど活動が無いけど、天文部の方はウチと同じように学校に宿泊しての合宿をしたり、他にも天体観測の旅行に行ったりするそうで、結構忙しいみたいだ。


 二人に「休みの間、怪我とか病気に気を付けて、2学期に元気にまた会いましょう」と挨拶してから、佐倉さんと二人で部室に向かった。


 部室にはミイナ先輩が先に来ていて、スクール水着に着替え終えていた。

 既に暗黙のルールとなっているので、僕は荷物を置くと一旦部室の外に出た。佐倉さんがスクール水着に着替える為だ。


 5分ほどすると、部室の扉が開いて佐倉さんが顔をひょっこり出して「アラタくん、もういいよ」と教えてくれたので、再び部室に戻り本日の部活動が始まった。



 1学期最終日のこの日の部活動は、夏休みの間のスケジュールを最終決定する為のミーティングだ。


 畳の上で1冊のノートを囲むように3人寝転がって、ミーティングがスタート。

 平日の活動日や夏合宿の日は既に決まっているので、それらを書き出して必要な申請のチェックもして、次に映画のロケハンや撮影に編集の日程なんかも意見を出し合いながら決めていく。

 それが決まると、後は細かく宿題をする時間や見たい映画などを書き込んでいき、1時間ほどで8月の最終日までの計画が完成。


 それを各自スマホで写メに写して計画表を共有して、部活動としてのミーティングは終了。


 同じ部活の3人とは言え、僕たちは友達同士でもあるので、部活以外の遊ぶ相談なんかもした。

 お互いの家に遊びに行く話や、プールや花火大会にも行きたいとか、僕は8月上旬までは土日はバイト尽くしの予定だとかも。


 因みに、ミイナ先輩のお家にも佐倉さんのお家にも遊びに行くのは良いけど、僕んちは賃貸マンションで狭いし遊べる物も何もないので断ったけど、佐倉さんに上目遣いでウルウルさせながら「ダメ、ですか?」とやられて断り切れなかった。たぶん放送部もコレでやられたんだろう。

 で、結局二人とも僕の家にも遊びに来ることになった。 緑浜市に戻って来てからウチに友達が遊びにくるのは初めてになるので、なんだかんだとウチの母さんは喜びそうだ。





 ふと僕が「こんなに忙しくて楽しみな夏休みは、初めて」と零すと、ミイナ先輩も「確かに、私もこんなに充実した夏休みは初めてかも」と言い、佐倉さんは「夏休みでも学校に来たいって思えるなんて、自分でも不思議です」と話してくれた。


 すると、ミイナ先輩が畳の上で正座に座り直して、「アラタと佐倉ちゃんがこの部に来てくれたからだね。ありがとね」と改まって言うので、僕も正座して「僕の方こそ、ミイナ先輩が声を掛けてくれたからですよ。ありがとうございます」と言うと、佐倉さんも正座して「私なんて、お二人が居なかったら今頃どうしてたか・・・」と久しぶりに瞳をウルウルさせていた。



 なんだか青春っぽくて、胸が熱くなるようなシーンなんだけど、3人のウチ2人がスクール水着で正座してるから、凄く残念な青春の1ページになった。






 _______________


 第3章、お終い。

 明日、幕間エピソード挟んでから第4章スタート。

 





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