#25 解決と正式入部




 普段と違う早口オタクモード全開の佐倉さんを人目に晒し続けるのが忍びなくて、強引に引き摺るようにその場から離脱した。

 だけど、佐倉さんは僕に手を引かれて部室に向かう間、「『ともあれシリーズ』は一度は見るべきです!アラタくんも絶対に気に入りますから明日DVD持ってきますよ!」とか「次は『ですの』ってやって下さいね!」と言い続けていた。 そして、部室に到着してミイナ先輩の顔を見ると冷静になったのか、漸く大人しくなってくれた。




「それで、どうなった?上手くいった?」


「ええ、佐倉さんが変なスイッチ入って大変でしたけど、山路の方は上手く挑発に乗ってくれて無事に撃退出来ました」


「そっか。じゃあ次は私の番だね」


「演劇部に行きます?」


「うん。ちょいと話つけてくるね」


「僕も行きます」


「ううん。私一人で大丈夫」


「でも、二人で行った方のが」


「いっつもアラタに頼ってばかりだからね。 こーゆー時くらい先輩らしいことしたいじゃん?」


「まぁ、そう言うのならお任せしますけど」


「んじゃ行って来るね。 佐倉ちゃんはちゃっちゃと入部届書いちゃってね。サインと提出はアラタに任せた!」


「了解です。何かあったら直ぐスマホに連絡下さいね」




 確かに僕が毎回毎回手を出していたから、ミイナ先輩の仕事を奪っていたのかもしれないのか。

 ミイナ先輩だって、自分なりの想いがあって邦画研究部を作った訳だから、何でもかんでも後輩の僕が口や手を出すのは面白くなかったのかもしれない。これからは、そういうことにも気を付けないといけないな。


 佐倉さんが直ぐに入部届を書き終えたので、「4階の総務委員会室に行ってくるね。直ぐ戻って来るから留守番お願いしますね」と留守番をお願いすると、「ひ、一人で留守番怖いです・・・私も連れて行って下さい」と先ほどのスイッチオン状態が嘘みたいに、普段の大人しい佐倉さんに戻っていたので、「じゃあ、一緒に行きます?」と聞くと、パァ~と笑顔になって「はい!お供します!」と言うので、佐倉さんも連れて総務委員会室へ向かった。




 ◇




 緑浜高校では、4月から部活動の勧誘が盛んに行われており、GW明けてからの5月が各部活動から総務委員会への入部届提出が1年でもっとも集中する時期でもある。


 入部届は、本人が記入した物を部が受け取り、部長もしくは副部長のサインをしてから総務委員会へ提出し、総務委員会で受領処理が終われば正式な部員と認められる。

 ウチの場合は、副部長の僕が総務委員会の執行部役員も兼任しているので、副部長としてサインしてそのまま総務委員会に持って行って、自分で登録(PCでの入力)をしてしまえば、入部の手続きは完了出来る。



 総務委員会室へ行くと、久我山さんが居たので「お疲れ様です。 新入部員の手続きに来ました」と挨拶すると、「あ、アラタくん、丁度良い所に来た。 さっき演劇部の子とモメてたんだって?」と言われ、ギョっとした。 流石久我山さんと言うべきか、情報が早すぎる。


「それはその・・・邦画研究部に入部希望してる子を演劇部の1年が強引に勧誘してまして、本人の意思を無視するような発言がありましたので、総務委員会の名前出して警告しました。 勝手なことしてすみません」


「ううん。そんなことで注意するつもりじゃないから。 むしろ、総務委員の役目を立派に果たしたんだから「良くやった!」って褒めようと思ってたの。1年生なのに、アラタくんは本当に凄いよ?」


「そうですか」


 僕も佐倉さんも立ったままだったので、佐倉さんには空いてる席に座って貰い、僕も自分の席に座って雑談がてらに事情説明をすることにした。


 ◇


「そっかぁ。そんな事情があってアラタくんが自分で対応してくれたんだね。 それで、その被害を受けてたのがその子なのかな?」


「ええ、1年3組の佐倉ナナコさんです。それで今日は佐倉さんの入部手続きをしに来ました」


「総務委員の久我山です。 大変でしたね」


「さ、佐倉デス!ハジメマシテ!」


 佐倉さんは久我山さんを前にして、何故か緊張していた。


「そういえば、佐倉さんも同じ豊浜小学校の出身ですよ。 昔のよしみで仲良くして貰ってるんです」


「へぇ~二人は豊浜小の同級生だったんだ。 じゃあ『カミサマ進藤』も知ってるのかな?」


「はい!アラタくんには沢山助けて貰いました!アラタくんは昔っから神です!一生推します!命賭けて推してます!」


「また始まった。 佐倉さん、ココは委員会室ですよ。騒いだらお仕事の邪魔になっちゃいますからね」


「はい・・・しゅみましぇん」


「うふふふ。 凄く綺麗な子なのに、見た目と違って面白い子なんだね」


「変なスイッチ入るとこうなっちゃうみたいで。僕も今日知りました。普段はもっと落ち着いたお嬢さんなんですが」


「佐倉さん、アラタくんだけじゃなくて峰岸さん(ミイナ先輩)のことも、よろしくね?」


「はい!峰岸先輩も神推しです!ツインテロリ先輩すこすこデス!」


「そういう意味で「よろしくね」とは言ってないと思うけど・・・」



 それにしても、いつも敵意むき出しのミイナ先輩のことを久我山さんが気に掛けているとは、意外だった。

 やっぱり、総務委員会の委員長ともなれば、これくらい器が大きく無いと務まらないのかもしれない。


 久我山さんとの雑談の後、速やかに佐倉さんの入部処理を終えて部室に戻った。




 ◇




 ミイナ先輩がまだ戻って無くて心配だったけど、下手に動かず待つことにした。


 でも待っている間、ミイナ先輩のことが心配で呑気に映画を見ている気分じゃなかったので、佐倉さんと二人で畳に寝転んでテスト勉強をして待つことにした。



 中間テストが5月の下旬にあり、高校に入学して最初の定期試験で、自分の学力がこの高校ではどの程度の位置なのか気になっていた僕は、手を抜かずに真面目にテスト勉強に取り組んでいた。


 二人で勉強をしていると、佐倉さんから「あ、あの・・・ココの問題、分かりましたか?」と何度も質問されたので、分かるところは解説してあげて、僕も分からないところは一緒に考えて、解いていった。


 中学時代は、授業の合間の休憩時間や婆ちゃんの介護や家事の合間に勉強するしか無くて、いつも一人で勉強していたので、こんな風に誰かと協力して勉強をするのは初めてで、ちょっと楽しかった。

 佐倉さんも、「アラタくんに教わりながらだと、凄く捗りました」と言ってくれてたので、テスト期間中は放課後部室で勉強会を続けることを提案すると「勿論参加します」と賛同くれた。 あとでミイナ先輩にも話してみようと思う。



 しばらくすると、ミイナ先輩が戻って来た。


「ただいまぁ~」


「お帰りなさい」

「お帰りなさい!」


「それで、どうなりました?」


「演劇部の部長捕まえて苦情入れたんだけどさ、なんにも聞いてなかったらしくて、それでその場でその山路って子呼び出して演劇部の幹部も集まって事情聴取が始まったんだけど、あの子完全にビビっちゃって何にも言わないからあっちの部長も困っちゃってたみたいでさ。 でも埒あかないし私居てもしょうがないから『そっちの事情はどーでも良いから、2度とウチの子にちょっかい出さないで下さいね』って言って帰ろうとしたら、あの腹黒女(久我山さん)が突然来てさ、滅茶苦茶怒ってんの。怒鳴ったり声を荒げるんじゃなくて、ちょー丁寧な口調で淡々と喋ってんだけど、何故か事件のあらまし全部知ってるしさ、何より目が怖えーの!タレ目なのにちょー怖えーの!あれはマジ切れしてたね。周りに居たみんな凍り付いちゃってさ、演劇部の部長なんか真っ青な顔して山路って子の頭掴んで土下座する勢いで謝罪しててさ、腹黒女も『今回は厳重注意で済ませますが、次は容赦しませんよ。それと、今後山路さんの演劇部の退部は認めませんので、演劇部でしっかりと指導するようお願いします』って脅すだけ脅して帰って行ったの。 私もいい加減帰りたかったから、そのタイミングで抜け出して来たんだけど、あの腹黒女はマジでヤバイって」


「さっき佐倉さんと入部の処理しに行った時は、全然そんな感じは無かったんですけどね」


「私のこと心配してくれて、とても優しい方でした」


 どうやら、先ほど雑談程度の報告したことで、久我山さんの手を煩わせてしまった様だ。

 あとで謝罪とお礼に行かなくては。


「とりあえず、山路が佐倉さんへ勧誘してくることは2度と無さそうですね」


「そうだね。あれだけ脅されればなんも出来んでしょ。演劇部だって山路が勧誘してきた子なんて2度と入部認めないだろうしね」


「それもそうですね。 それにしても、退部を認めないなんていう処分もあるんですね。流石久我山さんです」


「あーゆー男って、暴走したら何しでかすか分かんないしね。演劇部に監督責任持たせて指導させるのが一番楽なんでしょ」


「あ、あの!」


 僕とミイナ先輩が今回の件を話していると、佐倉さんが畳の上で正座して話し始めた。


「今回も助けてくれて、ありがとうございました。お二人が居なかったら私一人ではどうすることも出来なかったです。 それと、私なんかを部活に誘ってくれてありがとうございます。 お二人を見てて凄く楽しそうで羨ましくて、ずっとこの邦画研究部に入りたかったんです。ようやく念願が叶いました。 これから部員として一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします!」


「うんうん。無事解決出来てよかったね。 それに、二人だけだとちょっと寂しかったんだよね。アラタなんてGW中は楽しそうにしてたのに、認可下りて暇になった途端いっつも退屈そうにしてたしさ、佐倉ちゃん来てくれたから賑やかになって、コッチこそありがとうだよ」


「うん。無事に解決出来て良かったです。 でも、ウチの部じゃ一生懸命頑張る様な活動は無いので、マイペースで良いですよ」


「そ、そんなこと言わないで、何か私にも」


「そだ!佐倉ちゃんに会計を任せよう! 部長が私で、副部長がアラタで、会計係が佐倉ちゃん。これで邦画研究部の体制も整ったね」


「そうですね。じゃあ会計ノートは佐倉さんに任せましょうか」


「はい!やります!」



 こうして、佐倉さんの勧誘問題解決と同時に邦画研究部では3人体制となり、翌日佐倉さんは早速部室にアニメのDVDやBDを大量に持ち込んだ。 

 それと、テスト勉強の為に部活が無い日でも放課後部室に集まってたのに、勉強そっちのけで「ですの」の元ネタのアニメも無理矢理視聴させられた。



 邦画研究部での佐倉さんは活き活きしてて、本当に楽しそうだ。



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