#24 総務委員会ですの




 僕からの邦画研究部への勧誘を断わる佐倉さんは、電話口で何度も謝罪を繰り返していた。


 僕は「謝る必要は無いよ」と何度も伝えたけど、それでも謝罪するのを止めずに、最後には電話口で泣き出してしまった。


 佐倉さんの様子が普通じゃないと思えたので、コレは直ぐにでも直接顔を会わせて話す必要があると思い、今から会いに行くことを告げて、自転車に乗って佐倉さんの自宅へ向かった。


 とは言っても、佐倉さんの自宅の場所は知らないので、以前住んでいた時の記憶を頼りに、佐倉さんの自宅付近だと思われる住宅地へ向かい、公園があったのでソコから佐倉さんに「いま〇〇公園ってところまで来てるから、出てこれないかな?」と連絡した。


 佐倉さんは「すぐに行きます!」と言って、本当に直ぐに来た。

 僕の記憶と予想は合っていたらしくて、佐倉さんの自宅はこの公園と目と鼻の先だった。



 強引に押し掛けたことを謝罪した上で、佐倉さんを邦画研究部へ誘う理由を1から順番に説明した。


 山路が佐倉さんに好意を抱いてて、親密な関係になることが目的でしつこく演劇部に誘っていることや、僕との再会で佐倉さんが泣き出してしまったことが噂になってて、佐倉さんを好きな山路が焦っていることも話した。


 そして邦画研究部では、ミイナ先輩も僕も佐倉さんを歓迎するし、僕たちが佐倉さんを守ることを約束した。

 因みに、総務委員会の名前は出さなかった。


 そこまで話すと、佐倉さんはまた泣き出してしまったけど、「邦画研究部に入部したいです」と言ってくれた。


 そして、泣き止んで落ち着くと、「本当はアラタくんが峰岸先輩と楽しそうに部活の立ち上げのことを相談してる姿を見ては、羨ましかったんです。私も参加したかったんです。 でも、自分からは恥ずかしくて「私も参加したい」と言えなかったし、山路くんのこともあったから迷惑を掛けてしまうと諦めていた」と話してくれて、「部活動立ち上げを手伝えなかった分を取り戻すつもりで、これから頑張りたい」とも語ってくれた。



 そして、佐倉さんの本音を聞いた僕は、佐倉さんが思っていた以上に追い詰められてたことに憤りを感じ、当初の計画を一部変更して、迅速に対処することにした。


 山路のやっていることは、緑浜高校の伝統である『生徒の自由』を阻害する行為であり、総務委員会書記として、邦画研究部副部長兼会計として、そして佐倉さんの友達である1年3組進藤アラタとして、佐倉さんをここまで追い詰めたことを『絶対に許さない』と、僕は本気で怒っていた。





 ◇





 その場で早速、僕は動き出した。

 須賀さんや瀬田さん、古賀くんにも連絡を入れて、佐倉さんが邦画研究部へ入部したことを噂として広めて貰う様にお願いした。




 翌日、朝から山路が3組に押しかけて来たけど、僕からの事前の指示で、佐倉さんは僕の傍から離れず二人で仲良く会話しているフリをしてやり過ごした。

 実際に、佐倉さんは山路に呼ばれても近寄りもせずに僕の横から「今忙しいから、ごめんなさい」と言って拒絶し、その度に山路は表情を歪ませ僕に対して睨む様な視線を向けて来た。

 それに対して僕は山路を無視して、敢えてニコニコ笑顔で佐倉さんと会話を続けた。




 そして放課後。

 僕と佐倉さんは邦画研究部の部室へ向かう為に、二人で仲良さげに肩寄せ合って教室を出た。


 これも敢えて山路を挑発する為の作戦だった。

 3組の教室を出て、二人並んで仲良さそうな演技をしながら廊下を歩いた。

 周りからの視線が集まってて佐倉さんはキョドっていたけど、僕は気にしていないふりで堂々としていた。


 そんな僕達二人が山路の居る5組の教室前に差し掛かると、教室から山路が飛び出してきて、僕達の行く手をはばんだ。



「邪魔なんですけど、何か用?」


 こうなることを予想していた(山路から絡んでくる様に意図的に挑発していたとも言う)ので、佐倉さんには『山路が絡んできたら僕に全て任せて、黙って見てるだけでいい』と事前に伝えてあった。



「ナナコちゃん、ホウなんとかっていう怪しい部活に入ったって、本当なのか?ウソなんでしょ?」


 山路は僕を無視して佐倉さんに話しかけるが、佐倉さんは返事をせずに僕の背中に隠れた。


「キミ、失礼だな。邦画研究部に喧嘩でも売ってるんですか? 佐倉さんは既に邦画研究部の立派な部員の一人ですよ?今更文句でもあるんですか?」


 本当は、今日これから部室に行って入部届を書いて貰う予定だから、部員というのは現時点では嘘である。


「五月蠅い!お前になんか聞いてない!ナナコちゃんは俺と一緒に演劇部に入ることになってたんだ!邪魔するな!」


「本人は「演劇部になんて入りたくない、しつこくて迷惑してる」って言ってるんですけど?」


「そんなことは知るか!俺がそう決めたんだ!」



 この言葉を聞いて「はい、ダウト」と通告し、制服のポケットから緑色の腕章を取り出して、腕に通してから「総務委員会書記の進藤です」と名乗った。


 僕が総務委員であることを名乗ると、流石に不味いと思ったのか、それまで感情的だった山路は怯んだ。


「今の発言で、本人の意思を無視した強引な勧誘だと判断しました。 周りには沢山ギャラリー居ますんで言い逃れは出来ませよ?」


「そ、それは・・・」


「どうしますか?まだ勧誘するつもりですか? いずれにせよ、演劇部に対して抗議させて貰いましょうかね」


「ま、まてよ」


「あれ?もしかして、演劇部の方針じゃなくてキミ個人の独断で勧誘してたんですか?」


「・・・・」


「それは不味いですよ?キミの身勝手な行動が原因で演劇部はペナルティを受けることになるんですからね。演劇部って毎年多くの部費を支給されてますけど、全額没収とかになったらこの1年間どうするんですかね?しかもそれが新入部員の1年が原因でとか、上級生はメンツも潰されるわけですからね。キミ、相当不味いことになるんじゃないんですか?」


 迅速に解決することにした僕は当初の方針を変更して、総務委員会の名前を出してでも早期解決を図り、後顧の憂を絶つために、敢えて人目に付く場所で山路のプライドをポッキリ折ってやろうと考えていた。


 そしてその結果、衆人環視の中でここまで言われ追い詰められた山路は、しっかりとプライドが折れた様子で、泣きそうな顔をして僕達の前から逃げて行った。

 


 因みに、演劇部に山路のことはチクるつもりだけど、演劇部相手に喧嘩まではするつもり無い。

 それと、総務委員会の方は、簡単に「こんなことあったけど、総務委員の名前だしたら解決しちゃいました」程度に報告するつもりだ。



 今日のところは作戦通りに無事終わったので、腕から腕章を外して「さて、ミイナ先輩も待ってるし、部室に行こうか」と佐倉さんに声を掛けると、佐倉さんはウルウルさせた瞳で僕を見つめていた。



 佐倉さん、ウルウルさせるの好きだな。



 と思わず現実逃避したくなるほど、周りには沢山のギャラリーが居た。

 それこそ、この様な衆人環視の中で、美人で人気者の佐倉さんにウルウルと見つめられては、どんな噂が流れるかを考えると恐ろしすぎる。


「尊い・・・」


「とりあえず、部室へ」


「あの!すっごく素敵でした!特に『総務委員会書記の進藤です』って名乗ってた時のアラタくん、神でした!尊みが深すぎて鼻血出るかと思いましたよ!一生推します!一生ついて行きます!でも1つだけ言わせて貰いますと、やっぱりアレですか?『ともあれシリーズ』の黒井白子さんを意識してるんですか?それだと『総務委員会ですの』って言うべきでしたよね。一度実際に言って貰えませんか?アラタくんなら絶対にそっちの方がぴったりだと思います!」


 佐倉さんが興奮しながら早口で意味不明なことを捲し立てていた。


「お、おい、キミは何を言ってるの?黒井白子って誰なの?言ってる意味がさっぱり分からないんだけど?」


「ちょっと貸してください!やって見せますから!」


 佐倉さんはそう言うと僕の手にある緑色の腕章を奪い取り、肩幅に脚を開いて姿勢を正してから右腕に腕章を通すと、その腕を下に真っすぐ伸ばして腕章を左手で摘まんで僕に見せる様にして「総務委員会ですの」と低いトーン&キメ顔で実演して見せてくれた。


 周りのギャラリーから「おぉ~」とどよめきの様な歓声が上がると、佐倉さんは「フフフン♪」とドヤ顔になった。

 

 目の前でそれを見ていた僕は、ドン引きしていた。


 佐倉さんのドヤ顔なんて、初めて見たよ。

 スイッチが入ったオタク、侮るべからず。




_______


元ネタ

https://www.youtube.com/watch?v=sEsnCnjmRoI


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