#17 佐倉さんの謝罪とお礼
ヒールの高いサンダルを履いてて身長差がほとんど無い為か、目の前には瞳をウルウルさせてても相変わらず整った綺麗な佐倉さんの顔が。
そして、先ほどのタコ焼きを頬張るセクシーな表情が脳内で重なり、言葉を失い見つめ合ったまま硬直してしまった。
蛇に睨まれたカエル?
いや、美女に見つめられた男子高校生。
一瞬時間が止まったかの様に思考が停止してしまったけど、直ぐにハッ!として、意識を現実に引き戻す。
これは、不味いぞ。
また、泣かれてしまう。
こんな場所でまた泣かれたら、面倒なことになりかねない。
兎に角、泣かれる前に宥めなくては。
色々な理由で心臓をドキドキさせながら、言葉を連ねる。
「だ、大丈夫だから。変なのはもう追っ払ったから。僕が傍に居るからね?また変なの来ても追っ払うからね?もう怖く無いからね?そうだ、カルピスでも飲んで落ち着こう!僕も喉がカラカラだから果汁30%オレンジ飲んで落ち着くよ!佐倉さんもカルピス飲もう! そこのベンチに座って飲もう!1杯じゃ足りなかったらお代わりすれば良いからね?ドリンクバーは飲み放題だから何杯でもお代わり出来るからね? だから、ゆっくり休んで気持ちを落ち着かせよう。うん」
「・・・・・・」
「ダメ・・・? やっぱり泣けちゃう?」
表面上は冷静であることを装いながら、内心では「泣くな!泣かないでくれ!」と必死に祈っていた。
僕の祈りが通じたのか、佐倉さんは瞳に涙を一杯溜めながらも歯を食いしばっているのか唇を力いっぱい引き結んで、涙が零れないように堪えていた。
「うんうん。もう大丈夫だからね?」
再び僕が安心させようと言葉を掛けると、佐倉さんは唇を閉じたまま、フーフーと鼻を膨らませ、右手で僕のパーカーの裾を掴んだまま左手に持っていたグラスのカルピスを煽るように一気に飲み干した。
「落ち着いた?お代わりいる?」
佐倉さんはフーと思いっきり口から息を吐くと、話し始めた。
「いつも、迷惑かけて、ごめんなさい・・・」
「へ?」
「いつも、助けてくれて、ありがとう・・・」
「むむ?」
「いつも、ちゃんとお礼が言えなくて、ごめんなさい・・・」
「あれれ?」
さっきのナンパが怖かったから泣きそうになってたかと思ったら、そんなことで泣きそうだったの?
さっきのナンパも学校の駐輪場の時も、たまたま居合わせたから助けただけだし、佐倉さんだったから助けた訳じゃなくて、他の人だったとしても多分同じように助けてただろうし、迷惑とかお礼とかそんな風に申し訳無く思う必要は無いんだけど。
でも、それを言うのは野暮な気もしたので、謝罪とお礼の言葉は素直に受け取ることにした。
「うん、もう分かったから、気にしなくていいからね。ドリンクのお代わりしたら部屋に戻ろうか」
「うん・・・」
「あ、その前に、メイク直したい? 行くなら待ってるからグラス預かるよ?」
「うん」
僕がグラスを預かると、佐倉さんはすぐ傍にあったトイレに入って行ったので、姿が見えなくなってから「ふぅぅぅぅ」と盛大に溜息を吐いて、ドリンクディスペンサーに置きっぱなしだった自分のグラスを取って、途中まで注がれていた果汁30%オレンジを一気に飲み干した。
ずっとカラカラだった喉に柑橘系の酸味が染み渡り、生き返る。
空になったグラスを再び置いて、今度はジンジャーエールのボタンを押し、適当な量で止めると再び一気に飲み干した。
疲れた・・・
ナンパ二人組を相手にするより、泣きそうな佐倉さんを宥める方のが数倍疲れた。
ふと左手に持ったままの佐倉さんのグラスを見ると、薄っすらとピンク色のグロスが唇の形で付着していた。
相変わらず佐倉さんの態度はクラスメイト達に対してと僕とでは違うけど、それは須賀さんが言ってた様に、僕に対しては緊張とか申し訳ない気持ちとかで、正常な態度が取れなかったというのは分かった。
先ほどの佐倉さんの謝罪とお礼の言葉を聞いて僕がそれを受け入れたことで、僕たちは仲直り出来たと判断して良いだろう。
あとは、少しづつでも交友を深めて、お互い普通の態度が取れるようになれれば良いのかな。
そうなれるまで、中々大変そうだよね・・・
佐倉さん、僕の前だと情緒不安定っぽいしね・・・
でも、瀬田さんや他のクラスメイト達が応援や心配してくれてるから、泣き言言ってる場合じゃないよね。
それに、仲直りする為に佐倉さんの方から歩み寄ってくれたけど、かなり無理して頑張ってくれてた様に見えた。
僕はそのことが凄く嬉しい。
だから今度は、僕がしっかりしないとだね。
ドリンクバー3杯目にアイスカフェオレをチョイスして、グラスにドボドボ注いでいると佐倉さんが戻って来た。
表情からすっかり持ち直したように見えたので、預かっていたグラスを返そうとすると、佐倉さんが今日何度目かの決意した様な表情で声を発した。
「アラタくん!私と連絡先の交換して下さい!」
「へ?」
「あ!私のスマホ、バッグの中だから、部屋に戻ってからお願いします!」
「あ、はい」
佐倉さん、何だか一生懸命なのは分かるけど、今日は言動が突飛過ぎて僕の思考が追い付かない。 トイレから出てきていきなり第一声がソレとは、誰も予測出来ないよ。
佐倉さんがドリンクバーのお代わりに果汁30%オレンジをグラスに注ぎ終えたので、部屋に戻ることにした。
二人で並んで歩きながら、「佐倉さんも果汁30%オレンジ好きなの?それサッパリしてて美味しいよね」と話しかけると、「さっき、アラタくんが言ってたの聞いたら、飲みたくなって・・・」と照れ臭そうにモジモジしながら教えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます