#14 ミイナ先輩の寝顔と佐倉さんの気合い





 畳みの上で気持ち良く寝ていると、何かが顔の上に乗っかってきて、目が覚めた。


「う~ん」と体を伸ばしながら目を開けると、僕の顔の上に乗っかっていたのは、ミイナ先輩の脚だった。

 それを払いのけて上半身を起こすと、ミイナ先輩は僕の太ももをマクラ代わりに抱き着く様に寝てて、僕の履いているジャージにヨダレを垂らしていた。


 寝落ちする前は体を同じ向きに並べて寝てたのに、なんで逆向きなの?


 ミイナ先輩の寝相の悪さとヨダレに思わず溜め息を吐きながら、その寝顔を改めて見ると、夢でも見ているのかニヤニヤしてて楽しそうだ。


 この日はクラスの懇親会が6時からの予定で、スマホで時間を確認するとまだ3時で余裕があったので、起こしていた上半身を捻る様に横たえて、ミイナ先輩のダラしない寝顔を眺めながらもう少しだけゆっくりすることにした。



 他人の寝顔を見ていると、いたずらしたくなるのは何故なんだろう。

 ミイナ先輩の形の整った綺麗な小鼻を、ツンツンしたくなってきた。



 ツンツン


「ん~ん・・・・」


 鼻をピクピクと少しだけ反応するけど、起きる程では無くて、調子に乗って更にツンツンしてみた。


「んふ~ん・・・・」


 ツンツン


「ん~・・・・ヘップシ!!!」


 お鼻ツンツンをやり過ぎたせいか、美少女らしからぬ豪快なクシャミをして、僕の顔までミイナ先輩のツバが飛んで来た。



「ん~、あれ・・・? 寝ちゃってた・・・?」


「おはようございます。僕もさっき起きた所です」


「やっべ!!!いま何時???」


「3時ですね。今日のところは解散ですかね」


「まだ3時か・・・って、うお!?アラタのズボンがヨダレまみれじゃん!ごめん!」


「帰ってからどうせ着替えるので、大丈夫ですよ」


 寝顔にいたずらしちゃってたので、ヨダレ程度で怒るのは気が引ける。


「それじゃあ帰ろっか。 アラタはこの後クラスの集まりなんでしょ?」


「はい。カラオケらしいです。 人前で歌うのは苦手なんで、隅っこで大人しくする予定ですけど」


「え~?勿体なくない?折角行くなら歌わなきゃ」


「ミイナ先輩はカラオケとか好きそうですね。どんな歌うたうんですか?」


「えっとね、ニルヴァーナとかオフスプリングって知ってる?少し古めの洋楽が多いね」


「邦画研究部なのに洋楽なんですね」



 二人とも体を起こして立ち上がり背伸びをすると、「ふあぁ~」と二人同時に欠伸をした。


 窓を閉めてから廊下に出てミイナ先輩が施錠をすると、二人でトボトボ廊下を歩いて下駄箱まで行き、徒歩通学のミイナ先輩とはそこで別れた。





 ◇





 帰宅すると直ぐにシャワーを浴びてから、夕飯の準備を始めた。

 この日は母さんも仕事が休みだったけど用事があって出かけてて、帰りが遅くなると聞いていたので料理するのは一人分。


 料理を終えて食卓で一人で食べていると、須賀さんからスマホにメッセージが届いた。



『今日のナナちゃんマジ気合い入ってるから。楽しみにしててね』


 楽しみどころか、凄く不安になるんだけど。

 一体佐倉さんは何をやろうとしてるんだ?


 一抹の不安を抱えながら、『了解』のスタンプで返信した。



 集合時間に合わせて着替えて、自転車に乗って集合場所である駅前のカラオケボックスに向かった。


 集合時間の10分前に到着すると既にクラスメイトが沢山集まってて、幹事の子に自転車を駅の駐輪場に停めてくる様に言われたので、一旦自転車を置いてから再びカラオケボックスの前に戻った。



 1年3組は40名のクラスで、今日の懇親会には22名が参加と聞いていた。

 みんなお洒落な服装で来てて、パーカーとハーフパンツにスニーカーというラフな格好で来てた僕だけ何だか浮いていた。


 ざっと見渡すと古賀くんや瀬田さんも来てて、一際目立っている佐倉さんが目に留まった。


 キラキラと輝いていた。

 光を反射して本当にキラキラしてた訳じゃなくて、輝いて見える程、お洒落で綺麗だった。


 薄いピンクのノースリーブニットに薄い色の花柄のフレアスカートで、生脚を惜しげもなく出して、ヒールの高いサンダルを履いていた。

 髪型は、普段はストレートなのに今日は毛先を軽く巻いててメイクもバッチリで、全体的にアダルティなコーディネートだ。

 同じ高校1年生には見えない。女子大生みたいだ。


 美人が本気のお洒落をすると、こうも輝いて見えるのか。

 事前に須賀さんが言ってた『気合い入ってる』というのは、コレのことだろう。


 しかし、その気合いの入れ様には思わず心の中で、『駅前のカラオケボックス行くだけなのに、気合入れすぎでしょ!』と突っ込んでしまった。


 佐倉さんたちお洒落軍団を遠目で見ていると、自分の場違い感を痛感してしまい、部室で見たジャージ姿のミイナ先輩のダラしない寝顔が恋しくなってきた。

 またあの小鼻を、ツンツンしたいな。


 ぼーっとミイナ先輩の寝顔を思い浮かべて黄昏れていると、幹事の子に声を掛けられ店内に移動した。



 人数が多いから二部屋借りているとのことで、各自好きな方へ入る様に言われ、2つの部屋の移動は自由だけど廊下では騒がないことや、食べ物の追加注文は幹事の子がまとめてするらしく、勝手に注文しないなどの説明があり、親睦会はスタートした。


 僕は人数の少ない方の部屋に入り、正面のモニターから一番離れたソファーの端に腰を下ろした。


 幹事の子がみんなの注文を聞いて周っていたので、僕はタコ焼きを頼み、あとは前で歌っている子の歌を聞いているフリして、部活での明日からの活動計画を考えていた。



 明日はミイナ先輩のお父さんがソファーを持ってきてくれるから、それを部室まで運んで、そのあと備品の買い出しにも行きたいけど、その前に部屋のサイズを計測しておいた方が良いかな。

 遮光カーテン買うのに、サイズが分からないとどうしようも無いしな。

 あとスクリーンもそうだ。どれくらいのサイズが良いか、部室で検討してからの方が良いだろう。

 でも、スクリーンって既製品じゃなくても白い平面の物なら代用が出来るんじゃないかな。

 予算に余裕が無いから、最初は既製品じゃなくても良さそうだ。

 プレーヤーは当面はミイナ先輩が自分のノートPCを持って来るって言ってたから、あとはプロジェクターか。

 予算のほとんどは、プロジェクターに充てるべきだろうな。



 前でマイクを握って熱唱しているクラスメイトをぼんやり眺めながら、そんなことを考え一人の世界に没頭していた。


 しばらくして部屋の扉が開いて店員さんが料理を運んで来たので、自分が頼んだタコ焼きを受け取ろうと、隣に座ってた子に「前、ごめんなさい」と言いながら手を伸ばして、固まってしまった。


 一人の世界に入り込んでたせいで全然気付いてなかったけど、僕の隣には佐倉さんが座っていた。








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