#13 部室の大掃除




 須賀さんと再会してから、学校で顔を会わせても佐倉さんが近くにいることが多くて、お互い会釈をする程度で言葉を交わすことは無かったけど、スマホには毎日の様にメッセージが来るようになった。



『ナナちゃん、今日もアラタくんと目が合わせられなかったって落ち込んでたよ』

『「アラタくん、数学が得意みたい!授業で指されても全部答えてたよ!」って興奮してたよ。今度、私にも数学教えて』

『ナナちゃんに「いい加減話しかけたら?」って言ってみたけど、情けない顔して「無理だよぉ」だって。アラタくんとの仲直りはまだまだ先になりそう』

『アラタくん、自分たちで新しい部活を作るの?ナナちゃんが凄く興味ありそうだったけど、あの様子だと入部する勇気は無いっぽい』

『3組ってGWの最初の日に親睦会でカラオケに行くんでしょ?ナナちゃんは行くみたいだよ。アラタくんも行くの?』



 須賀さんはもう開き直っているのか、頼んでもいないのに佐倉さん情報をジャンジャン送ってくるようになっていた。

 スマホ初心者の僕は、送られてきたメッセージには1つ1つちゃんと返事を返さないといけないとは考えていたけど、毎回どう返事をしていいのか困る内容ばかりで、辟易としていたのは内緒だ。



 だけど、佐倉さんのことを色々と思い出すことが出来て、そして佐倉さんが僕に対して嫌悪では無く好感を持ってくれているであろうことを把握出来たことで、教室では気持ちに余裕が持てるようになった。


 目を逸らされたりしても、「あ、コレは嫌われてたんじゃなくて照れてるんだ」って思えば、やっぱり精神的に楽になるのは当たり前のことなんだけどね。

 でも、僕と佐倉さんとのことを心配してくれてる瀬田さんや古賀くんにはまだ事情を話せないから、二人には申し訳なさを感じていた。





 ◇





 ミイナ先輩との『邦画研究部』立ち上げに関しては、GW前に無事に申請書を提出することが出来て、総務委員会では既に審査に入っていた。

 審査と言っても、僕の方から委員長の久我山さんと副委員長の香山さんには事前に相談してあったし、問題になるような点は何も無かったので、審査を通ることは確定していた。


 後は、職員会へ提出して承認を貰えば、正式な部活動として認められたことになる。

 具体的には、GW明け早々には承認された申請書が総務委員会に戻ってくるので、それを受けてから認可証を発行し、部長であるミイナ先輩に総務委員会室まで来てもらって、総務委員長の久我山さんからミイナ先輩に直接認可証を手渡すことになる。

 そのこと(ミイナ先輩と久我山さんの直接対面)だけが今から不安だけど、流石にミイナ先輩も変な気を起こして台無しにするようなことはしないと信じたい。


 それと、ここまでで出来る範囲の手続きを全て済ませていたので、正式認可前だけど活動の方も始動することになった。


 総務委員会執行部権限で先行して部室の割り当ても済ませてしまい、GW中に学校に出てきて部室の片付けや掃除、あとは備品などの買い出しや搬入をしてしまう予定。勿論、総務委員会の方では事前に許可を取って、鍵も受け取っている。


 二人だけでのスタートで人手は少ないし、早く部活としての活動を始めたいと逸る気持ちがあったので、やれることはジャンジャンやっていこうとミイナ先輩と二人で意気込んでいた。



 部室は、部室棟3階の階段から見て一番奥の端部屋を選んだ。

 映画を見るのが主な活動となるので騒音を配慮して隣の部屋が空き部屋であることと、僕が総務委員会で毎日仕事があることを考慮して、4階の総務委員会室と部室を行き来しやすいようにとミイナ先輩が気を効かせてくれて3階となった。

 因みに、階段からは一番遠いけど、一番奥には非常階段があって、それを使えば4階の総務委員会室へは30秒程で移動可能だ。それと、敵対関係となる映画研究部の部室は2階なので、滅多に顔を会わせることはないと思う。





 GW初日。

 朝から休日登校して部室の大掃除。


 僕もミイナ先輩も学校のジャージ姿で8時から登校した。

 部室に向かう途中で部室棟3階のトイレに寄り、常備してある掃除道具を借りてから、部室へ向かう。


 部室前には既にミイナ先輩が来てて、僕が来るのを待っていた。

 因みに、この日のミイナ先輩はいつものツインテールでは無く、汚れることを想定しているのかシュシュで1つに括っているだけだった。


「おはよう」と軽く挨拶を交わすと、ミイナ先輩はジャージのポケットから鍵を取り出して、入口扉の鍵を開けて扉を開いた。

 中からムワっとした湿った空気と、埃っぽい臭いが廊下まで漂って来た。


 部屋選びをしていた時期に一度だけ中を見てはいたけど、何年も放置されていた部屋はかなり汚れててガラクタも沢山転がっていた。



「うわぁ、ちょー汚ったないね!こりゃ掃除のし甲斐があるよ!」


「そうですね。今日中になんとか掃除までは終わらせちゃいましょう」


「おっけー! それじゃ早速始めるよ!」


 ミイナ先輩はそう掛け声を上げると、装備したマスクの上から左手で鼻と口を押さえてホコリ塗れの室内にズカズカ入って行き、一番奥にある窓の鍵を外して窓を開けた。


 換気を始めると、僕の方は部屋に残されていた不要なガラクタを次々と廊下に運び出した。


 マット部分がぼろぼろのパイプイスに、足が歪んで不安定な折り畳みのテーブル。

 スイッチを入れてみたけど動かなかった扇風機。

 同じく壊れたラジカセ。

 ダンボール箱に残された大量のオカルト雑誌。

 賞味期限が6~7年前に切れてる缶詰や缶ジュースなんかもあった。

 総務委員会で過去の記録を調べたら、この部屋は今は無いオカルト研究部という部が使っていたらしい。


 二人で協力して1時間程で全ての物を廊下に出し終えると、漸く掃除に取り掛かった。


 床を掃き掃除して雑巾がけして、窓ガラスや入口の扉、壁も水拭きで綺麗にした。

 その頃には、二人とも来ていたジャージが薄汚れていたけど、ミイナ先輩も僕もそんなことは全然気にせずに作業を続けていた。


 一通り室内の掃除が終わると一度休憩を挟んで、廊下に出していた不用品などのガラクタを屋外のゴミ捨て場へ運ぶ作業を始めた。

 この作業が一番大変だった。

 何度も何度も往復して、最初はミイナ先輩も僕もテンション高くてお喋りしながら作業をしていたけど、次第に口数が減り、運搬作業が終わるころには二人ともヘトヘトで無口になっていた。


 でも頑張ったお陰で、予定よりもずっと早いお昼頃には作業が全部終わったので、学校の近所にあるコンビニまで二人で買い出しに行き、部室に戻って簡単にお昼を済ませた。


 食事の後は、疲れていたので二人で床に寝転がって、必要な備品を相談した。



「ゴミ箱無いと困るよね。あと掃除道具も毎回借りて来るの面倒だし、部屋に欲しいね」


「そうですね。そういった備品は、管理委員会とか生徒会に相談したら、支給して貰えるんじゃないですか?」


「あー多分管理委員会だね。 GW明けたら私聞いてみるよ」


「了解です。 あとは、くつろげる様にイスとか畳ですかね?」


「イスなんだけど、ウチに要らないソファーがあるから、明日にでもパパに頼んで車で運んで貰うよ。 校舎裏の駐車場からは自分たちで運ぶ必要あるけど、タダだしそれでいいよね?」


「それは助かりますね。 明日搬入了解です」


「あと、畳なんだけど、本物の畳用意すると予算が全然足りないから、武道場の畳で余ってるのとか貰って来れないかな」


「柔道で使ってる緑の畳です?」


「うん。本物の畳よりアレの方のが運びやすくて腐ったり虫沸いたりしないし、良いんじゃない?」


「そうですね。 今日柔道部が居る様なら、総務委員会の名前出して交渉してみます」


「じゃあ私もついてくね!運ぶの二人の方がいいでしょ?」


「結構重いと思いますよ?大丈夫です?」


「大丈夫大丈夫!快適部室生活の為だと思えば全然よゆーだし!」



 片付けや掃除で疲れていたけど、こういう相談はテンション上がって楽しい。

 ミイナ先輩も同じらしく、柔道部との交渉に向かう時は鼻歌まじりでご機嫌だった。


 タイミングよく午後から柔道部が武道場で練習をしていたので、緑の腕章を付けて総務委員会であることを名乗った上で部長さんに不要な畳が無いか相談したら、3月に畳を交換したばかりで古いのが倉庫に沢山保管してあるとのことで、「好きなだけ持って行って良いよ」と言って貰えたので、有難く2枚貰うことにした。


 2枚重ねてミイナ先輩と協力して部室まで運び、部屋の中央に並べてみた。

 雑巾で表面を水拭きして綺麗にすると、ミイナ先輩が寝転んで大の字になり、「アラタも寝転んでみてよ!気持ちいいよ!」と言うので、僕もミイナ先輩の横に寝転んだ。


 二人で並んで寝ころんで、天井を見上げながら「マクラかクッションほしいなぁ」「くつろぎ過ぎですよ」とポツポツと会話をしていたら、疲れていたせいか、いつの間にか寝落ちしてしまった。







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