#04 苦労した中学時代




 今週から放課後の部活動を見学して良いらしいので、配布された昨年の総務委員会作成の部活動紹介の冊子を眺めながら見学したい部のピックアップと見学する順番を考えていた。


 目次の文化系の欄を見ると・・・


 コーラス部、軽音部、フォーク部、彫刻部、美術部、写真部、料理部、製菓部、喫茶部、珈琲研究部、放送部、演劇部、映画研究部、漫才研究部、落語研究部、アイドル研究部、文芸部、読書部、漫画研究部、アニメ研究部、手品研究部、園芸部、菜園部、野草研究部、手芸部、服飾研究部、歴史研究部、考古研究部、風土研究部、鉱石研究部、天文部、占い研究部、クイズ研究部、ボードゲーム部、eスポーツ部、英会話部、中国語研究部、フランス語研究部、手話研究部、書道部、数学研究部、そろばん部、アウトドア研究部、等々。

 多過ぎて、迷ってしまう。




 スポーツや競技系は自分には向いていないと思うので、運動部などは無し。 歌ったり演奏したり、演劇などの様な人前に出るのもちょっと苦手だから、無しかな。


 希望としては、趣味として楽しめる分野が良いだろう。

 そこまで絞っても、候補として残った部活はまだまだ沢山あった。


 短期間で全部回るのは無理だろうから、日数をかけて計画的に回る必要があるだろう。


 毎日では無く決まった曜日に活動しているのがほとんどだし、それを考慮してスケジュールを作るのが良いな。


 僕はお昼の休憩時間を利用して、部活見学をするスケジュールを作ってみた。



 完成した自作のスケジュール表に満足しつつ眺めていると、前の席の古賀くんが話しかけて来た。


「進藤くんは、文化部に入るの?」


「うん、そのつもり。 古賀くんはサッカーって言ってたね」


「おう。小学校のころからずっとやってるからな。 コレしか取り柄ないし」


「1つのことに長年打ち込んで来たとか、そういうのは羨ましいよ。 僕は中学では部活動が出来なかったからね。 だから高校では部活に入るのを楽しみにしてたんだ」


「中学では出来なかったって、何か事情でもあるの?」


「うん。 婆ちゃんの介護を手伝わなくちゃいけなくてね、放課後は直ぐに家に帰ってお婆ちゃんの世話とか家事を手伝う必要があったんだ」


「なるほど、そういうことか。 でも高校からは部活に入れるってことは、介護手伝わなくて良くなったのか?」


「うん、そういうこと。 婆ちゃんが年末に亡くなってね。そういう事情もあって、この春、母の実家のある田舎からコッチに戻って来たんだ」


「そっか・・・色々大変だったんだな。去年、俺なんて部活引退してから受験勉強に集中してたけど、進藤くんはそうもいかなかったのか」


「介護って言っても慣れれば自分なりに時間は作れるよ。 流石に受験勉強はしてたし、そうじゃなきゃこの学校には入れなかっただろうね」


「でも、そんな事情があったんなら、これからは時間もあるだろうし目一杯楽しめそうだな」


「うん、そのつもりだよ」ふふふ



 古賀くんとちょっぴりシリアスな会話をしていると、斜め前の席に座っている佐倉さんがチラチラとこちらを気にしている様子が見えた。


 ウチの事情は他人にベラベラ話すような内容じゃ無かったのに、思わず調子に乗って話してしまった。

 佐倉さんには、不幸自慢に聞こえてしまったのかもしれないな。

 こんな風にこれ見よがしに家の事情を話すなんて、良く無かったか。

 今後は自重しなくちゃいけないな。


 そう反省してから、自作の部活見学のスケジュール表を折りたたんで制服のポケットに仕舞い、窓の外をぼーっと眺めて時間を潰すことにした。




 ◇




 入学して三日目。


 この日から時間割通りの授業が始まった。



 高校での授業は進むのが速く、少しでも聞き逃すとあっという間に授業の内容が理解出来なくなった。

 だから授業中は必死に先生の話に耳を傾け、ノートにも事細かく書き込んだ。


 今日から家での予習復習も欠かせなくなるだろう。


 でも、中学時代と違って時間はたっぷりあるし、何とかなるかな。

 みんなやってることだしね。


 この高校の卒業生たちは、学業に部活に委員会にと毎日を忙しく過ごして、それでも国立大学や有名私立大学に多く進学している。

 他の人に出来るのだから、僕にだって3年間頑張ればきっとそれなりの道へ進むことが出来るだろう。



 授業が終わると休憩時間の度にノートを持って教科担任の後を追っては捕まえ、授業で理解出来なかった所を質問するようにした。


 僕は頭が良い訳ではなく、寧ろ人より理解が遅い方なのでこうやって分からない箇所は放置せずに直ぐに聞いて解決しておく必要があった。

 中学時代、塾へは通えなかったし家のことで勉強時間の確保が難しかった僕は、効率的に勉強を進める為に学校では積極的に先生へ質問していた。

 そのせいで、卒業時には「質問魔の進藤くんが居なくなると思うと、寂しいな」と何人もの教科担任の先生から言われた。

 先生たちの間では、僕は『質問魔の進藤くん』と呼ばれていたらしい。


 高校でも同じように学習を進めるつもりでいたけど、高校でもどの先生も快く質問魔の僕の相手をしてくれていた。


 学業の方はこの調子で頑張れば、何とかついて行けるだろう。





 総務委員となり、学業も何とかスタートすることが出来つつある。


 後は、部活動だ。

 この日の放課後から、一人で部活動巡りを開始した。





 佐倉さんとのことは、瀬田さんが本人に聞いてくれたそうだけど、何も話してくれなかったそうだ。

 それに相変わらず僕のことを避けてるような様子だったし、確認しようと質問したところで薮蛇になる様な気がしてならないので、僕の方から話しかけるのは控えることにしていた。





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