#03 どうやら嫌われている?
入学してから二日目。
少し早めに登校して教室に入り、隣の席の瀬田さんに挨拶してから自分の席に座り、教室内の様子を眺めていた。
徐々にクラスメイトたちが登校してきては、思い思いにグループになってお喋りしてたり、僕と同じように一人で静かに席に座ってたりしてて、誰かが教室に入ってくるたびに、「おはよ~」と挨拶が飛び交うのが聞こえた。
今日こそは、佐倉さんに聞こうと思う。
昨日、あれ程の反応を見せられては、どうしても気になる。
僕と佐倉さんの間に過去何があったのか。
昨日は、朝以降中々話しかける事が出来なかったので、今日は何とかタイミングを見て話しかけようと考えていた。
『僕と同じ豊浜小だったの?』と一言聞けば、本当に同じ豊浜小学校だったのなら多分そこから話が広がって、当時のことを色々聞き出してる内に何か思い出せるんじゃないかと思う。
そして佐倉さんが登校してきた。
佐倉さんが教室の入り口で「おはよう」とニコやかに挨拶しながら入ってくると、それまで以上に他のクラスメイトたちが「佐倉さん、おはよう!」「おはよう、ナナコちゃん!」と活気づいた。
今日は昨日よりも元気そうだ。
この様子なら昨日の朝のように、過剰な反応をしたり、泣き出したりと情緒不安定な反応はしないのではないだろうか。
佐倉さんがクラスメイトたちに挨拶しながら自分の席にやってきたので、僕の方から「佐倉さん、おはよう」と声を掛けた。
すると、チラリと僕の方を見て視線が合うと直ぐに逸らし俯いてしまい、ギリギリ聞こえる様な小さい声で「おはようございます・・・」と返事をしてくれた。
先ほどまでのクラスメイトたちと挨拶を交わしていた時と、明らかに反応が違う。
僕が話しかけた途端、テンション下がってる。
理由が分からないけど、この反応に少なからず僕はショックを受け、気持ちは沈んだ。
そして佐倉さんが僕に背を向けイスに座ると、その背中からはまるで『話かけないで』と言われている様に思えて、僕からはこれ以上話しかけることは出来なかった。
やっぱり、僕は過去に佐倉さんに対して、何か酷いことをしてしまった様だ。
でも、これまで他人を傷つける様なことをした記憶は無い。
むしろ、周りからは『お人好し』と言われてたくらいで、もし何かやらかしてたのなら、僕にとってもショッキングな出来事だったのだろうから覚えているはずなんだけど、どれだけ考えてもそんな出来事は記憶になかった。
無自覚に傷つけていたということなのかな。
でも、小学生時代にそんなことがあったとしても、今更どうすることも出来ないし、今後はこれ以上傷つけないように気を付けて生活するしか無い様に思えた。
そう思い至ると、僕の方から佐倉さんをジロジロ見るのは彼女にとって迷惑だと思えたので、なるべく佐倉さんへは視線を向けないように意識し始めた。
斜め前の席の彼女を見ないようにすると、窓の外へ目を向けるしかない。
登校してくる校庭の生徒たちをぼんやり眺めていると、前の席の古賀くんがやってきて「おっす!おはよう!」と声を掛けられた。
「おはよう、古賀くん」と返事をすると古賀くんは満足そうな顔を見せ、次に隣の席の佐倉さんや瀬田さんに向かって同じように「おはよう!」と元気に挨拶した。
佐倉さんも瀬田さんも、古賀くんのテンションに釣られる様に「おはよう」と元気に返事をしていた。
やっぱり佐倉さんは僕の時だけ明らかにテンションが低い。
そう思うと再び気持ちが沈んで来た。
すると、制服のポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出して確認すると、昨日登録したばかりの瀬田さんからメッセージが来ていた。
『佐倉さん、古賀くんとかには普通なのに進藤くんにだけなんか冷たいね。 進藤くんと佐倉さんは仲悪いの?』
隣の瀬田さんにチラリと視線を向けると、無言のまま心配そうな顔をして僕を見つめ返していた。
佐倉さんのことで悩んでいた僕は、このまま瀬田さんに相談することにした。
『心当たりが無いし、いつドコで知り合いだったのかも分からないんです』
『聞いてみたら?』
『昨日、話しかけることが出来なかったので、今日こそは聞いてみようと思ってたんだけど、先ほどの挨拶した時の反応見たら、僕から話しかけるのは止めた方が良いように思えてて』
『うーん、昨日みたいに泣かれても困っちゃうもんね。私から後で聞いてみようか?』
『そうして貰えると、助かります。 でも無理矢理聞き出そうとはしないで下さい。嫌がる様ならこれ以上嫌われるのも辛いので、そっとしておいた方が良いだろうし』
『うん、分かった。機会を見てこっそり聞いてみるね』
瀬田さんも古賀くんも僕とは知り合ったばかりなのに、良い人たちだ。
佐倉さんとは上手くやっていける自信が無いけど、二人とは良い関係が築けそうだ。
瀬田さんとスマホで内緒の相談をしていると、いつの間に担任の栗林先生が来ててHRが始まっており、慌ててスマホをポケットに仕舞った。
◇
二日目の今日は、今後の学校生活の為の準備が始まった。
学級委員長の選出、各種委員会の活動内容の説明と委員の選出。
学校行事の年間スケジュールの説明。
各部活動の見学期間や入部手続きの説明。
その他、提出物や登録などの手続きが必要な話など、etc
1限目では、学級委員長の選出から始まった。
何か委員会活動に参加するつもりだけど、学級委員長は流石にハードルが高そうなので、話合いや投票の間は大人しく様子を見つつやり過ごした。
次に、栗林先生が各種委員会に関しての説明をしてくれた。
中でも興味が湧いたのは、総務委員会と文体実行委員会だろうか。
文化部に興味がある為か、部活動や文化祭に関係する委員会にも興味が湧いている。
第一希望は、総務委員かな。
第二希望は、文体実行委員。
二つがダメだったら、管理委員か。
どれくらいの数の希望者が居るんだろう。
栗林先生の説明が終わると、先ほど選出されたばかりの学級委員長が司会進行役となって、各種委員の選出が始まった。
「総務委員を希望する方は、挙手して下さい」
学級委員長がそう呼びかけると、直ぐに挙手した。
教室全体を見渡すと、挙手しているのは僕だけだった。
「はい、一人ですね。 えーっと・・・」
「進藤です」
僕が名乗ると、クラスメイトたちが一斉に僕の方を振り向いた。
「ああ、すみません。進藤くんは決定と」
学級委員長がそう言いながら黒板に僕の名前を書き出した。
「他に居ませんか?」
誰も反応しない。
あれ?
委員会活動って、不人気なのかな?
面白そうだと思ったんだけど、他の人達はそういう風には感じなかったのかな?
結局、1年3組からは総務委員は僕一人だけとなった。
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