#02 いくら考えても思い出せない
担任は栗林先生と言って、女性だった。
見た目は30代に見えるが、実際の年齢は不明。
ハキハキと話す様子から、ちょっぴり厳しそうな先生に見える。
出欠を取り終え、入学式に出席する為に廊下に並ぶ様に指示が出ると、クラスメイトたちは席を立ち、出席番号順に廊下で並んだ。
佐倉さんのことが気になり視線を向けるが、もう泣いている様子は無かったけど、僕の方は見ようとしなかった。
僕の前に並ぶ古賀くんも気にしてる様子だけど、また泣かれでもしたら厄介だと思っているのか、佐倉さんには話かける様子は無かった。
体育館に移動し入学式が始まると、小学生時代の記憶を必死に思い返していた。
「佐倉」という苗字に何となく覚えがあるんだけど、いつドコでの知り合いだったか全然思い出せない。
転校してから一切の交流が途切れていたせいか、小学生時代の同級生で顔と名前が思い出せる人は限られているし、特に小学5年は1学期の途中で転校したので、当時の同級生は付き合いの短い人が多くて、ほとんど思い出せない。 何度も同じクラスだった子や、良く遊んでた友達とかは何とか思い出せるんだけど、その中には「佐倉」という苗字の子はいなかった。
やっぱり後で本人に聞いてみるしかないか。
そう思い至る頃には校長の長い話が終わり、壇上では生徒会長が挨拶を兼ねた学校の紹介をしていた。
僕が入学した県立
人気となる要因は進学率の良さだけでなく、他校に比べて部活動が非常に特徴的だったから。
運動部が10程度あるのに対して、文化部が40以上あるそうだ。
イメージ的には大学とかのサークルに近いのかもしれない。
僕自身は中学までは家の都合で部活は出来なかったので、高校では部活に入り高校生活を謳歌するつもりだった。 そして、高校から始めることになるので、初心者でも問題無さそうな分野の部活動を選ぼうと考えていた。
そういう意味では、多種多様な文化部が乱立するこの緑浜高校は、僕にとって非常に興味がそそられる学校だった。
生徒会長の学校紹介の中で、もう1つこの高校の特徴が説明されていた。
生徒による自治運営が重視されているとのこと。
生徒会をトップに、総務委員会(各部活動の指導、予算の管理)、風紀委員会(校則に基づいた指導、生活習慣などの相談)、
どの委員会もかなりの人員を抱えてて、所属する委員は各クラスから選出して1年間従事するのだが、必ずしも委員会活動に参加する必要は無いそうだけど、話を聞いてて僕も委員会活動にも興味が湧いてきた。
具体的にどの委員会という訳では無いけど、何かしらの委員会に所属してみたいと思う。
入学式を終えて教室に戻ると、担任の栗林先生から今後の日程や時間割の説明があり、それが終わると出席番号順に一人づつ自己紹介することになった。
男子から順番に席で立って自己紹介していく。
僕の前の古賀くんは「古賀ケイゾウです!北中出身です! 中学ではずっとサッカー部で高校でも続けるつもりです!体力とノリの良さが売りなんで、みんな仲良くしてください!」とハイテンションでアピールすると、クラスメイトたちのテンションも少し上がって、みんな元気よさげに拍手をしていた。
次に僕の番になったので立ち上がり、自己紹介を始めた。
「進藤アラタです。 この春、引っ越して来たばかりで友達が居ませんので、仲良くしてくれると嬉しいです。 高校では文化部に入ってみたいと楽しみにしていました。 これから1年間よろしくお願いします」
最後にお辞儀をして自己紹介を終えると、古賀くんの時に比べクラスメイトたちの反応はイマイチだったけど、古賀くんだけが両手を挙げて大袈裟に拍手をしてくれた。
その様子に照れくさくなりつつ、古賀くんのお隣の佐倉さんに視線を向けると、サッと目を逸らされた。
男子が一通り終わり女子の自己紹介が順に進んで行った。
佐倉さんの番になり立ち上がると、身長は160後半だろうか。女子の中では比較的高そうで、背筋をピンと伸ばし黒のタイツに包まれた脚はスラリと長くて、綺麗な立ち姿に思わず見惚れてしまった。
そんな僕の内心を他所に、丁寧で穏やかな口調で話し始めた。
「佐倉ナナコです。 緑浜東中学出身です。 中学までは吹奏楽部に所属してました。 高校では別のことにチャレンジしてみたいと思います。1年間よろしくお願いします」
佐倉さんが挨拶すると、特に男子生徒達が賑やかに拍手を送っていた。
流石美人だから、男子からの人気がありそうだ。
僕は佐倉さんの背中を見つめながら、頭の中で整理していた。
緑浜東中学は、学区内に僕が小5まで通っていた
やっぱり彼女は小学校時代の同級生の可能性が高いが、でも思い出せない。
全員の自己紹介が終わるとそのままHRとなり、本日は解散となった。
すると、みなスマホ片手に席を立ち、そこかしこで連絡先の交換を始めた。
僕は中学時代スマホは持っていなくて、この高校入学を期にを買って貰ったばかりだった。
まだ扱いに慣れてなかったし、連絡先の交換を自分からお願いすることに躊躇していた。
唯一、古賀くんから「進藤くん!連絡先交換しとこうぜ!」と言って貰えたので、「うん。お願い」と交換させて貰おうとするが、やり方が分からず手間取っていると、隣の席の瀬田さんが「慣れて無いの?」と声を掛けてくれて、正直に買って貰ったばかりでまだ慣れていないことを話すと「教えてあげるね」と言って、イチから教えてくれて、瀬田さんもその流れで連絡先を交換してくれた。
親以外では連絡先を登録するのは初めてで、チャットアプリに二人から「よろしく!」とメッセージが届くと、少し興奮しつつ、僕からも二人に「よろしくお願いします(ペコリ)」と返信した。
古賀くんと瀬田さんの二人は、僕だけでなく他の人とも連絡先を交換しようと、教室内を動き回り始めた。
僕は、自分の席に一人で大人しく座って、教室内の様子を眺めていた。
佐倉さんは多くのクラスメイトの輪の中でみんなから連絡先の交換を求められてて、それに笑顔で応えて忙しそうで、僕から話かけるのは難しそうだった。
本当は僕もその輪の中に入って行こうか迷ったけど、今朝、佐倉さんを泣かせてしまったので、その原因が解らない以上は不用意に輪の中に入って、またみんなの前で泣かせてしまうことが怖くて、遠巻きに眺めるだけに留めた。
しばらく様子を見ながら待ってみたけど、結局、落ち着いて話しかける機会が無いまま時間が過ぎてしまい、今日のところは諦めて通学バッグを持って一人で教室を出て、帰宅した。
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