第29話 現代その24 完結
気づいたかえ?
私の後ろの蒼暗い炎から声がした…。
私は起き上がり振り向く…。
島田崩しの髪型に、手ぬぐいを被り、小脇に丸めたムシロを抱え、黒い着物を肩まではだけ、妖艶な女が立っていた。
蒼暗い炎を纏って、炎の明かりで切れ長の目に色白の肌、唇だけがやけに赤い…。
女はニタリと笑うとまた、口を開いた…。
「やっと気づいたかえ…お前さん…」
「君は誰だ!!」
「あたしを忘れたかぇ?気づいたと言ったのに…あぁ…怨めしい…」
「君なんか知らない!!」
「あたしを…おリョウ姉さんを知らないと?そりゃ無いだろう?お前さん…」
「おリョウ…まっ…まさか!?」
混乱するも、私はおリョウの美しさから目を離せない…。
「やっと気づいたかえ…佐吉よ…」
「私は佐吉なんか知らない…」
「何を言う…お前は佐吉の匂いがするぞ…お前に流れるその血は、佐吉の血だ」
言われて私はそのまま気を失った…。
せせらぎの音に目を開けるが、周りは深蒼の闇の中…。
横たわる私の胸の上には、白く透き通るような腕があった…。
腕には、サキチと私の名が彫られていた…。
そうだ…私はサキチ…全てを思い出した…。
女陰が谷の魔に取り憑かれ、おリョウの隠し持つ小判に目を奪われておリョウを殺して逃げた男…。
それが私、サキチだった…。
「おリョウ…許しておくれ。おいらはどうかしてたんだ」
河原にムシロを敷いて、横たわる私の胸に手を掛けて、おリョウは私に添い寝をしている…。
「あぁ…愛しの佐吉…」
「お前の金は、せめてもの、償い代わりに貧しく困ったお方に渡してくれよと、お伊勢様に納めてきた。保土ケ谷へ戻ってお前を掘り起こし、おリョウの供養をし、そして罰を受けるつもりだった」
「あぁ…佐吉…抱いておくれ…」
おリョウは着物の裾を乱し、白い太ももをあらわに私へと足を絡める。
「おリョウ…お前はおいらを許してくれるのかい?」
「あたしはお前に呪いをかけた…。あたしと同じ目にあってあんたも苦しめと…だからあたしは佐吉…あんたを許すことが出来ないのさ!」
おリョウは私に跨がると、自分の女陰に私を招いた。
おリョウは激しく腰を振り、ふたりがいっきに登りつめると、手にした出刃で私を刺した。
おリョウを刺して一緒に埋めたおリョウの包丁…。
河原の石で研ぎすまし、錆を落とした包丁でおリョウは私の腹を刺した…。
息絶えた私の骸を宙に浮いた私が眺める。
おリョウは私の首と腕、足を身体から切り離すと私の首から目玉をくり抜く…。
そして両手を掲げると、女陰の谷から産み出された女陰の魔を、私の身体に招き入れた…。
女陰が谷の魔の為せる事か、首、目、手足、そして胴体が私の意識で繋がった。
おリョウがひとつ、吐息を吐くと魔物が抱きかかえた私の首目、手足は西へ西へと消えて行く…。
そして、私の意識は胴体に入っていった…。
誰もいない私の部屋のパソコンが開く…。
魔の力を借りた私の意識が小説を書き進める…。
真相に辿り着いた私は、小説の最後で私の「目」、「首」、「足」、「手」に呼びかける。
「目、首、手足よ…早く私を探し出せ…幾十年、幾百年と過ぎようとも、渓川に埋まる私を掘り起こせ…そして、おリョウを迎えに行く…」
「私は呪いを打ち消して、今度こそはおリョウをめとり、おリョウとふたり、地獄の炎に焼かれたい…罪なき人々を巻き込み殺した私とおリョウの罪を永遠の地獄で償う為に…」
「だから私は待っているだけ…待っているだけ…今はね…」
保土ケ谷奇談 完結
作 佐吉
保土ケ谷奇談 ぐり吉たま吉 @samnokaori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ぢぢぃ回路/ぐり吉たま吉
★12 エッセイ・ノンフィクション 連載中 99話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます