第25話 現代その20

深夜の旧国道16号線。


国道16号線、保土ケ谷バイパスが開通してからは、この国道を16号線とはあまり呼ばなくなった。


厚木街道と呼んだ方がピンとくるのか?


それでも車の交通量は多い。

 

梅雨に入ったと言うのに、雨は少なく深夜にも関わらず、人の通りはかなりある。


国道脇の歩道をゆらゆらと、酒に酔っているのか、はたまた何かに導かれているのか、若い女がふらふら歩いていた。


歩道を歩く人々は、女を避けて歩いていた。


女を見れば、目は虚ろだが、前方のコンクリートタイルを見ている。


まるで前を歩く足跡を追うように、見えない糸にひかれる操り人形の如くゆらゆらとふらふらとゆっくり女は歩いてる。


女の目には、前を歩む「足」が見えてるから…。


その「足」は、素足だけが歩んでいる。


その「足」が左に曲がり踏切を越え、真っ直ぐ進むと公園が見えた。


「足」は誰にも見えないのか?

 

公園の向かいにあるコンビニエンスストアの店員が、酔っぱらいの女が、公園へこんな時間に入って行ったとアルバイトの店員に話している。


ここは陣ヶ下渓谷公園。


環状2号線の開通工事に伴って、陣ヶ下渓谷に沿って造られた公園である。


前行く「足」は、公園を抜け、せせらぎ流れる水辺で停まる。


しじまの闇の中、「足」だけが青白く光を帯びた。


「足」は、せせらぎの中へ入り、緩く流れる水を踏む。

 

バシャ…バシャっと水を踏むと、女は「足」の下の小石を掻き出す。


指先の爪が傷むのも構わず女は小石を掻き出しながら、天に向かって叫びをあげた。 


「目よ!見ているか?ここに私が埋まってる!」


「首よ!聞いているか?早う手を連れて来い!」



翌朝、平塚から保土ケ谷へ移住をしていたKは、手足は泥にまみれ、指先には血がこびり付き、服は濡れたまま、目を覚ました。


そして、血塗られた指先を見てケラケラと笑っていた…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る