第12話 江戸話その3






佐吉は東海道を西へ向かっていた。


まだ、背にする荷物は、おリョウの目玉と生首である。


佐吉は西へ掛川へと向かっていた。


何故掛川か?


掛川には将門公と19人の家来の首塚がある。


おリョウを殺めた罪悪感は、佐吉には未だなかったが、自分に惚れて尽くしてくれたおリョウの首を将門公の首塚に祀れば、成仏するやもと下卑た考えを持ったからだ。


全ては、死に際のおリョウの怨み言葉…。


佐吉の末代まで呪うとの言葉。


信じるものかと強がりしても、どこか怯えがあったのだろう。


小田原から三ヶ日歩み、四日目には島田宿へ着いた。


大井川の川止めも無く、金谷に渡れば掛川まではもう一刻、ニ刻。


早朝に佐吉は血洗川、首懸川の別名の掛川の橋へと辿り着く。


流石におリョウの生首は傷んできたのか臭う臭う。


川で洗って、橋の欄干へ腐れて頬が削げ落ちた、目の無いおリョウの生首とふたつのえぐり取った目玉を置くと、急に東の方から風が吹き、目玉がゴロリと転がった。


佐吉は慌てて拾うとするが、鴉が二羽来て、咥えて飛んだ。


目玉を咥えた鴉が二羽。


西へ向かって飛んで行く。


見附の宿場の空の上、二羽の鴉がカァと鳴くと、目玉はふたつ、落ちて行った…。


鴉が去ると佐吉は諦め、おリョウの生首、耳を摘んで持ち上げると、耳が千切れて首が落ちた。


川に落ちた生首拾い、将門公の首塚の裏に穴掘り、千切れた耳と共にコソッと穴に埋めた。


掛川の宿場へ戻れば、お伊勢参りの行列が何十、何百と歩んでる。

 

これは、うまい隠れみの。


佐吉は列に紛れ込み、お伊勢参りじゃ、おぬけまいりじゃと声を張り、西へ西へと伊勢に向かう。


佐吉に取り憑く女陰が谷の、魔の気のせいか、お伊勢参りの面々は、ふとした事よりいさかい始め、着の身着のままで伊勢参り、ついて来たものは、盗みを働く。


きっと手配が回ってると、思った佐吉はこの機に乗じ、どさくさ紛れに追手が届かぬ西へと急いだ…。



佐吉は無事に伊勢に着く。


どうせ伊勢まで来たのなら、天照の神さまの足元にでも唾を吐こうと鳥居に向かう。


鳥居の前で足が止まり、一歩も先へ進めない。


その時、お伊勢さまの御札が一枚、風に吹かれて佐吉に触れた。


御札が触れると佐吉は震えた。


佐吉の背より、これはたまらんと魔の影は散りに消えた…。


ハッと佐吉は膝をつき、おリョウを殺めた後悔し、およよと佐吉は泣き崩れる。


涙を拭い、鳥居を潜り、神の御影に懺悔した。


懐の小判は作務所へ渡し、困った方へ使ってくれろと、懐には、さっき拾った御札が一枚、大事にしまって、保土ケ谷へ帰る旅に出た。


保土ケ谷へ戻り、おリョウにわびて、罰を受ける為に…。

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