第9話 現代その9
初めてメールを致しました。
私は横浜市在住のMと申します。
あなたのブログを拝見し、もしやと思い、メールしました。
私が体験したのは大学生の時、私に触れるだけの「手」が現れた事です。
ブログのアドレスにこんなメールが来た。
詳しく話を聞きたいと、その人に返信をした。
仕事の都合で平日夜ならばとメールが届き、私は会う約束をした。
その人が会う為の指定した場所は、保土ケ谷の喫茶店…。
約束当日、私はその喫茶店の前に立ち、待ち合わせをした。
やって来たのは、30歳くらいに見える若いサラリーマンだった。
喫茶店に入り、録音の許可を得て話を聞くことになる。
初めまして、僕はMと言います。
今は横浜国大のそばに住んでいます。
あなたのブログを見ると、他の体験された方々も保土ケ谷に在住されているみたいで、ブログを読み、震えがきました。
若いけれど、しっかりして容姿も良い。
いわゆるイケメンだった。
彼はコーヒーをひと口飲むと話を始めた。
僕は就職に合わせて横浜へ来ましたが、実家は小田原です。
父は早くに亡くし、母とふたりで暮していましたが、母も事故で他界し、就職先に近い保土ケ谷へ越して来た訳です。
まだ母が生きていた頃…僕は大学生でしたから、今から7年位前ですね。
初めてそれに会ったのは…。
会ったと言うのは少しおかしいですが…。
それと言うのも、それは「手」だけだったからです。
肘から先の右腕…いや、たまには左手も一緒に現れた事もありました。
白くか細い女性の腕のような…。
そしてたまに現れる左手の肘に近い所には、薄っすらと入れ墨のような「サキチ」と書かれていました。
こう、右手で、針を持ち、左手の肘の付け根って言うのでしょうか?
いたずらに彫ったような、小さなカタカナで「サキチ」と書かれていました。
僕はバイトの帰り道、自宅まで音楽を聴きながら歩いていました。
今では危ないなと思っていますが、当時はイアホンを両耳にして、ボリュームを上げ流行りの音楽を聴きながらいつも歩いて帰っていました。
道は暗かったですが、慣れている帰り道。
鼻歌混じりで歩いていると、何やら僕の腕に触れる感じがしました。
そして、音楽が変に割れて雑音が入りました。
自分の腕を見ても何もありません。
僕はさほど気にせず歩いていると、今度は背中を、右肩から腰にかけて斜めにスッーと触られた様な気がします。
そして一瞬ですが、丁度僕の腰の脇に、白い「手」が見えました。
腕から先の右手が見えたんです。
僕は立ち止まり辺りを見渡しましたが、何もいません。
誰もいません。
暗闇の中、気のせいだろうと音楽を止め、イアホンをポケットに押し込み足早に自宅へ戻りました。
数日は現れませんでしたが、また、バイトの帰りに現れました。
今度は道端の草むらから腕が出て、おいでおいでとしているみたいに僕を手招きしています。
僕は目を擦り、もう一度見ると消えています。
誰かのいたずらだと思いました。
いや、僕に対してだけのいたずらでは無く、道を通る人々を脅かしているんだなと思いました。
しかし、「手」が出てくる…という噂も広まっていませんし、近所のその道を夜通って帰る人に話を訊いても誰も見たことは無いと言っていました。
それからは、月に一度位ですかね?
「手」がまた見え、僕を触りに来るんです。
怖かったですよ。
でも、見えたり触られたりするだけで僕に変わった事はおきませんでした。
そんなある日、帰り道で道の脇に建っている民家のポストから、白い「手」がはっきり見えました。
近づいても、消えません。
恐る恐るその「手」に触ろうとすると、僕の頭の中に声が聞こえてきました。
触るだけ…触るだけ…触らしておくれよ…何にもしないからさ…触るだけ…触るだけ…今はね…。
女の声の様でした。
不思議なんですが、僕はそれからは「手」も声も怖くなくなったんです。
むしろ、バイトの帰り道、現れてくれないかな?なんて思っていました。
就職が決まり、小田原から通勤、実家の家にこのままお母さんと一瞬に住むよと話をしていたところ、後日、母が自転車で買い物の途中、車に跳ねられ、轢き逃げされて亡くなりました。
それで小田原を去り、保土ケ谷へ越して来たんです。
母が死に、小田原から保土ケ谷へ引っ越す前にも何度も「手」は現れ、僕を触り、触るだけと言っていました。
そして、保土ケ谷へ引っ越して来てからも現れます。
「やっと辿り着けた…後は探すだけ…」
右手と左手で僕の背中を触りながら、こう言っています。
つい、最近もです。
それで「サキチ」の入れ墨がはっきりと読み取れて判ったんですよ。
「後は探すだけ…」
この言葉が、聞こえてきて、僕はなんか嫌な気がしました。
何度も聞いていると何が悪いことが起きそうな…その言葉を聞いてから、僕は怖くなりました。
だから、あなたのブログを見たとき確信を持って震えたんだと思います。
そして、今、声が聞こえてきました。
「やっと触れた…後は私を探すだけ…」
ってね…。
意味は判りません。
でも誰かが不幸に落ちる…そんな気がします。
話はこれで終わりです。
僕は子供の頃より、嫌な気持ちがすると。誰かが不幸になりました。
母を亡くした時も、そうでした。
もっと母にきちんと伝えた気をつけるように言えば良かったと後悔しています。
あなたも気をつけてください。
また、何か…声を聞いたら連絡します。
彼はそう告げ帰って行った…。
残った私は、誰かの不幸の事より、一連の話の関連性を考えていた…。
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