第7話 現代その7

今度はついて行くだけ…。


そして、今回の体験者もまた保土ケ谷在住…。


この保土ケ谷に何かがあるのか?


はたまた偶然か?


まだ、確信が持てない。


確信が持てないが、また、ついて行くだけをブログにあげた。


最後のひと文字を打ち込むと、そのままパソコンを閉じる。


タバコをつけようと、ポケットをまさぐるがタバコが無い。


コンビニまで行くか?


「パーラメント…9ミリので…」


コンビニの喫煙所でタバコを吸う。


しかし、頭の中はいまだ、まとまりがつかない一連の話の事でいっぱいである。


2本目に火を着けた時に、ふと思った。


自分はこの生まれ育った保土ケ谷だけども、保土ケ谷の事は何も知らない。


過去に何かが…事件でも起きていたのかもしれない。


そう言えば、この近くに代々保土ケ谷に住んでいる、地主のご隠居、Aさんが住んでいた。


久々にAさんへ会いに行こう。


何か知っているやもしれない。


私はAさん宅へ向かった。


「Aさん、久しぶり!お茶飲みに来たよ!」


「おぅよ、誰かと思えば棟梁のセガレじゃねぇか…棟梁は元気かい?」


「やだな、おじさん、オヤジはもう死んじゃってるよ、おじさんも葬式来てくれたじゃん」


「そうだったな…おめぇのオヤジにゃ世話になったよ、この家だっておめぇんとこで建てて貰ったんだからな」


「あはは…この前の建て替えは俺で、この家は俺が建てたんだよ。忘れないでよ」


「そうだったな。で、おめぇが今の棟梁かい?」


「うん、てかね、もう弟子達も独立させたし、俺も半分、引退しているよ」


「じゃ、おめぇも今は遊びまくってるんかい?おめぇのオヤジも仕事は真面目だけど、女癖が悪かったからな」


「あはは…おじさんには敵わないなぁ」

 

「おめぇのオヤジがガキん頃、最初に女郎屋へ連れてったのは俺っちだからよぅ」


百歳に近いAさんは、まだまだしっかりしている。


「おめぇのじいさまの源蔵さんも、そりゃ女には目が無くてな…おめぇの家計は仕事は一流だか、女癖が悪いのが玉にキズだな…まぁ、俺っちも人の事は言えないけんどな」


Aさんは、私と会うと必ず話すくだりをひと通り終えた。


「ところでさ、おじさん…昔ね、この保土ケ谷でなんか事件でも起きたことある?」


「事件?んなもんはねぇな…。喧嘩や盗み、人殺しなんかは、いっぺえ有り過ぎて噂話で終わっちまう街だったからな」


「そう?何か変わった殺人事件でもあったかなって思ったんだけどな」


「大昔はあったかもな…戦後の愚連隊の大喧嘩くらいしか、思い出さねぇなぁ」


話好きのAさんは、久々の昔なじみの私にひとりでしゃべりまくる。


「戦後って言えばよ、この辺はパン助どもがいっぱい住んでてよ、こっからアメさんの兵隊達を伊勢佐木辺りに誘いにいったもんよ」


「ふーん」


「吉原、品川にゃ敵わなくとも、保土ケ谷宿には遊郭があってな、その他にも青線や立ちん坊がいっぺえいたんだ」


「俺が生まれる前だから、良くわからないけど、一度、遊郭から連れ込みになった旅館の直しに仕事いったことあったよ。赤線、青線。今じゃ無いもんね」


「おぉ、大昔にゃ夜鷹もいたってさ。おめぇ、夜鷹くらい知っでるだろ?橋の下とか草むらの中でちょいと一発させる女さ…んでよ、江戸から東海道を昔の人は十里を日に歩いたんだ。日本橋から保土ケ谷宿は八里、まだ宿に入るは早いからって、旅の人々は先を急ごうとする。だから、女が街に立って旅人達の足留めをしたんだな。まだ、旅は一日目、懐には、たんまり路銀が入っているからな。それでも急ぐ旅人達を夜鷹がすぐ済むからと誘う訳よ。夜鷹ったって、ババァや後家の汚なぇ女ばかりじゃない。」

 

Aさんは、冷めた茶をひとくち啜るとまた話し始めた。

 

「夜鷹ったって、若くて綺麗な女も沢山いたんだ。遊郭のお姉さんより稼ぐし、お座敷にも呼ばれるしな。だから、そんな夜鷹にゃイロが出来る。若くて男前のイロが保土ケ谷宿にはいたそうだよ」


「そう言えばさ、おじさん。なんで保土ケ谷は保土ケ谷って言うんだろうね?」


私は何となく訊いてみた。


「俺っちも良く知らんけんど、昔、俺っちのじぃさんが話してくれたな…それはな…」



保土ケ谷はその昔、ほとのたにと呼ばれていた。


ほととは、女陰…。


つまり、女性器を意味する。


この保土ケ谷には女性器に似た谷が有り、そこから女陰が谷(ほとがたに)…そして、字を変え保土ケ谷となった。

 

そして、その女陰からは、魔が生まれると語り継がれていたらしい。


魔と言っても、あやかしなどが生まれ現れるのでは無く、何か得体の知れない、目には写らない怨念の様なものだった。


多くの人々が保土ケ谷宿に流れ込むと、その人々の妬み嫉み、邪念や欲望が少しづつ集まり結びつき、巨大な見えない男根となり、女陰の谷へ突き差し孕ます。


孕んだ女陰が谷は、魔を産み、魔として生れたそれは、女の怨念に取り憑き、呪怨の権化に変わったと言う。


「と、まぁ、こんな話だったな…」



女陰が谷…。


何かあの一連の話に関係があるかもな…。


私は独り言ち、そう感じていた…。



「長居しちゃった…おじさん、話ありがと、また、来るよ!」



私は自宅へ戻り、女陰が谷の由来も、文字にすべくパソコンを開いた…。


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