第6話 現代その6
私は大学を卒業するまでは、平塚の実家にいました。
今は通勤に便利なように横浜へ越してきましたが、そうです、保土ケ谷区のアパートに住んでいます。
最初にそれを感じたのは高校三年生の受験勉強の為、塾へ通っていた頃でした。
いつもは塾まで自転車で通っていたんですが、その日は雨で歩いて塾まで行きました。
塾での勉強が終わり、家に帰ろうと雨の路地を傘をさして歩いていました。
激しい雨なら、親に車で迎えに来て貰おうと思っていましたが、雨はさほど強くは無かったので歩いて帰ることにしたんです。
塾から家までは、歩きで15分か20分位ですね。
夜の10時を少し過ぎたくらいで、ひと通りは無かったですが、住宅街なので街灯や玄関の灯りで、暗くは感じませんでした。
その住宅街に商店街から入ってしばらく歩いていると、私のすぐ後ろから、ビシャビシャと足音か何かわかりませんが、ビシャビシャと聞こえてきました。
立ち止まると音も消えます。
歩き始めるとまた、音がします。
振り向いても誰もいません。
私はいぶかしながらも歩き続けました。
自宅の前まで音は聞こえていました。
そして、玄関の扉を開こうと門を通るとその音はビシャビシャと私から遠のく音が聞こえました。
いいえ、聞こえた気がしたと思っただけかもしれません。
私は半信半疑でした。
だから、雨振りで私の足音があのビシャビシャと言う音に聞こえたのだろうと思いました。
そう…そう思い込みました。
そうでも思わなきゃ、怖いじゃないですか…。
それからは、しばらく音は聞こえてこないで私も気のせいだったと忘れていました。
受験が終わり、進学が決まり友達と遊びに行った帰り、駅から自転車で自宅へ向かっていた時です。
やはり商店街から住宅街へ入ってすぐ、また、ビシャビシャと音が聞こえてきたんです。
私はゆっくりですが、自転車に乗っていたんですよ…。
それでも、私が乗っている自転車の速度とは関係なく、ビシャビシャ…ビシャビシャと聞こえてきたんです。
私は怖くなり、スピードをあげました。
しかし、ビシャビシャと言う音は一定の間隔で聞こえてきます。
走りながら振り向くともちろん誰もいないし、自転車と一緒に走っている人もいません。
私は自分の頭がおかしくなったと思いました。
しかし、ビシャビシャと聞こえて来るんです。
怖さより何で?と言う気持ちが強くなり、自転車を停めました。
すると、やはり、音は聞こえて来ません。
脇に自転車を停めようと自転車を押して歩くとまたビシャっと聞こえ、アスファルトから、土の所へ自転車を停めると、自転車の後輪のそばに、裸足の足跡…指やかかとの形がくっきりとした裸足の足跡がありました…。
私は恐怖で自転車に飛び乗り自宅まで一気に走り、門の前で自転車を飛び降り、玄関の中に逃げ込みました。
父親に話しましたが信じて貰えずに、逆に悪い男と付き合ってはないかと疑られました。
それでも、父は倒れた自転車を片付け、家の周りを見てくれて、誰もいないと言ってくれました。
そりゃいないですよ、私だって誰も見てないんですから…。
それからですね。
かなり頻繁に音がついてくるようになったのは…。
玄関の門までついてくるだけで、私に危害は加えないです。
だけどやはり、気持ちよいものじゃないですね…。
そして、就職が決まり、平塚から保土ケ谷へ移り住んでもあの足音はついてきました。
アパートの前までついてきました。
そして、一度だけ、アパートの前でしばらく扉を開かないでいると、少し離れた所に薄っすらと…朧にとでも言うんですかね…膝から下だけの素足が見えました。
つま先をクルリとこちらに向け、一度、ビシャと跳ね上がるとそのままずっーと消えました。
消える時、何となく頭に囁かれたような気がします。
「ついて行くだけ…ついて行くだけ…やっと辿りつけた…」
それからは音も声も聞いていませんし、素足も見ていません。
もう、ふた月以上になりますね。
何年もついて来ていたので、怖さもありましたが、別にいつまでもついて来ても良いかな?なんて思った時もありました。
でも最近彼氏が、出来たので彼氏に送ってもらいます…。
私の話は参考になりましたか?
この不思議な体験は何かの記録、いいえ、小説に使って貰えたら嬉しいです。
是非、頑張って書いて下さい。
実は、あなたの小説のファンだったんです。
新作、期待してます。
話を聞かせてくれた美しい女性は帰って行った。
私は、ひとり考え込んだ…。
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