第9話 妥当な価値

 これは、もはや脅迫。俺の命と連動しているポイントを現物を見ずにそのために使うことなどできるわけがない。


「あのう、ロラさん。どんなものなのか、少し説明してください」


「あたいを信用しろよ。大丈夫。絶対失望させたりしないから」


 随分勝手だが、よくよく考えてみれば、俺に不利になることをロラさんが勧めてくるわけがない。これまでの説明から俺たちは一蓮托生なんだから。それに、自慢じゃないが、暗算は苦手だし、あとで見直し検討するためにも、記録は取っておきたい。


「しょうがない。借ります」


「毎度あり。ダッシュボードを開けてみ」


 言われた通りダッシュボードを開けてみると、A4サイズのタブレット端末が入っていた。専用のペンもついていた。


「このペンはサービス?」


「それは付属品なので、タダよ」


 画面には、アプリのアイコンが並んでいた。どれもどこかで見たようなデザインだ。計算機のアイコンをペン先でタップした。画面は、上下2画面になっており、下半分がテンキー、上半分がルーズリーフのような横罫が入っていた。


「白いところに、計算式を手書きで書けっぺ」


 確か末社の保護できる範囲は半径10キロだったな。


円の面積だから。


10x10x3.14=


と書いたところで、右側に数字が現れた。


10x10x3.14= 314。


 おお、自動計算。便利。314平方キロ。1平方キロが10KPだから。


314x10= 3140 KP(3.14 MP)。


 末社の購入ポイントが1MPだから、約2MPは余るという計算だ。そうすると30%ぐらいは、保護に必要で、残りは利益として手元に残るわけだ。まあまあ、余裕はありそうだ。


「納得したか? そんでは、末社を埋めっぺ」


「それで、どこに埋めたら」


「それは、バカ野郎の自由だっぺ」


 ああ、また、自由か。苦手な言葉になりそうだ。


「タブレットの地図アプリを使ってみ」


 言われたとおりに、地図アプリを立ち上げると、軽バンのナビと同じ画面が現れた。末の字に丸のアイコンをタップすると、半透明の円が地図上に現れた。


「それが、末社の効果半径10キロの円だっぺ」


 その円を自由に動かしてみる。神域の中心付近まで移動して末社を埋めないと、保護されない神域が多くできてしまう。俺は画面の縮尺などを変え、どこに末社を置いたら一番効率的か考えた。完全に、すべての神域をカバーするのは難しそうだ。そうなると完璧を求め考え込むよりも、多少無駄になったり、いびつな形になったとしても車を走らせて、次々と末社を埋めたほうが効率がいいだろう。


 俺は、タブレットの画面を時々みながら、まあまあ納得のいく場所を目指して再び軽バンを走らせた。その間、ロラが追加の説明をしてくれた。


「守護システムも万能じゃねえのよ」


「どういうこと?」


「強力な敵が現れっぺ、そしたら守護システムで守りきれない場合だってあっぺ」


「そうしたら、どうすんの」


「強力な敵が現れても、すぐに、神域が奪還されるわけじゃあねえよ。完全に奪還される前に、敵をシメろ。そんため、やしろには転移システムも備わってから、遠くに離れていてもメンテナンス可能だ」


 敵と戦う? 俺が。サッカーボールを蹴っただけで痛む、この足で。


「戦えるわけ無いだろう」


 俺は、十字を切って、天を仰ぎ、どうか敵がやって来ませんようにと、天に祈った。目標地点近くで軽バンをとめた。


「そんで、末社を使うか?」


「はい」


 ダッシュボードを開けると、そこに木の札が入っていた。


「その札を地面に埋めれば終わっぺ。ところで、バカ野郎。あたい達の最大の弱点を知りたくねえか」


 いきなり、何を言い出すのか?

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