第46話「親子」

 初対面である筈のその女性に既視感を覚える。

 間違い無く会った事は無いけれど、この場所に居た事や、その悲しげな表情から直感的に察するものがあった。

 だから私は声を掛けようとしたけれど、どう切り出せばいいのか分からなくて、言葉に詰まってしまう。自分のコミュニケーション能力の低さが恨めしくて下唇を噛みながら、それでも言葉を絞り出そうとしていたら、 

「あの、失礼ですが、お名前をお聞きしてもいいですか?」

 坂口さんが先に口を開いていた。

「名前、ですか?」

 女性は怪訝そうな表情で私達を見つめる。

 一周りは年齢が離れた初対面の女子高生からそんな事を言われれば、当然の反応に思えた。

「失礼しました。私は坂口夜娃華と言います。こちらは橘夕花」

 坂口さんは私達が通っている学校名や学年まで女性に告げ、駄目押しとばかりに生徒手帳も提示する。

「私達の素性に関しては信頼して頂けたでしょうか」

「は、はあ……あの、どうして私にそこまで伝えるのでしょうか……」

 女性がまだ戸惑っているのは明らかだった。信用してもらう為とは言っても、坂口さんが説明し過ぎに思えるのは確かにある。けれど、だったらどうすればいいのか私には思いつかなかった。

「どうしてあなたにそこまで言うのか、ですか」

 しかし、坂口さんにはまったく焦っている様子は無くて、あの透き通るように細く、けれど確かな意志を感じさせる声で確信に触れる。

「あなたが、未央さんの母親だと思っているからです」

「え? あなた達、未央の知り合いなの?」

 女性――未央ちゃんのお母さんは驚いたような表情で私達を見つめる。

「はい。少しだけですけど、未央さんとお話をした事があります」

「未央と……どうして、私が未央の母親だと分かったんですか?」

「それは――面影があるから、ですかね。それと、この場所に居た事が理由と言えば理由です」

「……」

 坂口さんの言葉に未央ちゃんのお母さんは目を伏せ、そして悲しそうな瞳で道端に置かれた未央ちゃんを弔う為に献花された花束たちを見つめる。

 その姿に私は自分の胸が締めつけられるような感覚を覚えて、気づけば口を開いていた。

「あのっ、手を……手を合わせても、いいですか?」

「……どうぞ」

 未央ちゃんのお母さんは場所を私達に譲り、私と坂口さんは彼女に頭を下げて、未央ちゃんへの献花に目を向けた。

 手を合わせ、目を閉じて黙祷する。

 ついさっき見た未央ちゃんの笑顔が脳裏に浮かんで目の奥が熱くなるけれど、何とか耐えて目を開けた。

 横目で坂口さんの方を見ると、ちょうど目を開けたところみたいで、その表情は私の方からは伺い知れなかったけど、何処か寂し気に見えた。

 そして数秒の沈黙の後、坂口さんが口を開いた。

「少し、お話を聞きたいのですが、えっと……」

「有坂……有坂、詩織です」

「では有坂さん。あなたは――未央さんが亡くなったのは、自分の所為だと思っていますか?」

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