第35話「憂鬱?」

 線路に飛び降りた坂口さんを助けた翌日の朝、私は学校に行くのが嫌で仕方なく、遅刻ギリギリの時間帯に家を出た。

 何故、学校に行きたくなかったのかと言うと、やはり昨日の出来事の所為だった。

「また噂が広まってるんだろうなぁ……」

 病院から学校に登校した私を待っていたのは、自ら線路に飛び込んだ人という、病んでる人を見る奇異の視線だった。

 元々からしてクラスメイトと親しくしていなかったから、言う程の環境の変化は無いのだけれど、それでも注目されるというのはそれだけで疲れてしまう。また、それをカバーしてくれる友人がいないというのも痛い。目立たず地味に生きてきた弊害が、こんなところで出てくるとは思いもしなかった。

「ハァ……学校休みたい……」

 溜め息を吐きながら歩いていると、十字路に差し掛かる。ふと目を上げると、目の前の右折する道の角に花束やお菓子、玩具が置かれていた。それらは私が高校に進学する前から、毎日通るこの場所に置かれているものだ。

「一ヶ月くらい前だっけ」

 今から約一ヶ月前に、この場所で交通事故があった。小学生の女の子がランドセルに下げていた小さな縫いぐるみを落としてしまい、拾おうと道路に飛び出したところを轢かれてしまったという話だ。考えてみると、昨日の私も一歩間違えば同じようになっていたかと思うとゾッとする。学校での迷惑な噂話の件もあるし、やっぱり危ない事は避けるべきだなと、私が心に決めた瞬間、横から小さな人影が飛び出した。

「きゃっ!?」

 既のところでぶつかるのを私が避けると同時に、車のクラクションが聞こえた。どうやら正面から走ってきた車が、今の人影に向かって鳴らしたものらしい。

 左の路地を見ると既に人影の姿は無く、車もそのまま通り過ぎて行った。

「危ないなぁ……」

 飛び出してきたのは小学生くらいの子供だったように見えたけど、ここではよくある事でもあった。実際に交通事故の後も何度かそういう場面を見かけたが、つい最近、事故があったにも関わらず飛び出す子供がいると思うと、教訓というものを人に伝える難しさを感じずにはいられない。

「あぁ、そうだ。私も急がないと」

 しかしながら、自分もギリギリの時間に登校している身という事もあって、今の子供程ではないにしても、学校に急がないといけなかった。焦り過ぎず、迅速にを意識しつつ。

 だからこの時の私は、この後に待っている展開をまったく予想していなかったのであった。

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