第34話「不思議な同級生」
白い天井を見上げながら、私はボーッと物思いに耽っていた。
「何だか、大袈裟な事になっちゃったな……」
今朝、坂口夜娃華――坂口さんを助けた私は、彼女と一緒に病院へ連れて来られた。
身体は擦り傷程度の怪我しかしていなかったが、念の為という事で診察を受けたのだけど、やはり大した問題は無く、坂口さんより先に解放された私は一人、病院の待合い室に置かれた椅子に座って暇を持て余していた。
お母さんにこの事を連絡すると、特に問題無いならそのまま学校に行きなさい、と娘を心配する心は無いのかという無情な言葉を貰ったけど、元々放任主義の人だし、こうして生きているのだから大丈夫だろうという判断をしたのは今までの経験から察せられる。
「坂口さんの方も親は来ていない、か」
先程から入り口の方に目を遣っているが、それらしき人が来た様子は無い。聞いた話だと、電車の運行を止めてしまった件は坂口さんの親が話をつけてくれるらしく、ここに来ないのはそういった理由からなのではと考えたりする。
「坂口さんの家って、お金持ちなのかな」
こういう時は莫大な金額を請求されると耳にした憶えがあるけど、それをどうにか出来るというのは相当なお金持ちなのではと考えずにはいられない。
「私自身はあまり興味が無いけれど、どうやらそうらしいわよ」
「っ!?」
不意に背後から喋りかけられ、私は思わず身体を跳ねさせる。
「やっと終わったわ。まったく、大袈裟だと思わないかしら」
「坂口さん……」
軽く伸びをし、欠伸をする坂口さん。そんな仕草なのに、美人の坂口さんがすると絵にしてしまいたいくらい嵌っていて、羨望と緊張が同時にやって来る。
「そっちは大分早く終わったみたいだけれど、もしかして私を待っていてくれたのかしら」
「あ……まぁ、そんな感じで……一応、坂口さんが大丈夫なのかも気になったし」
大した怪我をしてはいないようだったけど、実際に診てもらわないと分からないし、何より、線路に飛び込むなんて心理状況の人が心配にならない筈が無かった。そんな風に考えた私を、マジマジと坂口さんが見つめてくる。
「えっと……な、何?」
「いいえ。ただ、私が線路に飛び込んだ理由を勘違いしているんじゃないかって思ったの」
「勘違い? それって――」
「夜娃華さん。そんな所にいたのね」
どういう意味? と聞こうとしたその時、坂口さんの名前を呼びながら、30代くらいの女性がこちらへ近づいて来た。おっとりとした雰囲気を纏ったその女性は、心配するかのように坂口さんの顔を覗き込む。
「大丈夫? 急に線路へ飛び込んだと連絡が着て心配したのよ。怪我は無いのよね?」
「そういう風に連絡があったでしょう。私は無事だって」
「でも、やっぱりこの目で確かめないと。あなたは――」
「分かっているわ。こちらが別に気にしなくていいと言っても、そうしてしまうのは」
坂口さんはそう言うと、私の方を見て口を開いた。
「わざわざ待ってもらっていたのに、どうやら私は家に帰らないといけないみたい。ごめんなさい」
「え、ううんっ。私は別に――」
「そう。ありがとう」
口にすると同時に、坂口さんはこちらがドキリとするような笑みを浮かべ、手を振る。反射的に手を振り返した私に向かって、彼女は言う。
「それじゃあ、また学校で会いましょう――夕花」
「え」
戸惑う私を置いて、坂口さんは迎えに来た女性と一緒に病院を後にする。
「また会いましょうって……」
分からない事ばかりだ。今の言葉の意味も、坂口さんが飛び降りた本当の意味も。
「何だか疲れたかも……」
あまりにも唐突な出来事が一日の間に起こり過ぎて、私の脳はとうに許容量をオーバーしてしまっていた。考え込んだその時の私は、思考を放棄するという結論に落ち着いたのだった。
しかし、この時から既に私は、坂口さんの運命みたいなものに巻き込まれていたんだと思う。それを良かったと捉えるのか、運が悪かったと後悔するのか、まだ結論は出ていない。
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