第31話「閑話3・幽霊列車③」

「此処って……駅のホーム?」

 暗闇の中で浮かび上がってきたのは、私がいつも通学で利用している駅だった。

 まるで映画でも見ているかのように、何もない筈の空間に映し出されたその映像を私達は見ていた。

「どうしてこんなものが……」

「それは私にも分からないけれど、一先ずは続きを見てみましょうか」

「う、うん」

 夜娃華に言われて、私も大人しく映し出された映像を注視する。そうしていると、少しずつ映像の詳細が分かってきた。

 映っている人達の姿から、時期はおそらく春頃と予想出来た。時刻は朝で、多分通勤や通学の時間帯。制服を着た学生や、年代も様々なスーツを着たサラリーマン達が電車を待って列を作っている。

 その光景は私のよく見慣れたもので、そんな極当たり前の光景の筈なのに、何故か私は胸がザワザワと締めつけられるような感覚を覚えた。

 どうしてこんな感覚になってしまうのか。それは、次の瞬間に現れた映像でより強くなる。

「私が居る?」

 浮かび上がった映像に私の姿が映り込んだ。私はドラマか何かのように第三者視点から私を見ている。

 それはとても違和感のある光景で、何なら薄気味悪さすら感じるのだが、私は堪えながら映像を見続けた。

 映像の中の私は学校の制服を着ていて、なるべく人と目を合わさないようにしながら、時折スマートフォンを見て時間を確認している。それはよくやる私の癖で、人と目を合わせたくないという考えと、その事を悟られたくないという考えが合わさった凄くマイナスな感情から生まれた癖だ。

 普段なら学校に着くまでそうやってやり過ごす私が、ふと顔を上げて目を見開く。まるで何かを見つけたかのように私の視線が一方に引き寄せられ、固定された。

 その視線を追うように映像の中の視点が回り、私の視線の先を捉える。そこには――

「坂口、さん?」

「……」

 私が並んでる列。私の位置から少し前に立つ夜娃華が居る。思わず呟いた私とは対照的に、夜娃華は沈黙したままその光景を見ていた。

 映像内では夜娃華に気づいた私が彼女の姿を追っていて、その一挙手一投足に私の視線が吸い寄せられている。

 私は、この光景を知っている。

 私と坂口さんが、初めて出逢った日。

 だったら、この後の展開も知っていた。

 もう少しで電車が駅に到着する。そんなタイミングで動き出した夜娃華が線路に飛び降りた。

「っ!?」

 その後を知っているのに、思わず息を呑み、僅かに手を伸ばしてしまう。

 映像内では線路に飛び降りた夜娃華を追って私が飛び降り、次の瞬間に電車が急停車した。

 映像では見えないが、この時の私は線路内の夜娃華をホーム下の避難用スペースに引っ張り込んで九死に一生を得たのだ。

 そこまでで映像は跡切れ、再び暗闇が辺りを包んだ。

「ハァ、ハァ……今のは、何なの?」

 その時になって初めて、私は自分が息を切らせて緊張している事を自覚した。多分、その時の事を思い出して身体が勝手に緊張状態に陥ってしまったんだろう。

「あれって、私達が初めて逢った日だよね? どうして、そんなのが……」

「何となく予想はつくわ」

「本当? じゃあ、どうしてあの時の事が映し出されたのか坂口さんには分かるの?」

「まぁ、落ち着きなさい。多分、次が来るわ」

「次? 次って、何が――あっ」

 妙に落ち着き払っている夜娃華に話の続きを求めようとした私は、再び暗闇に映像が浮かび上がった事に気づいた。

 そこに映っていたのは――

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